7月27日 ―19―
――カラカラ。
アリアちゃんとポスト政治家風回答を模索していると、店のドアが開いた。
「帰ったぞー。ん? 何で、店で飯の準備しているんだ?」
「おー、譲司だー。お帰りー」
「おー、ただいま、アリア――ってなんだ、横に座ってるのは! れ、麗華、アリアが、お、男、男を連れて来てる!」
「あらあら、どうしたの譲司さん。そんなに慌てなくても大丈夫よー」
「な! 麗華、何を言ってるんだ! もういい。アリア、その坊主に、何て唆されて家に連れてきた!」
「あらー、これは大変。彩ちゃん、失礼がある前に譲司さんを止めてー」
「はいはい。もう手遅れな気もするけど」
「坊主、確かにアリアは可愛い! だが、だからって、こんな小さい子供に声をかけて、挙句、家に上がり込んでくるとは一体どういうつもりだ。恥ずかしくないのか! このロリコン坊主! 待ってろ、すぐに警さ……」
譲司と呼ばれ、俺に捲くし立ててくる男の声が止まった。気付けば後ろに彩さんが立っている。
「まったく、父さん。太郎さんに失礼でしょう? 私達が頼んで来てもらったのよ」
「そうだよ、ジョージ。あたしが声をかけたんだよ。それなのにそんなこと言うなんて、兄ちゃんが可哀そうだよ」
この人の誤解を解くために色々言ってくれているのはありがたいのだけれど、たぶん、聞こえていないと思う。彩さんによって振り下ろされたお盆がまだ、この人の頭に刺さっていた。言葉が切れてから、一言も発していない。というか、白目を剥いていた。
彩さん、容赦ないな。あと、誤解のないように一つだけ言っておこう。俺はロリコンじゃない!
「彩ちゃん、ちょっと手伝ってくれないかしらー」
「わかった、すぐ行く。じゃあ、アリア。もう少しかかるから、また太郎さんとお話してて」
「わかったよ、彩ねえ。それじゃあ、兄ちゃん次は、……」
そう言って、彩さん、アリアちゃん、麗華さんさえも、何事もなかったかのように先程と同様の振舞いを始めた。
俺としては、今にも俺に襲いかかりそうな姿勢で白目を剥いて立っている男性が気になって仕方がない訳だが。この人が意識を取り戻すとそのまま俺が意識を失う羽目になるかもしれない。
「……兄ちゃん。無視するとはいい度胸だよ」
「えっ、えっと。い、いや、聞いてた、よ?」
「なんで兄ちゃんはすぐばれる嘘を吐くのかな?」
「ご、ごめん」
「まあ、いいよ。それが気になってたんでしょ?」
そう言って、壮年の男性を指さす。よく見ると、整えた髭と短髪が良く似合うダンディーなおじさまといった風貌の人だった。白目を剥いているが……。
「そ、それって……」
「気にしなければいーんだよ、兄ちゃん。置物か何かだと思っていればいーよ。それより、もっとお話しよ」
なんか、可哀そうになってきた。しかし、俺に随分なことを言ってくれたのも確かだし、彩さん達を見習うことにしよう。
「そう、だね。何の、話し、だっけ?」
しばしの雑談の後、彩さんと麗華さんがご飯を運んで来てくれた。
「お待たせー。さあ、食べましょうかー」
麗華さんの声の終わり。ついに俺の横の置物が目を覚ました。
「ん、何だ? 頭が痛えな。お、飯ができてるじゃないか。麗華、俺も食うぞ。それと、確かウチにロリコンが侵入していた気がするんだが知らないか?」
「準備してあるから、椅子を持って来てー。それと、そんな人は知らないわー。強いて言えば、譲司さんが該当するかしらー」
彩さんのお父さんが椅子を取りに行く。四人掛けのテーブルなので、どうやら彩さんのお父さんは、椅子だけ持ってきて誕生日席のような感じで食事をすることになるようだった。
「気のせいだったか。それと俺は、そういう対象としては麗華しか目に入らないから、ロリコンではないな」
ロリコンの定義がわからないから素直には頷けなかった。ただ、彩さんよりも年下に見られることがある麗華さんが奥さんって、それはそれで犯罪臭がしませんか?
「父さん、お客さんの前で恥ずかしいこと言わないでくれる?」
彩さんが、不機嫌そうに文句を言う。
「お? ああ、すまん。ん? そう言えば、そこの坊主は? どこかで会ったか?」
記憶が若干飛んでいませんか? まあ、変態ロリコン坊主だと思われているよりはずっとましだけど。
「あらあら、今会ったばかりよー。大丈夫? 疲れてるんじゃないのー?」
麗華さんのフォローが入る。ナイスです。
「ああ、そうかもしれない。なぜか、少し頭痛もするしな」
その痛みは、外傷によるものですから。一回病院に行った方がいいかもしれませんよ?
「父さん、この人は――」
「彩ねえの彼氏だよ」
「ほう、そうか。彩の彼氏か。さて、坊主が何者かもわかったし飯にするとしようか」
あれ? アリアちゃんとはだいぶ対応が違った。まあ、彩さんの歳を考えれば心配することでもないのか。
「あらあら、そうねー。彩ちゃんの彼氏だものー。ウチの食卓にいても不思議じゃないわよねー」
「母さんまでアリアに調子合わせないで。太郎さんも否定してよ! 違うでしょ! それと、アリアの時とあまりにも対応が違いすぎて、そこはかとなくムカつくわよ、父さん。あんな対応されたら、それはそれで怒るけど」
「ん? アリアがどうしたって?」
ちょっと待て。何でもない。思い出さないで。放っておくと、彩さんからボロが出る。
「あ、あの、俺は、『彩』に入る、こ、ことに、なって、それで」
「ああ。亮とアリアが探してた奴、見つかったのか。ここにいるってことは、とりあえず明後日のには連れて行くんだろう? 俺は、橋本譲司だ。よろしくな、坊主」
「あ、はい。えと、山田、太郎、です」
「ほう、初対面の人間には本名が言えないか。なかなかに、警戒心の強い坊主だな」
どいつもこいつも、山田太郎が本名で悪いか! もうやだ……。そもそも、もし本当に偽名なら、警戒心が強いと言うより、唯の変な奴だし、何より失礼だよ!
「本名よー、譲司さん」
「……なに! すまなかった。しかし、見た目と相まって、冗談にしか思えないな」
冗談じゃないんです。どうせ、見た目からして脇役臭いとか思ってるんでしょう?
「失礼だよ、ジョージ。この冗談で済ませたくなるような普通さが、逆に強烈な個性として兄ちゃんを輝かせるんだよ!」
フォーローなの? 追い打ちなの? 追い打ちだよね。それに、普通さじゃ輝けないと思うんだ。
「しかし、亮が目をつけたのが彩の彼氏とは驚いたな。まあ、彩が決めたのなら俺が言うことは特にない」
「しつこい! 違うって言ってんでしょうが!」
彩さん、言葉が乱れてますよ。
「あらあら、違うんですってー。冗談はさておき、ご飯が冷めてしまうわ、食べましょー」
「その締め方だと、まるで彩ねえが冗談を言っているみたいだよ、麗華」
どうせなら、俺がザ・普通であることまで冗談にしておいて欲しい。
「もういい。食べましょ、太郎さん」
そう言って、彩さんが料理に手をつけ始める。俺も、もうこの人たちに付き合いきれない。というか、付き合っていると泣きたくなるので、彩さんに習うことにした。
「えと、頂き、ます」
「どうぞー、召し上がれー」
投稿時間が、1時と7時に気付いたら合わせてたので、今後もこの二つの時間で投稿して行こうと思いました。




