7月27日 ―14―
話すのが苦手なこともあって苦労したが、何とか要約して二人に話した。
回想通りにうまく伝わっただろうか?
話してみて再確認したが、やはりアリアちゃんの参考にはならない内容だったな。
「そっかー。大変だったねー。確かに、あたしには使えない方法だなー」
「そうね。ところで、太郎さん」
「何、ですか?」
「私は、男の子にしたこと間違っていなかったと思いますよ」
「あたしもそう思うなー。あたしだって、ママに何もしてあげられなかったから、ママのために、ママの歌を待ってる人のためになれたらいいと思って始めたんだよ。自己満足かもしれないけど、それでもやりたいこと、やるべきことはあると思うよ」
「そっか……、ありが、とう。そう、言って、くれる、人が、その、いると、嬉しい、な」
「それで、えっと、聞いてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「その、事故に遭った方って今は?」
「ああ、一週間、くらい、えと、前に、連絡が、あり、ました。順調に、あの、回復、してる、そうです。頭部にも、異常は見られ、ないそうで、このままなら、その、もうすぐ、退院、出来る、そうです」
「そうですか。よかったですね」
「はい。卓真君が、お母さん、が、えと、治ったら、絶対に、会いに行く、待ってて、って、その、言って、くれました」
「じゃあ、会いに来てくれるのが楽しみですね」
「はい」
話が終われば、もう日坂商店街の入り口まで来ていた。入口にはアーチ状の看板がかかっており、日坂商店街の文字が入っている。
日坂商店街には、精肉店や八百屋だけでなく、本屋や日用品を扱うお店、薬局などが入っていて、小さな商店街ながらわりと何でも揃う。それ以外にも美容室やら居酒屋などがあるようだが、生憎、俺の記憶には利用する店とその両隣の店程度しかない。
「そうそう、兄ちゃん。この後、暇?」
「えっと、特に、することは、ない、かな?」
「じゃあ、ウチに行こ」
「いいですか? 太郎さん」
「あ、はい」
会って初日に家にお呼ばれしてしまった。今、俺に向ってリア充の波が押し寄せて――。
「ありがとうございます。次の公演の話、何もしてませんでしたので」
「……そーですね」
「あたしは別に、兄ちゃんともっとお話出来ればいいんだけどなー」
アリアちゃん! ありがとう!
馬鹿なことを考えていると喫茶店――二人の家に着いた。やはり、向いのアパートは俺が部屋を借りているアパートで間違いなかった。
看板とか無いな。ざっと見まわしたが、店の名前がわかるようなものは見当たらない。代わりというわけではないが、扉に掛札がある。
“CLOSED”
店は閉まっていた。
なるほど。休みなのに看板を出しておくこともないか。まあ、お店の名前は聞くまでもないだろう。俺の家の前にあるのだから、慌てなくてもそのうち知ることになるはずだ。
「今日は、お店休みだから、気兼ねなくお店の方でお話出来るよ」
そう言って、アリアちゃんがドアを開ける。ドアに付いていた来店を知らせるベルがカラカラと鳴った。
「ただいまー」
「ただいま」
「お邪魔します」
俺だけ、二人と違う挨拶で店に入る。店に入るのにお邪魔しますというのもなんだか不思議だ。二人は気にならないんだろうな。
店内は人が居ないので暗いが、落ち着いた雰囲気の、良いお店だった。入口からテーブル席が並んでおり、奥にはカウンターがある。カウンターの奥には、おそらくコーヒーとか、紅茶を入れるのであろうと思われる、見たことのない器材が並んでいた。それとコンロやオーブンも見える。
キッチン? 飲料だけでなく、軽食以上の食べ物も取り扱っているのだろうか?
「じゃあ、飲み物用意するので適当に座ってて下さい」
そう言って、彩さんがカウンターの中に入っていく。どうやら、お店のものを出してくれるみたいだ。
「あたし、あっつい緑茶がいい!」
「はいはい。まったく、アリアの方がよっぽどババ臭――っ、私が比較対象なのはおかしいわね。……っ、た、太郎さんは何がいいですか?」
自身の発言を無かったことにするかの様に、言葉を継いで俺にも聞いてきた。だが、何があるのかわからないし、飲みたいものも特にない。
「えと、あ、彩さんと、同じもの、で、お願い、します」
「はい、じゃあ、紅茶にしますね」
「特に無いんなら、緑茶にしなよ、兄ちゃん。熱くて渋―いお茶が美味しいんだよ!」
「……ごめん。緑茶は、今は、ちょっと」
緑茶も別に悪くないとは思うが、彩さんの返事を聞いてお店で出してる紅茶に少し興味を惹かれた。
「いいから。座ってな、アリア」
「わかったよ、彩ねえ。兄ちゃん、こっち」
そう言って、今まで歩いてきた道路に面した窓際の席にちょこんと座った。四人がけのテーブルだ。俺はアリアちゃんと彩さんの向いに座ろう。
「兄ちゃん、早く」
そういって、自分の隣の椅子を引いて、座席をポンポン叩いた。
そこに座れっていうことだろうな……。
「うん、わかった」
アリアちゃんの横に腰を下ろす。隣に座って見ると、やはりアリアちゃんは小さかった。こんなに小さな子にさっきは説教みたいなことをされたのか……。反省しよう。
何が出来る訳でもないけど、アリアちゃんがそうしたいって言っていたし、早く佐橋さんと同じように話せるようにならなきゃいけない。だから、何か話をしよう。会話を重ねることが一番重要だろうから。
「そう、いえば」
そんなことを考えていたら思い出したことがあった。
毎度になりますが、読んでいただきありがとうございます。
再び、数話まとめて投稿です。
出会ってしまったので、カラオケは御役御免ですかねー。




