八話(2)
個人的に春は、思ったよりも早く日が沈む季節だ。日が高い内に帰路に就いた筈が、ルイスさんと合流した頃には既に夕暮れ時で、刻一刻と夜が近付いている。
今は完全に日が沈むのを待ちつつ、出発に向けて軽い栄養補給と武装を施している最中だ。
「何か気になることはありましたか?」
「うーん‥‥‥目的と何ら関係の無いことでもいいですか?」
「勿論」
誘拐の話で気掛かりが無い訳ではないが、気にし過ぎてもしょうがないと割り切っている。加えて、それよりも気になることがあった。
「この王国では今、東方からの移民による内乱が起きていると聞きます。俺が今まで耳にした中での東方人は、軒並み悪人と言われていました。ただ‥‥‥本当に東方人が悪なのか、と思って。ルイスさんはどう思いますか?」
昼に貧民街の惨状を見て、彼らの反乱に納得感を感じてから、聞き得た知識に疑問を持っていた。反乱が起きるのは、本当に彼らが傲慢な悪人だからなのか?そうじゃないような気がしてきたのだ。
「そんなものは所詮当事者達の感情でしかありません。自分とその味方は正義で、相対する者は悪です。争う人々が、自分達の正当化をしているに過ぎません」
ルイスさんの答えはどこか非常に渇いた回答に感じた。それゆえに客観的で、本質的な見解にも思える。
「どちらも相手を敵と見なすところから、戦う理由として正義を着飾っているのです。そして後世に正義として語り継がれるのは、いつだって勝者のみなのですよ」
話の続きからは、微かに悲壮感を感じた。ルイスさんも長く生きている中で、色々あったのだろう。
「‥‥‥少し、分かった気がしました」
「そうてすか、お力になれたようで何よりです」
感じていた疑問には、答えなど無かった。そもそも、正義も悪もそれぞれの物差しだと分かった。自分にとっての正義がどっちで悪がどっちなのかは分からないが、一つ解けたので今日のところは良しとした。
「さて、段々と暗くなってきたところですが‥‥‥来客のようですね」
言われて空を見ると、夜色にポツポツと星が出てきた。アラクシス方面に視線を下げると、中心街だったと思われる方向と、そこから東の丘の頂上から光が漏れていた。
そして更に視線を下にすると、月明かりに照らされたアラクシス行き街道の先から、一頭の馬とそれに跨る人の影が高速で接近していた。
「敵ですか?」
「いえ、むしろ味方でしょう」
段々と接近してくる影を前に、ルイスさんは落ち着いた様子で道の真ん中に立つ。
「危ないですよ‥‥‥?」
「まあ見ていて下さい」
一応警告はするが、危機感よりも困惑が勝っている。一方のルイスさんは直立不動のまま、堂々と影を待っている。
すると影の方もこちらの存在に気付いたのか、段々と速度を落として、ルイスさんの目の前でぴったり停止した。
「誰かと思えば、ルイスじゃないか。一体どうしてここに?」
「少し任務を受けてましてね。そちらは報告の時期にしては早いですが、何があったんですか?」
影の中身は若い男声で、ルイスさんと親しいようだ。姿はフード付きローブでよく見えないが、確かに味方ではあるのだろう。
「‥‥‥アラクシス領主邸で火事が起きた。おそらく放火だろう」
ローブの人物は周囲を確認した上で、驚きの報告を放った。俺には聞かれても大丈夫だと判断したのだろう。
「ルイスさん」
「少しお待ちを‥‥‥それで、現在の火の状況は?」
逸る気持ちを抑えつつ許可を取ろうとしたが、お預けをくらって唇を噛む。そんなに落ち着いている時間はない筈だ。
「そこまで火の回りは早くない。恐らくまだ火元周辺の部屋までしか広がってないだろう」
「‥‥‥お目付け役としては、それでも行かせたくはないのですがねぇ‥‥‥」
悩ましそうに顎を撫でるルイスさんの横目と視線が合う。
「まだ間に合います。行かせて下さい」
無理矢理行こうとすれば、ルイスさんは立場的にも止めようとするだろう。止めるのを振り切りながらでは間に合わないから、一刻も早く許可が下りるのを待つしかない。
「‥‥‥馬を出していただけますか?緊急報告の道中だとは理解していますが、お願いしたい」
一考する間を空けて、ルイスさんはローブの人に深く頭を下げた。
「他ならぬ貴方の願いだ。勿論、務めさせてもらおう」
「感謝致します。それではこの少年を、門近くまで送って下さい」
ルイスさんが手でこちらを示した。それすなわち、火の手が上がる領主邸に行く許しが出たということだ。
「分かった。それじゃあ少年、俺の背中に乗ってくれ」
「はい。けどその前に一ついいですか?」
輸送してくれるだけで良い答えなのは理解している。だが一刻を争う事態で、門から徒歩で屋敷は遠過ぎる。今必要なのは安全かつ確実な侵入経路ではなく、最短距離での侵入。つまりは‥‥‥
「街道から南東、ほんのり光っているあそこが目的地です。一直線で向かえませんか?」
アラクシス方面に見える二つの光の内、少し高いところで光っている東側の光を指差す。あれが屋敷を焼く火なのかどうかは分からないが、日中の景色から領主邸なのは間違いないと断言できる。
そして、領主邸へ一直線に行った場合の侵入経路は一つしかない。
「崖を登って、丘上の領主邸に直接侵入します。麓まで、馬で行けませんか?」
整った街道を通るのとは訳が違うので、断られたら諦めるしかない。だがそんなに脆弱な馬ではないと踏んで、お願いしてみる。
「‥‥‥分かった。乗れ」
「ありがとうございます」
ローブの人はルイスさんの反応を伺ってから、仕方ないと言わんばかりの声色で自身の後ろ側を軽く叩いた。悪いが、遠慮せずそっちに送ってもらう。
「しっかり掴まっていろ。振り落とされないようにな」
「はい!」
背中に抱きついて衝撃に備えると、馬は大きな上下運動を伴って草原に飛び出した。
風のように、という言葉が合っている。障害物一つ無い平野を、空気を切り裂くように速く進んでいく。
「‥‥‥なあ少年、少しいいか?」
「?、なんですか?」
揺れにも慣れてきた道中、ローブの人が話しかけてきた。
「正直、おすすめはしない。特に崖の方は、屋敷が近いから火の手が早く届く筈だ。それに崩落の可能性もある。総合的に見て危険過ぎる」
こっちに行くのを嫌そうにしていたので、何を言われるのかと思ったが、身を案じてくれていたようだ。
「確かに危険ですね。でも進路は変えないで下さい」
「‥‥‥分かった」
一度断るとそれ以上何か言われることなく、馬は変わらぬ進路を進み続ける。飲み込みの早い人で助かった。
確かに危険云々はその通りで、理解している。しかしそれで怖気付くようでは、自分はとっくに死んでいる。そう思えるくらいに、今更で些細な問題だった。
「‥‥‥ここから先は歩いて行きます。ありがとうございました」
「まだ少し距離があるが‥‥‥」
「魔法に巻き込まないためです」
「そうか‥‥‥ならば俺は立ち去るべきだろう。少年、頑張れよ」
少し距離があると言っても、走ればすぐに麓に着く程度。理由を説明したらローブの人はすぐに納得してくれた。別れの激励には、軽く頭を下げて返す。
そして馬が遠ざかり、草原に静寂の風が吹いた。振り返って上を見ると、崖を越えた先がほんのり明るい。その明るさは太陽のような自然的なものではなく、夜空を赤で上塗りするように揺れている。
(‥‥‥さあ、行こうか)
覚悟を決めて崖の麓に立ち、そこに生える一本の木に触れる。魔力を流し込むと細い木は形を歪ませ、崖の側面を左右に這いずりながら、上へ上へと伸びていく。
やがて頂上に到達したので、蛇行している幹と枝を足場に崖登りを始める。ところどころで腕力を必要としたが、ほとんど歩きで踏破できた。
このままにしていると侵入がバレるので、足元の枝から余った魔力を吸収する。すると崖下まである大木が黒い粉塵を上げ、風に吹かれた砂のように全貌を消してしまった。
(破壊と吸収が特性の魔法で、創造と成長が特性の土魔法を模した結果だな)
闇魔法なんて言われるこの魔法は本来、壊したり奪ったりする力を持つ。それを無理矢理捻じ曲げ、造って与える土魔法に変えたことで、樹木そのものが魔物化したのだ。だが魔力を補給したり回復する方法が無いので、魔力が切れた途端に崩壊した。どういう過程でそうなるのか、そもそもどうして真逆の特性を持つ魔法を模倣できるのか、分からないことは沢山あるが、いずれ知れたらいいなと思う。
これで崖の方に用は無いので前を向くと、塀を隔てた先で領主邸が黒煙を噴いている。まだ大火事には見えないが、生きて帰るためにも急ぐ方が良いだろう。
(にしても不思議‥‥‥いや不気味だ。小さいとはいえ火事だというのに、悲鳴どころか声一つ聞こえない。魔力は感じるから人はいる筈なんだけど‥‥‥外には見えない)
またも木に登って屋敷を観察するが、一室から火が出ていること以外、声も聞こえなければ人っこ一人見当たらない。敷地全体になんとも言えない気味悪さがあった。
(侵入は簡単だな。そしたらまずは火元の確認をしよう)
火から遠い場所は後からでも探索できる。時間切れの近い火元を先に見に行くのが正解だろう。
外から見られないために開いている窓から屋敷内に侵入し、燃えていた方へ気配を消しながら進む。
(火元の部屋は‥‥‥まだギリギリ入れそうだな)
火の回りが遅いという情報はまさにその通りで、廊下の壁や絨毯の一部に燃え移ってはいるが、少し暑いくらいで行動に支障が出るほどにすらなっていない。
開いた扉の先からそこそこの魔力を感じるので慎重にはなりつつ、敵対する人間でなければ救助する心構えで部屋を覗く。
(‥‥‥これは‥‥‥酷い)
その部屋は火元になるに相応しかった。鎧を着た人、使用人服を着た人が何人も血を流して倒れ、かつ数人は火に焼かれている。
言葉を失いつつ魔力を発する者を探っていると、死角になっている部屋の隅から何かを引きずる音が聞こえてきた。
(貴族衣装で金髪の男性‥‥‥領主で間違いないな。あいつがやったのか)
引きずられていたのは、領主と思われる男性だった。胸部にナイフが突き立っていて、死亡は確実だろう。
引きずっている人物は全身真っ黒の服装だが、各所に返り血と思われる赤黒が滲んでいる。容姿は確認できないが、何者なのかは簡単に分かった。
(暗殺者で間違いない。そして今は死体の処理中。だったら今のうちに目標を探して脱出しよう)
領主が死んで交渉も何も無くなった今、やるべきことは外れ者の少女を攫うだけになった。状況的にその子も暗殺されている可能性は十分にあり得るが、それでも一途の望みに掛けてその場を静かに離れた。
(闇雲に探しても見つからない。魔力を頼りに部屋を絞ろう)
気を付けて歩いていれば、扉が閉まっていても人がいるかくらい容易に特定できる。自分の感覚を信じて、一つ二つと扉を素通りしていく。
(ここもいない。ここもいない。これで二階にもいない。残されたのは‥‥‥)
階段はもう一つ上の階まで続いている。この屋敷の最上階、三階だけが残った。生きているとすれば、次の階で決着がつくだろう。
ひりついた感覚が先を急かす。それを抑え込んで一部屋、また一部屋と丁寧に確認していく。
(‥‥‥ん?これは‥‥‥)
何番目かの部屋の前、触れた扉に違和感を覚えて足を止める。顔を近付けて神経を研ぎ澄ますと、扉を境に僅かな魔力の濃度の差を感じる。
この扉の先に何かあるのは確実だ。人が放つような魔力は感じないが、静かにノブを捻る。
キィ‥‥‥と、微かに蝶番の軋む音と共に、ふわっと吹くそよ風が部屋と廊下の境界で混ざった。
(寝室だけど‥‥‥誰もいないのか?)
一見すると大きなベッドがあるだけで、燭台の蝋燭も冷たい空室だが、多くの部屋を回ってようやく得た最初の違和感を信じて、部屋の中へ入っていく。
室内にホコリっぽさはなく、常用している部屋だと考えられる。
(誰かがいるとして、ここは寝室だから‥‥‥)
人がいる場所なんて一箇所しかないと、脇目も振らずにベッドの横まで来る。よーく観察すると、綺麗に整えられているように見えて、中心線上が少しばかり膨らんでいる。
その膨らみの正体を確認するため、掛けられた毛布に手を伸ばす。その時、自分が来た方から魔力が流れ込んできた。
(誰か来る‥‥‥!)
開いたままの扉を閉めに行くのは危険過ぎる。まだこの階が初見であることを願って、急いでベッドの陰に隠れる。
「‥‥‥おい、この部屋じゃないか?」
「前情報ではそうだが‥‥‥扉を開けっぱなしとは、不用心が過ぎるな」
扉の方から二人の男の声が聞こえてくる。ついに誰か来たようだ。
「さてさて、子供だからもう寝ているか?」
「睡眠薬を服用しているらしいから、寝ているだろうな」
「とはいえ起きない訳じゃないんだ。早く終わらせろ」
「分かってるさ。火も回ってくるしな」
不穏な会話が聞こえたと思うと、一人の足音が近付いてくる。それに混じって、金属が擦れる音も僅かに聞こえた。
次に足音がベッドを挟んだ隣で止まると、掛け布団が捲られていく。
「間違いない、ノア・アラクシスだ。御命頂戴する」
(ノア・アラクシス‥‥‥!)
やはり対岸の男は暗殺者だった。それも、こちらが目的としている人を狙っている。助けないと‥‥‥と、頭が判断するより先に体が動いていた。
ベッドの陰から飛び出して、目の前で短剣を振りかぶっている男の顎に下から拳を打ち込む。
「うがっ!?」
怯んだ隙にもう一撃、次は腹部に魔力を伴う肘打ちを入れる。
「うっ‥‥‥ぐあぁ‥‥‥」
魔法の強さは魔力の強さと比例する。今の攻撃はかなりの魔力を込めていたので、酷い内出血くらいにはなっている筈だ。
「てっ、敵襲!敵襲!」
もう一人も遅れてこちらに気付いたようで、短剣を構えて戦闘体勢に入り、絶叫している。
「‥‥‥」
戦闘に構うつもりはないので、黙ったまま掌を突き出し、見えない魔力の波を放つ。
「うわっ!なっ!?なんだこの魔法は!?」
波が気付かれずにもう一人に到達すると、全身が黒い靄で覆われ、暗殺者は闇雲に短剣を振り回している。
というのも、今の彼は五感が遮断されている。こちらの姿も見えなければ、音でどこにいるのかも判断出来なくなっている。そうなる魔法を使った。
(叫んだってことは、まだ仲間がいると考えられる‥‥‥さっさと逃げよう。火事もあるし、これ以上ここにいるのは危険だな)
勿論、ノア・アラクシスを連れての話だ。小規模ながら戦闘が起きていた隣で、何も起きていないかのように安眠している彼女を背負い、窓から領主邸の外へ飛び出る。
(頼む‥‥‥ここでこの子が怪我するかどうかで逃げ道が変わるんだ)
三階から落ちても、闇魔法が二人に機能すれば無傷で済む。無傷なら機能したと分かり、崖から外壁を出れるので、ここでの結果が最初の分岐点になる。
(集中‥‥‥‥‥‥ここだ!)
落下中に神経を研ぎ澄まし、着地の瞬間に足と背中で魔法を発動させる。自分自身は一旦、無傷で地面に降り立った。すぐに御令嬢を背中から降ろし、目立った傷がないか確認する。
(出血は無さそう‥‥‥骨折や脱臼もぱっと見は無い。これならいける)
服には一滴の血も付いてなく、手足を触って確認しても怪我している感じはしない。最初の分岐は、良い方に転んだようだ。
(さて、次は塀を越える必要があるけど‥‥‥壊した方が早いな)
自分一人ならまだしも、人をを背負った状態で目の前の塀を越えるのは難しい。目立ちはするが、今は迅速な脱出が最優先なので、塀を吹き飛ばすことにした。
掌の上に深い紫の魔力を集中させ、十分に巨大化したところで塀の方へ体を向け、真下に魔力の塊を落とす。塊は地面に接触した瞬間、鼓膜が破れそうな程の轟音と共に、前方に広く深紫の可視化された魔法を拡散させた。
それから少しして魔法が収まってきて深紫が晴れると、塀どころかその先の木までもが消え去り、崖まで障害物一つ無い道が切り開かれた。
(さあもう一度、次はもっと高い所から落下だ)
これだけ大きな音を出した後だから、背中を突かれることを考えるべきだろう。万が一にも御令嬢に当たらないよう、前に抱える形で崖の方へ向かう。
(あと少し‥‥‥ここを抜け出せば‥‥‥!)
大したことない距離がとても長く感じたが、脇目も振らずに走った末に、前後上下左右が夜の冷たい空気に包まれた。
(よし、ここまで来れたら‥‥‥)
そう思ったのも束の間、太腿に鋭い痛みが流れる。視線を下げると、太ももの裏に一本の矢が突き刺さっていた。
「ぐっ‥‥‥!」
激痛に思わず顔が歪むが、間違っても少女を抱える腕が外れないよう、歯を食いしばって耐える。
幸い、後続の矢が飛んでくることはなく、急速な降下が始まる。地面との距離を誤らないよう、もう一度身体中の神経を研ぎ澄ます。
(集中、集中‥‥‥うっ)
もう少しで着地という瞬間、痛覚が集中力を上塗りするように襲ってきた。咄嗟に魔法を使ったものの、タイミングの僅かなズレが原因で衝撃を全て吸収できなかった。
着地自体はなんとか成功したが、失敗した分の代償は足に吹っ掛けられた。矢が刺さった右大腿は傷が開き、左も骨が折れた感覚がある。
今すぐに治したいところだが、まだ追撃が無いと決まった訳ではない。ある程度の安全が確保できる場所を探して、血が流れる足でも痛みを押し殺しながら走る。そしてどうにか、身を隠せそうな背の高い草むらに飛び込んだ。
「ぐっ‥‥‥ああぁっ!」
身を隠してすぐに御令嬢を地面に降ろし、刺さった矢を無理矢理引き抜いた。返しが付いていたらしく、想像を絶する痛みと追加の出血を伴った。
(不覚を取られた。純魔水が無かったらどうなってたか‥‥‥)
ローブの内側に収められた小瓶を取り出し、純魔水を傷口にかけると、あっという間に出血が止まって痛みも消えた。もう一本取り出して次は口から体内に入れると、骨折した左脚も完全に回復した。
御令嬢の方は強めに魔法をかけていたおかげか、負傷した様子もなく未だに寝ている。
(睡眠薬を摂取しても、ここまで起きないことはない。かなり大量に飲んだのか?)
睡眠の異常性に服毒すら疑ったが、呼吸や脈に異常はなく、少なくとも強力な毒ではないと思われる。それなら次の行動に移っても大丈夫だろう。
(崖から飛び降りた俺に矢を放ったくらいだから、相当粘着質な相手だろうな。追ってきてもおかしくないし、ここに留まるのは危険だ)
まずはルイスさんの待つ馬車まで辿り着こうと再び御令嬢を抱えて、不意に見た星月の明かりが美しい夜の草原を走り始めた。




