それでは次のニュースです
『さあ皆さんでお祈りをーー』
「しませーん、と」
チャンネルを即変更。
そういえばいざり火教団の放送のままだったか。
どういう団体なのかは八号さんから情報を得ているから分かってるけど相変わらず気味の悪い放送だ。くわばらくわばら。
鼻歌交じりにチャンネルをザッピング。暫くすると抑揚のない合成音声が流れ始めた。
『それでは次のニュースです』
「お?」
これは首都圏第一放送とかいうニュースチャンネルだな。前回よりも雑音少なめでクリアだ。いやあやはり屋外の方が断然聴きやすい。
『先日未明、赤羽駅mama-son倉庫内で起きたーー』
こうしてラジオを弄っていると中高生時代に深夜放送を聞いていたのを思い出すな。
人の声が流れているとそこにちゃんと世界があって孤独に浸りながらも独りじゃないという安心感がある。
うんなかなか悪くないぞ。
『職員二十数名が殺害された事件の続報ですーー』
「……」
『防犯カメラに残った記録から割り出された容疑者は十三名。全員がホッケーマスクを被っておりーー』
『被害者の一部が食い千切られておりーー』
『カルトである屍食晩餐教団の犯行とみてーー』
『容疑者たちは都内に潜伏している可能性があるとして行方をーー』
「……よし切るか」
うーん最近の日本は物騒ですなあ。
猟奇殺人事件の横行してるなど世も末ですなあ。脳とか内臓を食い尽くしているとか言ってるけど犯人完全に狂ってますな。
八号さんはラジオの情報がかかせないとか言ってたけどいざり火教団にしろ、今のニュースにしろろくでもない話しか流れて来ないな。
イヤホンジャックを携帯端末につなぎかえクオヴァディスさん御推薦のBGM集で、今しがたの汚泥のような情報を洗浄し直すことにした。
忘れよう。忘れよう。
たまにはミュージックを流しながら孤独に浸るのも悪くない。
「ただ獲物も全然現れないし、いい加減何か釣れてもーーなんだ?」
音楽に混じってリンゴンリンゴンと鐘の音が何かを告げいる。警鐘スキルだ。
ワンテンポ遅れ陸橋が微かに揺れ始める。
もしかして何か近づいているっぽいーー?
《ワワワワ!》
ドローン先輩も異変に気づいたようだ。
《ワッチャウ! ワワワワッチャウ!》
「注意しろ?」
この振動が足音によるものだとすればかなりのデカブツだ。
厄介ーーいやこの際、怪物なら巨大級でもいいか。
さっさと倒してお肉とゲットしてコンビニで焼肉しながらアメコミ読むぞーーという気概は即霧散した。
聞こえてくる足音に耳障りな金属音が含まれていたからだ。
これがもしあれだとすると状況はかなりまずい。
「先輩、とりあえずワイエットな?」
《ギッ⁉》
僕は尚も騒ごうとするドローン先輩を押さえ込んで陸橋に腹這いになった。
アスファルトをガシャンガシャンと重金属で殴りつけるような音と共に、霧の向こうからそれが姿を現した。
うみゃ……おおおおぅう……。
猫と象の鳴き声を足して割ったような物悲しくも奇怪な響きのサイレンが辺りをこだました。
やはりーーだがしかし何故。
あれは郷愁病とかいうビョーキでさまようように都心に向かっていたはずではなかったのか。
巨大な鋼鉄の塊ーー複数の砲台と、扁平型の本体から伸びる蟹股の六本木脚。
それは紛れもなく多脚式自律戦車ーー錆喰らいだった。
◆
霧の向こうから現れたのは巨大な機械の脚を持った鋼鉄の獣ーー錆喰らいだ。
都内に向かっていたはずなのに何故まだこの界隈にいるのか。
だがそれ以上に気になるのはーー。
「あいつらは何だ?」
戦車を従えるように歩く仮面を被った集団いた。
多脚戦車は怪物も人間も無差別に襲うという話のはずだった。
だが彼らは恐れる様子もなく寧ろ、パレードか何かのように砲台に腰掛ける統率者らしき人物を囲うように進行している。
「おいおいタイムリー過ぎるだろ」
僕は困惑した。
彼らの被っているマスクーーあれはどう見てもホッケーマスクだ。
おまけに人数も十三人。
なかには布袋みたいなのを被っている奴もいたがニュースでやっていた例の猟奇殺人鬼たちの特徴と一致していた。
ホッケーマスクたちは漏れなく体格が良く、質の良さそうな火器を携えており、佇まいからも隙がうかがえない。
多分少年たちとは比べものにならない程に戦い慣れしているはずだ。
「あれと接触してもろくな目に遭わないだろうな」
《イヤア……》
先輩も同じ意見の様だ。
すぐにでも逃げたかったがもう遅い。身体をぴったり床につけて見つからない様にやり過ごすしかなかった。
彼らが陸橋の真下に差し掛かるとガシャンガシャンと戦車の質量がアスファルトを揺らす振動が、陸橋ごしに伝わってくる。
うみゃ……おおおお……おおおぅ……。
正直生きた心地がしない。ドローン先輩が騒ぎ出さないか心配だったが今はプロペラを止めて大人しくしてくれていた。
先輩、案外空気読めるんすね。
《……》
もしかして怖がってる? まあ向こうは戦車だし戦闘用機械としてはあっちの方がかなりグレードが上っぽいもんな。
「あ、まずいな」
このままいくとホッケーマスクたちに確実に、設置した餌が見つかってしまうかも。
だがもう取り返しがつかない。できるのは彼らが気付かずに通り去ってくれるのを祈ることだけだ。
果たしてホッケーマスクたちは立ち止まった。
ひとりが走り出して歩道にかがみ何かを調べ始める。まずいことに餌として設置していた偽フライドチキンが気づかれてしまったようだ。
だがそれだけだった。
彼らは二言三言言葉を交わすと何事もなかったかのように行軍を再開した。
「良かった」
どうやら偽フライドチキンはただのゴミだと判断してスルーしてくれたらしい。
彼らが霧の向こう側に消えかけたのを見計らって立ち上がる。
「今のうちにーー」
逃げようと言いかけて違和感が襲ってくる。
おかしいぞ。
いつの間にかホッケーマスクが十二人になってなかったか。
「残りひとりはどこだ?」
《イヤア?》
嫌な予感がしてドローン先輩を抱えて欄干から飛び降りたのは英断だった。
うみゃ……おおおお……ぼえええ……‼︎
一際でかい咆哮の後ーー
キラリと霧の向こうから閃光が走りーー
凄まじい轟音とコンクリート片を含んだ暴風に晒される。
間違いなく戦車による砲撃だった。
見上げると今しがたいたはずの陸橋の真ん中が吹き飛ばされて横断できない状態に破壊されていた。
危なかった。
判断が遅かったら直撃して死んでいた。
餌を見つけた段階なのかそれよりも前なのかは分からないがホッケーマスクたちは確実に僕の存在に気づいている。
「……」
推測を裏付けるようにもうもうと湧き上がる瓦礫の煙を切り裂いて、巨大な斧が現れる。
そして向こう側から一人やってきたのは大柄なホッケーマスクだった。




