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UFDS・従野ひより

 スピーチの少し後。


「従野か」

「うっす。ヤコセンと?」

「ああ」


 二年の校舎で階段に登ろうとしていた神崎を見つけて声をかけた。何をするかは予想がついている。キスアンドダイだ。


「先に行くぞ」

「こんな時くらい普通に喋ったらどうなん?」

「それほど変わらんだろう。今は星もいるからな」

「あー、なる」


 幽霊がいるんじゃ、こういう込み入った話をしたくないって神崎も考えているんだろう。

 私としても同じ気分だし、そこは神崎も変わらんっぽかった。

 幽霊は知っているのだろうか、ずっと一緒にいる神崎が何を考えているのか。




 神崎美空は死生観がぶっ壊れている奴だった。


「おかあさん死んじゃったし、わたしも死のうかな」


 幼稚園の頃、四歳か五歳か、本当に苦労させられた。殺すとか死ぬとか小学生中学生が言うから可愛げがあるってもんで、高校生が言ってるとイタイし、幼稚園児が言うと怖い。

 

「し、しんだらだめだよ」

「でもおかあさん、いっぱいちゅーしてくれたのに」

「じゃあ、わたしがするから!」


 私は死ぬのは怖いし美空にも死んで欲しくなかったからとにかく頑張っていたことは覚えている。

 クラスのやつから散々変な目で見られることも我慢したし、死ぬほど苦手な勉強も死ぬほど頑張って神崎と同じ聖桜高校に入学するほどに成績を伸ばした。


「ひよりちゃんもいっしょに死のうよ」


 それが、本気で大事な人にしか言わない愛の言葉だと、私は理解しながらも拒否した。

 それじゃきっと美空は幸せになれない、そう思っていたから。


 物心がついて落ち着いてくると、流石に美空もそんな物騒なことは言わなくなったし、私も美空も今のようにだいぶ擦れていた。いやマジ、逆にあんな純粋な時期があったんだってハズいし。

 美空の方は死ぬとか死なないとかは言わなくなった割に、気持ちは昔から変わっていないも同然だった。今更急いで死ぬ理由もなければわざわざ生き続ける理由も特にない、宙ぶらりんに生きているだけの、私とキスをするのを楽しんでいるような状態だった。

 私はとにかくあいつがこの世を嫌にならないように気を回していた。何だってした。自分が嫌いになることはあっても、私が美空を嫌いになることはなかったけど。


 従野家は代々神崎家に仕えていると、私のお母さんや、美空のお婆さんはよく言っていた。それだけ神崎家というのは古くからの権力があって、私の家系はそれに助けられてきたとか。

 そんで、私のお母さんは美空の母親が事故死したその日に自殺した。


 知ったことではない。神崎の家も従野の家も関係ない。

 けれど私がしたいことは結局のところ死んだ母と一緒であるらしい。


「おーおー、すごいな忍者」


 影山が屋上から三階、二階、一階と窓を伝って落ちてくるのを見ながら、私は汚れも気にせず地面に寝転がった。

 上から美空が落ちてくる。

 私の真上にいる美空は、奇しくも私と同じ姿勢で空を見上げていた。やっぱ私は、あんまりこいつに意識されないなぁ。

 誰も美空が私に落ちてくるのを止められない。

 私にとっては最後でも、幽霊が見えて、喋れて、幽霊になると信じ切っている美空にとっては最後じゃない。

 何より、ようやく美空の思う通りにことが運んだことに私は安心していた。

 美空を死なせまいとすることが正しいと信じていたけれど、それが美空の望みを叶えないで居続けていることに、いい加減嫌気が差していた。

 最後にヤコセンを生徒会長にして、報いたつもりだ。

 あとは、私もついていけば万々歳。

 美空が好きなようにしたんだから、私も好きなようにしたよ。

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