NHKニュース
故郷がなくなるというニュースを私は夜7時のNHKニュースで知った。
その時私はダイニングテーブルでパソコンに向かいながら、夏休みに参加できる短期インターンがないか調べていたところだった。
インターンのことなんて頭の中からふっとんでしまって、ニュースに釘付けになった。
ああ、そうか、龍穴はもうなくなってしまうのだ。その考えはなんだか私の胸を深く締め付けた。
龍穴とは地元民が呼んでいる通称で、正式名称は波浜地殻噴出孔という。
私が5歳の時の震災で、山の中にできた穴だ。
穴の中から、ガスが出て、周囲の生態系が変容してしまった。影響を受けた鳥は白くなり、魚は光が当たると光るようになった。まるで龍が棲むようだと誰かが言い出して、龍穴と地元では呼ぶようになった。
生物の色が変わるなんて、健康被害はないのか、と議論はされていたし、近隣で採れた魚を忌避する人もいた。影響範囲は年々広がって、今回ついに、入口を埋め立てて閉じてしまうと決定した、とニュースは報じた。
龍穴がなくなっても故郷はなくならない。物理的には。それでもなんとなく、何かが欠けてしまうように私には感じられた。
その時、電話が鳴った。スマホを見ると「恭一」と表示されていた。
「あ、久しぶり。今大丈夫?」
と久しぶりに聞く声が電話の向こうから聞こえた。
「大丈夫だよ。どうした?」
「ニュース見た?」
「ニュース?」
「龍穴が閉じるって話」
「見た。いまニュースでちょうどびっくりした。」
「そう?何年も前からいよいよ閉鎖されるぞって言われてただろ?だからさ、お前この夏帰ってこない?」
「え?帰るって、恭一も帰るの?」
恭一も京都の大学に進学したから、地元波浜には住んでいないはずだった。
「うん。1週間くらい帰ろうかなって。タイミング合わすよ」
「うーん、じゃあ行ってみようかな」
私は地元を出てから2年、波浜には一度も帰っていなかった。
私は、高校卒業と同時に上京した。もともと東京で単身赴任をしていた父の元へ、大学進学のタイミングで私と母が引っ越したのだ。
そんなわけで私にはもう波浜には帰る場所がない。
不思議な気持ちだった。なんだかとてもざわざわした気持ちになった。波浜にはもう何もないのに、なぜこんなに心惹かれてしまうのか。
再びパソコンに目を落として、インターンの募集要項を見比べた。ブラウザのウィンドウはどんどん増えていくのにどれも同じに見えた。
私はインターンのサイトを全部消して、龍穴のニュースを検索した。




