第一話 逃げ場のない出口
――遅かった。
それが、すべての始まりだった。
「隊列崩すな! ヒーラー下がれ!!」
怒号が響く。だがもう遅い。
ギルド《蒼牙の楔》は、完全に崩壊していた。
ドーム状のボスホール。
中央に立つそれは、“魔物”なんて言葉で片付けていい存在じゃなかった。
黒い巨躯。
脈打つように蠢く外殻。
目が、合った。
次の瞬間、前衛が“消えた”。
「無理だ……勝てるわけがねぇ……!」
「撤退! 全員撤退だ!!」
誰かの叫びに、全員が縋る。
逃げる。逃げる。逃げる。
俺――リクは、ただ必死に足を動かしていた。
このホールには出口がある。
一つ目の扉を潜り、待機室へ。
そして二つ目を抜ければ外に出られるはずだった。
「出口だ!!」
仲間たちがなだれ込む。
一つ目の扉。
二つ目の扉。
――そして。
「……は?」
そこは、さっきと同じホールだった。
静寂が落ちる。
「なんで……戻ってる……?」
背後で、何かが砕けた。
「来るぞォォォォ!!」
振り返った瞬間、また一人が消える。
悲鳴が響く。
逃げるしかない。
だが何度繰り返しても、出口は“出口じゃなかった”。
誰かが転び、
誰かが置いていかれ、
誰かが消える。
「なんで出れねぇんだよ……!!」
息が焼ける。足がもつれる。
その時だった。
「リク」
横に、カイルがいた。
「……足、遅ぇな。昔から」
「は……? 今それ言うか……」
笑える状況じゃないのに、少しだけ気が緩む。
「前見て走れ」
カイルの手が、背中に触れる。
――瞬間。
身体が、軽くなった。
「なっ……!?」
景色が流れる。
足が勝手に前へ出る。
「ヘイストだ。サービス」
「お前、何して――」
「いいから行け」
声が、少し強かった。
「俺、ちょっと休むわ」
「は……?」
振り返ろうとする。
だが、止まらない。
「先、行け」
それが、最後の言葉だった。
俺はそのまま、一つ目の扉を潜る。
そして、二つ目へ。
――静寂。
気づけば、そこはまったく別の場所だった。
白い回廊。
どこまでも続く空間。
そして、五つの扉。
D
C
B
A
S
Sの扉だけが、異様だった。
虹色に歪み、ちらついている。
「なんだよ……これ……」
頭の奥で、ノイズのような音がする。
――不正な到達を検知
「……?」
――再抽選を実行
足が、勝手にSの扉へと向かう。
「待て……なんだこれ……」
扉に触れた瞬間、
視界が、崩壊した。
ノイズ。
歪み。
断片的な文字。
――排出処理中
――確率計算エラー
――補正値適用
そして。
――排出結果:S
――レアリティ:神話級
――排出確率:0.00000000000001%
理解できない。
ただ一つだけ、確かなことがあった。
俺は――何か“おかしい場所”に来てしまった。
その瞬間。
世界が、切り替わった。
暗転。
そして――
画面が、点いた。




