第24話 俺の周りにいるのはSSRキャラばかりだ
あの後、大吾の大声を聞きつけた先生がやってきて、事情を話したことにより各クラスに注意が入り野次馬問題は一日にして完全に解決してしまった。
志乃曰く、「こうなることまで全部予想通りよ」らしいが、さすがにここまで計算して計画を実行したのかは疑問の残るところだ。
それでもいい方向に転がったのだからまあ、そういうことにしておこう。
翌日になると、教室の外では未だに好奇の目に晒されてしまうものの、教室という明確な安全地帯が誕生したことにより、俺たちの心理的ストレスは大幅に軽減された。
そのおかげで、莉愛が転校してきてから三日目、水曜日。
莉愛はもうすっかりとクラスに馴染むことができた。
大吾たちが尽力してくれたことは言うまでもない。
借りができてしまったな……。
そしてその日の昼休み、すっかり落ち着きを取り戻した教室で、大吾が焦ったようにくぐもった声を漏らした。
「テストが……やばいねん」
そう、来週には期末テストがあるのだ。
改めて言うと二学期制のこの学校では、期末試験が九月の夏休み明けすぐに行われるのだ。
でもそれってさ、三学期制に比べるとテストの回数減ってるんだからよくね?
そう思うかもしれない。
でも残念、ここは進学校。そんな性格の良いことになるわけがない。
中間試験と期末試験の間には、範囲無制限の実力テストがあるのだ。
前回の実力テストはまだ範囲が狭かったからよかったが、二年、三年と学年があがるにつれて、どんどん範囲が広くなっていく。
想像しただけでもきつい。
それを考えたら範囲が指定されている定期テストが楽に思えてしまう。
「僕も……夏休みもっと勉強しておけばよかったなぁ」
「私も今回ちょっと自信ないのよねぇ……特に英語」
「俺は全部や」
「なんでそんなに誇らし気なんだよ……」
テスト前のありふれた会話だ。
ただ、一点タチが悪いのはこいつらは全員SSRキャラで基礎ステータスがアホみたいに高いということ。
一見おバカキャラに見える大吾は、中間テストも実力テストも数学が満点というバケモノだ。
それでも他の教科は平均点よりちょっと上、程度だからまだ許せる。
だが、志乃に怜央。おめーらはダメだ。
志乃は文系全般でほぼほぼ満点に近い点数をたたき出す上に他の教科も八割を下回ることがない秀才。
怜央に至っては学年総合トップ10位だ。全く非の打ち所がない。
怜央がガリ勉、とかならまだ納得できる。
実際は俺より少ないものの結構な頻度でバイトをしているし、たまに部活の助っ人にだって入っている。
なのにどうして……そんなに点数が高いんだ。
ちなみに俺はといえば……テスト関係なく【生田誠】の育成の一環として習慣的に勉強をしている甲斐あって暗記科目では毎回のように満点に近い点数を叩き出せる。
ただそれ以外は……突出した科目が何もない。
「ねえ莉愛、莉愛って英語話せたりするの?」
「うん、話すだけだったらできるよ」
「バイリンガルってやつやな。俺と同じで」
「関西弁を外国語認定すんなよ」
何サラッと同調しようとしてるんだこいつ……。
「お願い、英語の勉強ちょっと見てくれないかしら」
「う~ん……私ができるのは英語っていうか英会話だから……」
「それの何か違うの?」
怜央が不思議そうに頭に疑問符を浮かべながら莉愛に問いかけた。
「全然違うよ! 私長文読解ならいけるけど文法は感覚でやっちゃってるからあんまり自信ないんだ」
「あー、大沢に現代文のこと聞いたら『文章に答え書いてあるじゃない』って言ってたけどそれと似たようなもんなんかな」
「もしそ私の真似なんだとしたら大変不愉快なんだけど、それ」
「いやいや、この澄ました感じとかそっくりやろ、なあ?」
同意を求めるな、答えづらい。
声も雰囲気も誇張されててお世辞にも似ているとは言い難いが、特徴は掴んでいるため志乃が実際にその言葉を言っている様子が想像できてしまうのがタチの悪いところだ。
いつもの通りやいやいと言い合い、もといじゃれ合いを始めた二人。
ヒートアップしてきてそろそろ怜央が仲裁に入るかな、という所で大吾が何か思いついたように手をポン、と叩いた。
「そや、勉強会やろうや」
「え?」
あまりにも突然の提案だ。
会話の温度差で風邪をひきそうになる。
「いやな、俺ら全員いい感じに得意科目バラけとるやん。だから全員で集まって勉強したらめっちゃええ感じになるんちゃうかな~、って思ってん」
「あら、大吾にしては悪くない提案じゃない」
「せやろ? だから今週末、集まって勉強会するんはどうや?」
勉強会、その言葉の聞こえはいいが……勉強会が勉強会になる未来が想像できない。
体の良い遊びの誘いにしか聞こえないのだが……。
「やるんだったら……僕も参加させてもらおうかな」
まさかの怜央も賛成、これで過半数だ。
実質俺の拒否権は無くなったと言える。
あとは俺と莉愛の返答待ちだが、恐らく莉愛は……
「私も……やってみたいかも」
そうくるよね、分かってた。
「私、勉強会とか……みんなで集まって何かするのって初めてだから、嬉しいな」
そしてその言い方はズルいなぁ……。
さて、後は俺だけだ。
ここで断ろうもんなら空気の読めないやつ扱いされてしまう。
コミュ力高めで世渡り上手な【生田誠】ならどっちの選択肢を選ぶべきか。
答えは明白だった。
「俺も、参加するよ」
イエスの選択肢しかないだろ、こんなの。
「よし! そんなら決まりやな。ワンフォーオール、オールインワンで頑張ろうや」
「大吾、それじゃ化粧水だ」
「さすが、誠。鋭いツッコミありがとうな。コンビ組もうや、コンビ」
「お断りだよ」
「なんやノリ悪いなぁ~」
このグループではボケ倒す大吾にツッコミを入れる担当は俺、という謎の役割分担が成立してしまっている。
甚だ不本意だ。
「それで……日時と、それに場所はどうするの?」
「日時は……日曜でええんとちゃうか? どや?」
「僕はどっちでも問題ないよ」
「俺もだ。ここ一週間はバイトのシフト入れてないからな」
「私も、どっちでも大丈夫」
テスト前の週末。
予定がある人の方が少ないだろう。
全員が参加できるのは偶然ではなく、ある意味必然と言えた。
「だとしたらあとは場所ね。ファミレス……だと長時間は難しそうだし……」
「それやったら目星つけとるで」
「ほんと? 大吾にしては無駄に準備がいいじゃない」
「無駄に、は余計や大沢」
またしても言い合いになって話が脱線する前に割って入ることにした。
それにしても……休日に長時間、この人数が滞在できてなおかつ勉強に向いている環境が整っている場所……そんな所あるのか?
「それで、目星付けてるってどこなんだよ」
待ってましたと言わんばかりに大吾がニヤリと笑った。
「誠、お前の家や」
「は?」
「もっかい言ったるわ。誠の家や」
こいつ正気か?
冗談じゃなくて本気で言ってやがる。
「おい、そんな急に言われても……準備とかが」
「お? 誠、何の準備や?」
「何って……人を招くにはそれなりに準備とかする必要があるだろ」
「ほー、ほんまにそれだけか?」
「は?」
言わんとしている意図が分からない。
何で大吾はこんな訝しむような目を向けてくるんだ?
「別に! 莉愛ちゃんと同じ家に住んでるからいうて! 何か人を招かれへんっていうやましい理由があるはずないから別にかまへんよなぁ!?」
「いや別にそんなのはないけど……」
なるほど、これが狙いか。
単純に莉愛との一見をまだ根に持ってやがったのか。
根に持つ男はモテないぞ……。
いやでも、ここで莉愛が難色を示してくれればワンチャン……。
「莉愛ちゃんも、家使わせてもうてええか?」
「マコくんがいいなら、私は全然大丈夫だよ」
ですよねー。そうなりますよねー。
はぁ……他にちょうどいい場所も思いつかないし、仕方ないか。
「分かったよ。だったら日曜、家に集合な。言っとくけどもてなしはできないからな」
「「はーい!」」
リビング以外にはあげさせないつもりだが……一応、部屋も片付けとくか。
別に変なものなんて何一つないんだけど。




