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ペットがとんでもない粗相を

「すいませーん!」

「へ?」


やにわの襲撃。

かと思いきやいきなり手を振りながら無防備にこちらに近寄ってくるホッケーマスク。


絵面は恐怖そのものだが、斧はすぐに腰に戻してぺこぺこ頭を下げてくる姿はどう見ても敵意があるように見えなかった。


これはかなり予想外の展開だ。


「いやあ、うちの戦車がとんでもない粗相をしちゃいまして本当にすいませんでした」

「はあ」

「躾がなってなくて気になったものをつい見境なしに攻撃しちゃうんですあははは」


あははって。死にかけた身としては笑い事ではない。

というかワンコが吠えてすいません的な感覚で言わないでもらいたいのだが。


「ええとお怪我してません? 腕とか首がもげたりは?」

「ご覧の通りですが」

「見れば分かるか。いやあでも本当に何事もなくて良かったです」


かなりヘラヘラした態度なのは気に食わないが、こちらの安否を気遣っているのは間違いないかった。


てっきり彼らとは問答無用で殺し合いとかになると思っていたので拍子抜けした。


「ええっと戦車ってペットにできるんですか?」

「司祭様の洗礼を受けましたから」

「シサイサマノセンレイ?」

「ミケランジェロって言うんです。皆、ミケって呼んでいます。戦闘では役に立つしなかなか可愛いやつですよ」


名前については聞いていないけどね。


ミケについて楽しそうに語り始めたホッケーマスクさんさんはまるでペット自慢をする普通の一般人だった。


勿論、子供が泣き出すようなショッキングな見た目や、自慢のペットがインフラオブジェクトを一撃で破壊する多脚戦車なところを除けばの話である。ツッコミどころは満載だ。


本来なら一目散に逃げるつもりだったが、思わぬ展開に逃げそびれてしまったな。


うーんどう対処すべきか。

僕が迷っていると、急に思い出したようにホッケーマスクが話題を変えてきた。


「少々、お尋ねしてもいいですか?」

「はあ」

「実は我々とある建物を探しておりましてね。この辺りにあると睨んでるのですが」


まさか廃墟と化した東京で道を聞かれるとは思わなかったな。おまけに相手はホッケーマスク。かなりシュールである。


「コンビニなんですけどね」

「コンビニ」

「はい。といっても廃墟じゃなくて絶賛営業中のやつですよ。この近くにあるの知りませんかね?」


それうちの店ですね、と口をついて出そうになるのを堪えた自分に賛辞を送りたかった。


油断は禁物だ。

まだ彼らが何者なのか判明していない。


攻撃の意思はないにしてもニュースで聞いた殺人鬼であればお近づきになりたくないし、うかつに喋らないのが懸命だろう。


よし。知らん振りをしてしらばっくれてこの場をやり過ごそう。


そう思った矢先ーー


《サピエンス》


空気の読めない奴が割り込んできてしまった。ドローン先輩だ。


さっきまで大人しくしてくれたのにホッケーマスクが物珍しいのか急にしゃしゃり出てきたな。

先輩、話がややこしくなるからエアリーディングを機械学習して下さい。


《あなたは市民ですか? それとも社畜ですか?》

「おお貴方のドローンですか? 可愛らしいですねえ。撫でてもいいですか?」

「ええまあ」


知らんぷりすれば良かったのだが、つい頷いてしまった。


「……ふむモノリス社の警備タイプ。コンビニ番にも使われてるやつですね」

「へー、そうなんですか」


いやあ機械全般に疎くてという態度ですっとぼける。実際詳しくはないので嘘ではなかった。


ホッケーマスクは興味深そうにドローンの機体を観察していた。


「営業中のコンビニ」との関係性を疑っているのかもしれない。だとするとこのままだとマズイことになる。


《あなたは市民ですか? それとも社畜ですか?》

「ははは私はただの教徒だよ」


ホッケーマスクが子犬でもあやすようにドローンを撫でながら言う。


「教徒」?

教徒って何だろう。彼は墓掘りグールではないらしい。


そういえばニュースでやっていた犯人の情報のひとつに「シショクナントカ教団」とかいうのがあったような。


そんな思考がかすめたが、すぐに「嫌な予感」が湧いて霧散する。


それはホッケーマスクに対してではなくドローン先輩についてだ。ついついスルーしていたがこいつの問いかけは例のあれだ。だとするとこの状況はかなりヤバくないか。


予感を肯定するようにドローンから聞こえてくるモーターの駆動音が一気に耳障りなものになり不穏な空気が加速した。


「あのすこし離れた方がーー」

《ノーワーク・ノーライフ――以上!》


やはりか。

聞き覚えのあるフレーズと共にーー


ガガガガガガガガガガガガ!!!


ドローン先輩のマシンガン攻撃が開始された。火花を散らしながら容赦無く大量の弾丸が高速でばら撒かれる。


「あ゛ばばばばばばげぼばばば!!!」


局地的な鋼鉄製の豪雨をホッケーマスクが全身で浴びる。


時間にしてわずか数秒ーーホッケーマスクが穴だらけになり血をドバドバ流しながら、カクカクとした非常に滑稽なダンスを踊ってーー


血だまりに倒れる。


「うちのドローンがとんでもない粗相を!」

《アアアアアイウィン! アイウィーン!》


おい御満悦で勝利宣言してる場合じゃない。

まずい。これ死んだかもだぞ。


脈を計らなきゃとか救急車の手配とか慰謝料とか様々なことが頭を巡って混乱する。


いやとりあえず応急処置だ。


「あ……が……」


だがホッケーマスクさんは辛うじて息をしていた。

良かった。筋骨隆々な上に、防弾性らしき上着をきていおかげだろう。何というタフさだ。


こぽこぽと血を吐き、ひゅーひゅー浅く呼吸しながらも何かをボソボソと呟いている。


まさか遺言か。


「……つけ……ました……」

「あの喋らない方がーー」

「ええ……見つけました……そうです……恐らくコンビニ社畜です」


違う。

ホッケーマスクは倒れたまま端末を手にし、()()()()()()()()()()()に報告していた。


それから震える手でマスクをずらしボリボリと何かを噛み始める。


「あー……あははは……酷いなあ」


ポロポロと手元からこぼれ落ちるそれはカラフルな小さい何かーーカプセル錠剤だ。


「なんて酷いんだ」


何だあれ。


身体からゆらりと湯気が立ち、露出した傷口がみるみる塞がっていくぞ。


全身であれだけの弾丸を受けておきながらすでに身を起こそうとしていた。


「おかげでせっかく貯めてた寿命スコアがだいぶ減っちまったじゃねえか」


そして構える様に斧を握りしめながら立ち上がるーー


その姿はさながらホラー映画に登場する殺しても死なない例の怪物だった。

忙殺中。


感想のお返事遅くなってすいません。早めにお返します。

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― 新着の感想 ―
[一言] カロリーが不足しています(˃̵ᴗ˂̵)ノ が、不足しています(˃̵ᴗ˂̵)ノ  作者頑張れ、と言うかご自愛の上ゆっくり続けて下さいますようお願いします
[良い点] ノットエアリーディングドローンせんぱい [気になる点] ミケランジェロさんが可愛い系なのかヤンチャ系なのかドジっ子属性なのか可哀想系なのか [一言] ワワワワッチャウワッチャウ! 金曜日の…
[一言] 湖でカップルとかぶっ頃すマンだ!
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