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――おや。君は……。
「周防藤、と申します。初めまして、御守所長」
――ああ、やっぱり。君が周防くんでしたか。明美さんの息子さんの。今は夜子達の手伝いをしてくれているそうですね。どうもありがとう。
「いえ、僕なんか大したお役には立てていません。夜子お嬢さんや、琴浦さんと鈴切さんのお邪魔をしてばかりです」
――そんなことはないでしょう。夜子達から、細やかなところに気が利いて助かる、と話を聞いていますよ。体を張って鈴切さんを助けてくれたこともあると。礼を言うのが遅くなり申し訳ありませんね。社員を助けてくれてありがとう。
「……恐れ入ります」
――今日も手伝いに来てくれたのですか?
「はい。お嬢さんからご連絡をいただきまして」
――それはそれは……。よろしく頼みます。私達は……。ああ、こちらの方はご存じですか? こちらは私の助手を務めてくださっている、山本京子さんです。
「初めまして。お名前はお聞きしておりました」
――私達はこれから出るところでしてね。せっかく来てくれているというのに、もてなしもできず申し訳ない。
「いえ……。それより今日は、御守所長にお伺いしたいことがありまして。実はお嬢さんとのお約束はもっとあとの時間なのです。失礼かと思いながら、ここでお待ちしておりました」
――……私に? そうですか…………。京子さん、先に行ってタクシーを拾ってくれませんか。大丈夫、私もすぐに向かいます。
「…………御守所長、お心遣い感謝いたします」
――さて、私に聞きたいこととは?
「……お嬢さんのことです。御守所長、あなたには尊敬している方がいらっしゃるそうですね。『御守夜彦』という《探偵》をとても慕っていると……」
――……よくご存じですねぇ。
「はい。所長の御本やインタビューを読ませていただきました」
――私の? それはまたなぜ?
「所長が業界屈指の《探偵》であることは、僕のような素人でも知っていますから。お嬢さんとお仕事するにあたり、《探偵》について勉強しました。その教本には、あなたの御本が最適だと思いまして。それに……」
――それに?
「……恐れながら、あなたは私の養父に似ていると思って。ぜひ拝読したいと……」
――それは恐縮ですね。何かの参考になればよいのですが。
「とてもためになりました。――僕は、あるインタビューを読んだ時、所長が夜彦さんを慕っていることを知りました。立派な方だったそうですね」
――ええ。それはもう。《探偵》ならば皆あの人を目指すべきです。
「所長もですか?」
――……。
――もちろんです。残念ながら私は才能も努力も及ばず、あの人のようにはなれませんでしたけどね。
「…………。お嬢さんの師は……、御守所長、あなたなのですよね? あの、では夜子お嬢さんは夜彦さんになるように……?」
――……。
――……ええ。あの人を手本にして、私がすべてをあの子に教えました。夜子……あの子には立派な《探偵》になってもらいたいですから。まぁ、あの子は頑なに「私は《探偵》じゃありません!」なんて言いますけどね。ははは。
「それは……なぜでしょうか?」
――さぁて……。多分私が《探偵》だからでしょうねぇ。……あの子は、私と並んでしまうことが嫌なようですから。
――ああ、嫌、なんて言葉を使うと夜子に悪いですね。なんというのかな、うん、遠慮しているとでも言いましょうか。
「なるほど、それで。ですが任されている仕事は《探偵》のすることでは?」
――ええ、そうですよ。ですからあの子が助手と言い張るのは、まぁ……意地を張っているようなものです。あの子はもう立派な《探偵》です。もちろん未熟な面もありますが、どこへ出しても恥ずかしくない、と私は思っています。
「それはつまり……。あなたの教えが実を結んだと――|お嬢さんは夜彦さんになれた《・・・・・・・・・・・・・》ということですか?」
――……夜子とあの人は似ているところもありますが、本質的には違う人間です。
――それでも私は……。あの子を娘に迎えることができて本当に良かったと思っています。
「御守所長は、お嬢さんの成長に満足しているんですね。お話を聞けて本当によかった。引き留めてしまってすみません」
――いえ……。それでは、夜子をどうぞよろしく頼みますね。
「はい。では失礼させていただきます」
――夜子が「あの人になれたか」か……。
――周防藤くん……。あの子が聞きたかったのは…………。