第10話 会話に詰まると共通の話題に逃げがちだ
「──というわけなんだが、どうだ?」
バイトから帰宅した俺は、今日舞衣から言われた「買い物に一緒に行かないか」という提案について莉愛に話した。
よくよく考えてみたら本人不在で約束を取り付けるなんていうのはお節介でもしかしたら迷惑極まりないのかもしれない、とふと冷静になって考えたりもしたのだが、
「え、いいの? 行きたい」
当の莉愛はノリノリだったので完全に杞憂に終わった。
あれこれ先回りして考えた結果、要らぬ心配で胃を痛くしてしまうのは俺の悪い癖なのかもしれない。
「それじゃあ舞衣に伝えておくよ」
「へ~その子マイって言うんだ」
「そう、廿楽舞衣。高校は違うけどバイトでシフトが一緒になることが多くてさ。それで仲良くなったってわけ」
「どんな子なの?」
「どんな子……って言われると難しいな」
莉愛の素朴な疑問に俺は言葉を詰まらせてしまった。
人物像なら把握してはいるものの、それを言葉に変換するとなると話は別だ。
ツンデレ、とかマイペース、とか人を記号化された言葉で表すというのは結構難易度が高い。
かと言って具体例を挙げてグダグダ説明するのもめんどうだ。
それに百聞は一見に如かず。
実際に会ってみるのが何よりだ。
「会ったら分かると思うけど、すごくいいやつだよ。多分、莉愛と話のテンションも合うと思う」
これまた完全に勘としか言いようがないが、舞衣と莉愛は結構波長が合うと思っている。
お互い人見知りをする方でもなさそうだし、下手なお見合いみたいに会話が詰まるという事もないだろう。
まあ万が一そんな状態になったとしたら俺が間に入ればいいだけだ。
今から話題に困った時用の会話デッキをくみ上げておくか。
「てことはラリコたんの話もできたり!?」
「分からんけど……多分知らないと思うぞ」
完全に偏見だが、舞衣はアニメとかよりドラマ派な気がする。
盛り上がるとしたらどんな話題になるか……。
シュミレートしているうちにふと最悪な可能性に思い至った。
話題が円滑に回るには話役と聞き役が必要だが、その限りではない場合もある。
それは即ち、お互いが話役になれる時、つまり共通の話題がある時。
なら二人に共通する話題と言えば何か?
そう、俺についての話題だ。
互いに俺という人間について知っているが、それぞれ知らない場面がある。
莉愛はバイトの時の俺の様子を知らないし、舞衣は過去の俺、トラウマの小学生時代について知らない。
会話が行き詰った時に舞衣が、
──そう言えば、昔の誠ってどんな感じだったん?
軽いパスのつもりで出した一撃が俺の心を抉り取る可能性がある。
そこで、莉愛が
──昔のマコくんてばイキっててね~
みたいな感じで、過去の話を暴露されたら恥ずかしさのあまり公共の場でのたうち回って更に恥を晒す事になってしまいかねない。
そう、俺には自分を物語の主人公だと勘違いして振る舞っていたイタい過去があるのだ。
いやいや、そんなの小さい頃のカワイイ思い出でしょ? なんて思うかもしれないが……俺にとってあの時代のエピソード一つ一つが胸を抉る地雷なのだ。
小学校の飼育小屋の裏の廃材置き場に秘密基地を作って、悪の組織を探す冒険をしたこと。
サッカーの試合で負けている時に、保護者も見ている前で
──いいか、俺達の流した汗は俺達を裏切らない!
と大声で豪語したこと。
ああ、思い出すだけでも胸が軋みをあげて胃がキリキリと痛む。
どうして過去の俺はこんな恥ずかしい事を平気で……
「マコくんどうかした? 顔色悪いよ?」
しまった完全に自分の世界に入っていた。
莉愛の声で俺は我に返った。
見れば心配そうな顔で莉愛が俺の顔を覗き込んでいる。
「あ~……いや、そう! ちょっと今日のバイトが忙しくてさ。疲れてるのかも」
「あんまり無理しちゃダメだよ? マコくんいつも忙しそうにしてるし」
忙しいのは間違いないが……それは俺が勝手に忙しくしているだけだ。
どうしようもなく凡人な【生田誠】を強キャラに育成するために無駄にできる時間は存在しないから。
普段からテスト前だけど、別に慌てたりしてませんよ? みたいなノリの余裕ある素振りに見えるようにしていたつもりだが、キャラ作りが甘かったらしい。
「う~ん……そんなつもりはないんだけど、心配させちゃうなら俺もまだまだだな。ちょっと風呂入ってくるよ」
「うん、ごゆっくり~」
もっと完璧にプレイヤーに徹しなければ。




