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9月 ―5―

「やりたいこと?」

 何だろう? 思い当たることが無いな。

「彩ねえ。兄ちゃん、微塵も思い当たる節がないみたいだよ」

「今更って感じはあるけど、これは悔しいわね。私はずっと気にしてたのに……。せめて、ライブの前にはと思って来たのに……。帰ろうかしら」

「ちょっと待って。思い出す。思い出すから」

「うわぁ。兄ちゃん、自分で覚えてないことを認めたよ」

 覚えてませんでした、ごめんなさい。……えっと、なんだろう? 俺が一緒じゃないとできない?

 悩んでいると、アリアちゃんが自分を指さしている。

「あたし、あたしが言ったんだよ?」

「アリアちゃんが……? ……あ!」

 わかった。確かに今更だな。でも覚えててくれたのか。

「ごめん、思い出した」

「本当かしら? なら言うことがあるんじゃない?」

「忘れてて、ごめんなさい」

「違うよ、兄ちゃん。それは空気読めなさ過ぎだよ」

 え? 間違えた?

「も、もう一回チャンスを!」

「次で最後ね。間違えたら今日はもう帰るわ」

 そうは言うものの、彩さんの顔が笑っている。謝るんじゃないなら言うことは一つ。さすがにここで間違えはしないさ。

「彩さん、二ヶ月も経ってしまったけど、俺と歌って下さい」

「良く出来ました。こちらこそお願いするわ」

 そこまで言うと彩さんの笑顔が、呆れ顔に変わる。

「それにしてもダメダメね、太郎さん。アリアにフォローしてもらってるし。彼女が出来たら、もう少し頑張った方がいいわよ」

 佐橋さんに引き続きダメダメって言われた……。

「……努力します。でも、確か仲良くなるためって話だったから、もう必要はないし」

「いい訳するんだ。折角、綺麗に収まるはずだったのに」

「いや、綺麗に収めるつもりなら、彩さんの最後のもいらなかったよね?」

「兄ちゃん、今、ダメダメ度が絶賛急上昇中……」

 そんなはずは……。いや、ほら、イエスマンじゃ面白くないって言っていたし。

「まだ何か言い足りなそうね。何を言ってくれるのかしら?」

「曲は前回と同じのでいいですか?」

「兄ちゃんが逃げたよ。敵前逃亡は罪が重いってジョージが言ってたよ?」

 俺にどうして欲しいの? というか、何言ったって似たような反応しか返ってこないじゃないか!

「敵前って。少なくともアリアちゃんは俺を敵だと認識してたのかな?」

「そんなことないよ。ただ、兄ちゃんの心情的にはそうかなって」

 アリアちゃんと話してると曲のイントロが流れ始める。彩さんを見ると、曲の送信を終えていた。俺の視線に気づいて、口を開く。

「前回と同じ曲よね?」

 あってるけど、どうして何も言わずに曲入れてるの?

 彩さんは、たまにこういうことするんだよな。二ヶ月過ごして、良くわかった。フリなしで動き出すというか。麗華さんの相手をしているのもあって割と慣れたけど。

「えと、うん」

 一応、疑問形だったので答えるとマイクを差し出してきた。前回はここで、佐橋さんに止められたのだったか。今回は問題なさそうだ。


 歌い終えると、彩さんが言う。

「太郎さんと会って、私の契機になったから。あの日にやり残したこと、そのままにして置きたくなかったの。やり残しがあると完全に変われない気がして。時間経っちゃったけど、ちゃんと出来て良かったわ」

「うん。えと、俺もやれて良かったと思う」

「忘れてたくせに?」

 彩さんが茶化すように言う。

「いや、えと、思い出したから」

「都合いいわね」

「でも、これでやり残しはないよね? 彩ねえは、今、どんな気分?」

「そうね。何だか変な気分よ。上手く言えないのだけど。フライングしたのに引き止められなくて、そのまま走っていたの。で、やっとスタートの合図がなるのがやっと聞こえるの。でも、ここまで来てしまったのに、誰にも文句を言われなくて。だったら合図は気にしないで、このまま走って行けばいいのかなって考えてる。そんな感じかしら?」

 そんな体験したことない。結局どんな気分なんだろう?

「すごくわかりづらいよ、彩ねえ……。まあ、合図が聞こえたのなら、それが何かの切っ掛けにはなるよね?」

 アリアちゃんが、彩さんから俺に視線を移して言う。

「そうだね。えと……」

「何かしら?」

 ここで、始まった。

 目標が、やることが明確になった。

 二人に会って俺の意識が変わって、俺自身も少しずつ変われた。

 今の俺は、きっと母さんが羨むような生活を送れている。

 だから、これからも続けていきたい。ただ続けるだけじゃなくて、もっと楽しんでいきたい。

 合図が聞こえてしまったから、それを、この場所で、決意として言葉に――。

「二人に会えて、俺は変われたと思う。でも、まだまだ変わる、変わりたいと思う。俺が、俺の周りに居る人が、楽しく過ごせるように。だから、これからも二人の傍で、……えと、いや、これからも、よろしく」

 只でさえ恥ずかしいことを言っているのに、何か、輪をかけて恥ずかしいことを口走りそうになったので無難にまとめる。

 それを聞いて、真面目な顔で二人が答えてくれる。

「そうね、楽しく過ごしていきましょ。こちらこそ、よろしくね」

「よろしくだよ、兄ちゃん。あたしとしては、最後までちゃんと聞きたかったけど、彩ねえがそう返すのならいいよ。まずは、学園祭だね」

 そう言って、二人が笑った。

この話で完結です。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

気の向くままに書いたものですので、欠点の多いものだったと思います。

長い話になってしまいましたが、皆さまのお時間を頂いただけの話になっていたならば良かったと思います。

結末は、学祭も考えましたが、終点を、始点に返したかったので、こういった形になりました。

それでは、またお目にかかる機会がありましたらお付き合いください。

次は、ファンタジーな何かが出来たらと思ってます。

Blissful Delightも短編で何か出せるのかもしれません。


最後にもう一度、ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

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