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第25話 基礎ステが高いやつに凡人の気持ちは分からない

 そういえば、友人を家に招くなんて小学校の時以来だな。

 あの頃家に遊びにきていたやつと言えば……莉愛くらいしか思いつかないな。

 家が近所ということもあって、遊びに来ると言うか日常的に入り浸ってた、という方が正しいかもしれない。


 それを考えると、今回のことは俺にとって未知の体験だった。

 気心の知れた相手でもあるし、経緯が経緯で半ば押しかけられるように家に来ることが決定したのもあって、特にもてなす準備はしていないが……まあいいだろう。


 とはいえ偶然、そう……偶然冷蔵庫の中にはキンキンに冷えた麦茶やジュースがあるし、冷凍庫にはアイスのバラエティーパックが未開封のまま残っている。

 大吾辺りがぎゃいぎゃい言い出したらこの辺りの品を出せば大人しくなるだろう。


 いつもより若干気分がふわふわとしている気がするが、まあそれも気のせいだろう。

 いつも通りの時間、朝六時を過ぎた辺りからいつも通り俺は勉強を開始した。

 勉強会があるからと言ってそれまでの時間を無駄にしていいわけがない。

 むしろこの時間を有効活用することこそが、レベルの高いプレイヤーには求められる、多分。


 習慣というのはこういう時に役立つもので、一度勉強を始めてしまえば雑念は自然と消えていった。


「っと、もうこんな時間か」


 気付けば、もうすぐ十時。

 大吾たちが家に来る時間が近づいてきていた。


 三人は十時に家の最寄り駅に集合して、そこから家に来ることになっている。

 それを考えると、家に到着するのは大体十時半前だろう。


 俺は勉強を切り上げて、ちょうど起きてきた莉愛と一緒にリビングを勉強会用にセッティングすることにした。


 リビングのソファを端に避けて、五人分のスペースを確保する。

 物置からクッションを引っ張り出してきて並べれば簡易勉強スペースの完成だ。

 

「マコくん、これだとちょっと狭くないかな」

「うーん……確かにそうかもな。それだったら普段飯食ってるあの机も使えるようにしておくか」


 言っては悪いが、家はそこまで広いわけじゃない。

 高校生五人が集まると、それだけで結構な割合のスペースが占領されてしまう。


「まあその辺はあいつらが来てから考えるか」

「そうだね、そうしよっか」


 あらかた準備を終えてLIMEのグループをチェックするとどうやら、もう最寄り駅にはついているらしい。

 『もう向かって大丈夫?』というメッセージに『OK』とスタンプで答えた。


 この分だとあと数分で到着しそうだ。



※ ※ ※


 果たしてその予想通り、十時半前になると家の前でやいのやいのと賑やかな声が聞こえ、程なくして、ピンポーンとインターホンがなった。


 どうやらご到着のようだ。


「俺が出てくるよ、莉愛は待っておいて」

「え、私も行くよ」


 ということで二人揃って出迎えることになった。


 ドタバタと玄関に向かい、ドアに手をかける。

 むわっとした九月とは思えない熱気が侵入してきた。

 今日も真夏日らしい。


「いよ! 来たで」

「お邪魔します」

「今日はよろしくね」


 ドアを開けると、教科書とかが入っているのかそれなりに大荷物を持った三人がいた。


「暑い中お疲れさま。とりあえず入ってよ」


 暑さのせいで、一刻も早く扉を閉めたい衝動に駆られて急かすように三人を招き入れる。


「莉愛もこんにちは。私服はこんな感じなのね。似合ってて可愛いわ」

「えへへ……ありがとう。バイト先の友達に選んでもらったんだ。志乃も大人っぽくてカッコイイなぁ~」

「ありがとう、莉愛にそう言ってもらえるのは光栄ね」


 なんて微笑ましい会話が繰り広げられる一方で、


「なぁ誠。外あつうて汗だっくだくやねん。クーラーちゃんと効いてんねやろうなぁ? あ、あと冷えた飲み物とかないんか?」

「来て早々うるさいし、遠慮が無さすぎるだろ」

「なんや、ないんか?」

「いや、あるにはあるよ。怜央もどうだ?」

「あ、本当? なら僕もお願いしようかな。実は僕も喉カラカラだったんだよね」


 大吾はこの怜央の奥ゆかしさというか大人な対応を少し見習ってほしいものだ。


 ワイワイとはしゃぐ皆を連れて、リビングへと案内する。

 すると大吾が驚いたように


「なんや、綺麗にしとるやんけ」


 と感嘆の声を漏らした。


「このくらい当然だろ」

「でも、一人暮らし言うから掃除とか……普通せえへんのとちゃうん?」

「偏見が酷いな。それに一人暮らしじゃなくて莉愛もいるからな。その辺は分担できるから助かってるよ」

「あーそやったそやった。ってなんやいちいち腹立つな~」

「敏感すぎるだろ……」


 用意したスペースは教科書を五人同時に広げるのは狭かったので、食事用のテーブルも合わせて、男女で二組に分かれることになった。


 最初の三十分くらいはいつもとは違う環境にテンションが上がっているのか、はしゃぐばかりで全く勉強にならなかった。

 それでもさすがに十一時になる頃には、そろそろ始めようか、ということで各々教科書を開いて集中し始めた。

 この切り替えの早さはさすが、言うべきだろうか。


 ……教科書をめくる音と、ペンの音だけが響く。

 正直全く勉強にならないと思っていたが、本当に勉強する気はあったようだ。

 時折小声で質問しに行く人こそいたが、それ以外は私語もなく、それなりに緊張感のある空気が漂っていた。


 大吾辺りは真っ先に騒ぎ出すんじゃないかと思っていたが、本当に勉強していなかったのか若干青い顔をしながらガリガリと一心不乱に問題を解いている。


 そのまま時間は過ぎ、あっという間に時間は十二時を回った。


 ちょうどその段階で志乃が立ち上がると、若干不服そうな顔で大吾の肩をトントンと叩いた。

 どうやら分からない所があるらしい。

 大吾に聞く、となると……数学の問題だろうか。


「なんや」

「この問題が分からないんだけど……あんたなら分かる」

「ああ、この問題やったらここに補助線引いて公式あてはめたらしまいやん」

「あー、確かに。でもこれだから数学は嫌いなのよね。何この補助線。どうやって思いつけばいいのよ」

「そんなん図形の出したい所から逆算して、必要な所に線引けばええねん」

「それができたら苦労しないのよ!」


 あ、始まったな。

 こうなったらあとはヒートアップしていくだけだ。

 ちょうど時間も昼飯時だし、この言い争いが終わったら休憩にしようかな。


 言い合いが罵倒に変わり始めたところで、自分の問題を解き終えたらしい怜央が「ちょっと見せて」と二人の間に割って入った。


「ああ、この問題なら授業でやった……この問題と、この問題を組み合わせたやつだから……こっちの方を参考にすれば解けるんじゃない?」

「なるほど……? って本当じゃない。これなら何でこう補助線が引くのがが一目瞭然ね。さすが怜央くん、初めから怜央くんに聞けばよかった」

「なにおぅ!?」


 数学が得意なやつにありがちな現象だ。

 『何故分からないのか分からない』

 基礎ステータスがぶっ飛んでるSSRなやつには凡人の気持ちなど分からないのだ。

 大吾が一目で解いたあの問題……俺理解するまでに一時間以上かかったんだけどな……。

 やはり数学は理不尽だから嫌いだ。才能の存在をありありと実感させられる。



 さて、うるさくなって集中が一旦途切れたことだしそろそろ昼食でも挟んで……。

 なんて考えていた所で、先ほどからウンウンと唸っていた莉愛がパタリと倒れた。


「莉愛、どうした? どこか分からないことでもあったのか?」

「マコくんどうしよう……」


 その声は切実で、切羽詰まっていて……明らかに焦っているのが分かった。


「私、今回のテスト赤点だらけかもしれない……」


 なるほど……確かにそれは一大事だ。


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