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勇者と患者
「あなたは勇者となるのです」
・・・狂っちゃったの、母さん
声には出さずに母を見つめる。
母はいつもと異なる重みのある声で答えた。
「わが一族は16歳になると剣を受け継ぎ『運命人』を助けに行くのです」
聞き覚えある設定だね
本音としては一生聞きたくなかったな
冷蔵庫が電子音を鳴らしだしたが開け放したまま無視をする。
近くで見ると母は美しかった。
比較的若い母は黒がよく似合うすらっとした女性だ。
まあ、台所にはふさわしくないけど
「さあ剣を受け取りなさい」
突然声を張り上げ母は滑るように近づいてくる。
本気で怖い
「ちょっ来ないでよ。気持ち悪いって」
目の前に母の顔、生まれた時ぶりに向かい合っている。
「何が勇者よ、あんたが患者なんじゃないの」
うわっ あたしって奴は親になんてことを
しかし冷や汗は背中を伝う。
母は何も聞こえなかったように剣を差し出した。
あたしが素直に受け取るとでも言うように微笑みながら。
お生憎さまっ
もちろん剣に触れもしなかった。
代わりに鞄と上着をつかみ冬の世界に飛び出した。
扉が閉まる瞬間座り込んだ母の姿が目に入った。




