Deceptive Epilogue
初めまして、なのかどうか怪しいですが廃棄人形です。
以前執筆していた『境界の果ての白狼騎』を修正、加筆等をして再投稿していきますので、以前読んだことあるな? という方も、始めての方もどうぞ宜しくお願い致します。
――――僕は、英雄に憧れていた――――
何の変哲もない普通の少年が、紆余曲折とありながらも未曾有の危機から世界を救い出し、英雄として崇められ、やがてその物語は伝説となる――。
誰しも、そんな夢物語に憧れた時期はあった筈だ。もしそうなれたら、と。そんな世界の英雄として日の目を浴びられたら、どんなに幸せだろうか、と。特に男ならば、尚更。
僕も、そんな存在に憧れていた時期があった。
光り輝く一振りの剣を携え、多種多様な魔術を駆使し、悪しき者から人々と世界を救う……そんな空想。
けれども僕は、今ではもうその憧れと夢を捨て去って、今を生きている。
「次期村長としての務め、か」
父が倒れたのは、今から一週間ほど前だ。
僕が暮らす場所、ルピス村は国境の外れギリギリに位置する小さな村で、村民も多くなく、百を少し超える程度しかいない。いや、少し前に若者(とは言っても僕よりは年上だが)が村を出て行ってしまった為、百人を下回ったか。
そんなルピス村は、国土地図を除いた殆どの地図から忘れ去られ、名前が載っていない事も良くある程度の小さな村だ。そして僕は、そんな村の村長の息子として生まれた。一応は、次期村長として育てられてきた僕は、村の子供たちの中でもお兄さん的立ち位置である。
父もまだまだ若いし、僕が村の長を継ぐのは全然先だろう。それこそ、二十を超えてもまだきっと継げてはいないと思う。
だが数日前、村は魔物の襲撃を受けた。父は先頭を走り、魔物と一戦を交えた。
父や村の大人たちによる活躍で魔物を追い払うことこそ出来たが、父は魔物による傷と毒に侵され、倒れてしまった。命に別状はないらしいが、父が起き上がるその時までは、村の長の代わりをするのは僕という事になっている。
母と妹、祖母が家族に居るが、村長は代々男がなっているからか、村長代理は僕ということになっている。
そんなタイミングに、昨日、国からの勅命が届いた。
『近日、勇者召喚したし。街、村の代表者はソルレント王国王都レリフィアへ来たれり』
唖然としたね。何事かと思っていたら、途轍もない大事だったんだから。
最初は断ろうと思った。前村長である祖父さえ存命していれば話は別だったかもしれないが、残念ながら数年前に病気で亡くなっている。
この国、というよりこの世界の人族の成人は十五歳。僕は十四歳だ。後二ヶ月半くらいで誕生日を迎え成人となるとはいえ……成人した後ならともかく、まだ未成年の僕は行かなければいけない義務はない。
……だが。
手紙に書いてあった、勇者召喚、という文字を見て僕は唸る。
先程も言った通り、僕は英雄と言う存在に憧れていた。他の国や大陸はどうか知らないが、この国では、世界の危機が訪れると別の世界から勇者を呼び出し、助けを求める。その人からすれば傍迷惑な話だ。
この世界に危機が迫っている、という認識は残念ながら僕にはないが、近日中に召喚されるというのならそうなのだろう。
当然のように、興味は大いにある。
諦めたハズの英雄への憧れが、僕に迷いを生じさせる。
「次期村長としての、務め……」
先程呟いた独り言を、再び零す。未成年とは言え、父が動けない今、村の代表者というのは僕だろう。一応は母と祖母も候補に当たるのだろうが、先の理由から今は置いておく。
そして国は恐らく、他の大人たちを代表者としては認めてくれない。未成年だが……僕なら何とか、百歩譲って許容範囲としてくれるだろう。
行くと考えて、不安は勿論あった。
生まれてこの方、僕は旅なんてした事がない。英雄に憧れていた子供の頃、木の棒を剣に見立てて振ったり、魔力のまの字も分からないまま本に記されていた詠唱をしてみたりはしていたが。
だが、どちらも自分の力にならないままだ。旅の真似事をするよりも前に、僕は英雄という夢を捨てさった。
いくら王国騎士団の護衛が着くとは言え、初めての旅は不安だらけで、そこに期待だとか高揚なんてある筈もない。王国領土内でも一番小さいだろう村の、成人にも満たない次期村長という子供が王都リレフィアに赴いて、何か意味があるのだろうか。
「次期村長……勇者……」
いや。けれど、と僕は思い至る。
何を迷う必要があるのだろう。
将来、世界を救う勇者の顔を見る事が出来ることなど、長い人生、この一度だけしかないのだ。
僕はこの村で生まれ、育ち、何の疑問も持たないまま村長の座を父から譲り受け、村の誰かから年の近い女性を嫁に貰い、小さなこのルピス村で死んでいくのだと思っていた。
いや、今でもそれは変わらないだろう。未来は、運命と言うのはそう簡単に変わるものではない。少なくとも、僕のような弱い存在の未来は変わらない。
そんな人生で、たった一度しか訪れないだろうこの機会。夢にまで見た勇者のお目見えだ。
勇者の召喚という世界を巻き込む大事を目の前で見る事が出来るのだから、その後の人生が変わらずつまらない物であっても、充実感は大きく変わるだろう。きっと。
「行こう」
僕の腹は決まった。
旅の支度をしよう。
心の準備をしよう。
僕――レフィ=ルピスの物語は、ここから始まるんだ!




