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誕生日

―トントン

ノックの音と共に見知った顔があらわれた。


「ローズ、体調は大丈夫?」


「ウィル!……会いにきてだいじょーぶなの?」


少し前から体調が悪化した私は、皆んなの稽古を見に行く事すらできなくなっていた。熱が上がっては下がっての繰り返しで、咳も続いているからずっと部屋の中で安静にしていないといけない。

おかげで楽しみにしていた誕生日も一人で過ごした。たまに兄が見にきてくれるけど、基本は専属メイドのリサくらいしか話していない。1日中寝ているか誕生日に母からと渡された本を読んでいるかしかできなかった。

 

本当は一人が寂しかった。ウィルにも会いたかったから会えて嬉しいけど、私の熱がうつったらどうしよう。でも少しで良いから一緒にいたいなとグルグルと頭で考えていたらベッドの真横にまできてくれていた。


「大丈夫に決まってるでしょ。お願いだからそんな泣きそうな顔しないで?」

 眉毛を八の字に下げたウィルが頭をヨシヨシと撫でてくれる。


「……だって、おとーさまが言ってた。わたしの側にいたらびょーきがうつるって。だからおとーさまもおかーさまも来てくれないもん」


「心配しないくて大丈夫だよ。僕は強いから」


「………………だけど、ウィルにびょーきうつったら嫌だから会いたくない」


「僕に会いたくないの?僕はローズに会えるの楽しみにしてたんだけどな」

 

そう言いながらウィルが微笑んで頭を撫で続けてくれるから、私はずっと一人で寂しかった気持ちが滝のように溢れてウィルの前で号泣してしまった。


「うう……っ…わたしも会いたかった。ずっと1人はイヤだった」


涙も鼻水も大量に出てる私をウィルはギュッと抱きしめて、一人で頑張ったんだねと落ち着くまで背中をトントンしてくれた。


「ローズ、落ち着いたかな?今日ローズに会いにきたのはコレを渡したかったからなんだよ」


そう言うと小さな箱をポケットから取り出して私の手のひらに乗せてくれた。


「気に入ってくれたら嬉しいんだけど…開けてみて?」


「うわぁー!きれー」


キレイにラッピングされた箱を開けると、そこには淡いピンク色の小さいバラがたくさんついたバレッタがあらわれた。


「少し過ぎちゃったけど誕生日おめでとう」


「うぅっ……ひくっ…ウィルだいすき」


今年の誕生日に直接プレゼントを届けてくれた人は初めてで、笑顔を向けてくれるウィルとは対照的に私はやっと止まった涙が再度大量に溢れ出てきてしまった。


「これを見た瞬間にローズに似合いそうだなって思ったんだけど、泣くほど喜んでくれるなんて僕の方が嬉しくなっちゃうな」


髪につけても良い?とウィルはバレッタを手に取ると私の髪にパチンッとつけてくれた。

すっごく似合ってるってキラキラした笑顔で見つめてくれるから涙も止まって次第に照れて顔が真っ赤に染まっていた。


「ローズはコロコロと表情が変わって可愛いね」

 

「もぉー、そんなに笑ないで」


恥ずかしくて怒ったフリをしたけど、私はこのバレッタを一生の宝物にしようと思った。

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