7月27日 ―20―
「ご馳走、様でした」
「ご馳走さん」
「ご馳走さまー」
「ご馳走様」
「あらあら、お粗末さまでしたー」
譲司さんが帰って来た時にはどうなるかと思ったが、無事に食事は終了した。
食事中に彩さんが今日のことを譲司さんに説明していた。まさか、こんなにあっさり説明が終わるとは……。先程あれだけ時間がかかったのは、俺が説明しようとしたのが一番の原因だったのではないだろうか。
今は、俺、譲司さん、アリアちゃん、彩さんがテーブルで話をし、麗華さんは食事の後片付けをしている。先程と同じように手伝わせてはもらえなかった。
「なるほど。太郎は次が試しという訳ではなく、『彩』でその後もやっていきたいと言う訳か」
「はい。そう、です」
食事が終わる頃には、譲司さんは俺のことを太郎と呼ぶようになっていた。俺も、譲司さんのことを譲司と呼べと言われたが、さすがに呼び辛いので譲司さんと呼ぶことにしている。
「そうか、じゃあ、一応太郎がいる内に次の話もしておこうか」
「あれ? ジョージ、しばらく何も入ってないって言ってたじゃん。依頼来たの?」
「ああ。アリア、お前、最近大学行ったか?」
「へ? うん、行ったよ。彩ねえとカラオケ行こうと思って迎えに」
彩さんを迎えに大学に? そうか、彩さん二十歳だし、大学生か。
「その時に、『彩』の話を誰かにしなかったか?」
「したかな? うん、確かしたよ。お姉さんがこんな所で何してるの? って聞いてきたから、『彩』の練習のためにカラオケに行くって、それで彩ねえを迎えに来たんだって。そしたら、『彩』って何って聞かれたから、簡単に教えたげたよ。その後でホームページあるから、そこ見れば大体わかるよって言っといた」
「たぶん、その姉ちゃんだろうな。なんか、学園祭の実行委員会っていうのか? そういうのやっているらしくて、ホームページの活動記録でも見たのか『彩』が活動した所を回って実際の評判を確認してきたそうだ。アリアのこと、べた褒めされたらしくてな。あと、アップしてる動画も見たって言ってたか。それで、九月末にある学祭で、ライブをやらないかと言ってきた。どうする?」
どこの大学だろう? 俺の通っている大学はそんな時期に学園祭をやるなんて告知出ていただろうか?
「やってみたいよ! 彩ねえくらいの歳の人が一杯いるんだよね? そんなの初めてだよ」
「でも、初めてってことは今までとは勝手が違うんじゃないの?」
「そうだな。今までとは全く毛色の違う曲を歌うことになるだろう。それに、今までよりも見に来る人の評価もシビアになるかもしれない。当然、やるからには失敗は許されない。それでも、やるか?」
「やるよ、当然だよ。それに、兄ちゃんがいるんだ。あたしだけじゃ不安だけど、兄ちゃんがいれば何とかなる気がするよ」
アリアちゃんが、こっちを見て親指を立てた拳をこちらに突き出してきた。
「太郎か。随分と買われているみたいじゃないか」
「買被り、に、終わらない、よう、頑張り、ます」
「買被りなんかじゃないわよ、太郎さん」
「それは楽しみだ。明後日は、悪いがアリアのおまけのような扱いでしか出してやれん。そこでしっかり証明してくれ」
「え? 新メンバーってことで出すんじゃないの?」
「それは次の大舞台に取っておけ」
「むー、わかったよ」
譲司さんの言葉にアリアちゃんが不満気に返す。まあ、俺としては、明後日はそれくらいの方がいいと思う。そんな風に思っていると、譲司さんが聞いてきた。
「太郎は大学生なのか?」
「えと、はい。今年、日坂大学に、入学、しました」
「なんだ、彩と同じ大学だし学年も一緒じゃないか」
「えっ? 太郎さんって浪人生だったの?」
「現役、です。何で、そんな疑問が……」
むしろ、こっちの台詞だから。
「ごめん、つい」
本当に、俺のことをどういう目で見ていたのかが、わかる発言だね。
「つい、で許されるなら、今まで彩ねえにあたしが叩かれた分はどうしてくれるの?」
「それはそれ、これはこれよ」
彩さんがしれっと答える。というか、許されることは前提なのか……。まあ、いいや。
「学祭って、九月、にあった、んだ。初めて、知った」
「何言ってるの? 太郎さん。メインストリートに大きな看板で告知されてたじゃない」
俺がおかしなことでも言っているかの様に、彩さんが確認を取ってくる。
「いや、見て、ない」
「太郎さん、最後に大学に行ったのは?」
「今日の、昼、だけど」
「メインストリートは?」
「通った、けど」
「何で見てないのよ! 嫌でも目に入るようになってたじゃない!」
「兄ちゃん……、周りに興味なさ過ぎ……」
「ごめん、なさい」
何で俺、謝ってるんだろう……。
「まあ、いい。それじゃ、依頼は受けるということで話は進めておくぞ」
「うん、頼むよ、ジョージ」
それから、麗華さんが戻ってきて話しに加わった。話の中で、俺と彩さんが大学、学年どころか、専攻も経営学で同じだったことがわかり驚いた。
俺が彩さんを見たことが無いと言うとみんな口を揃えて、「それは仕方がない。今度から、もう少し周りを見ようね」と優しく言った。その上、彩さんが俺のことが記憶に無いと言うと、これもまたみんなで口を揃えて、「ザ・普通だから、教室で複数人に紛れてしまえば、記憶に留まる訳がない。仕方ない」みたいなことを言いやがった。
後半の話しについては全面的に認めるつもりはないが、仕方ないとも思う。だが、この扱いの差は傷ついたよ!
こうして食後、初めて伺った家にて、一家が総出で俺の心をフルボッコにするという希少でありながら、二度とごめんこうむりたい体験をしたのだった。




