肉体強化がLV10になりました
《ヒーハー生存戦略を起動しました٩(๑❛ᴗ❛๑)۶》
「元気だなあクオヴァディスさんは」
幸いステーキ丼のおかげで経験値はかなり蓄積されている。
おかげでレベルアップし放題だ。
《たくさん強化して戦車をぶち壊しましょう》
いや戦わないからな。
念のためのスキル強化だからな。
《ヒーハーΨ(`∀´)Ψ》
「荒ぶってるなあ……。まあ戦闘に備えるならとりあえずこれいってみるかな?」
《精密射撃が(略)になりました》
精密射撃はLV1時点でかなりの命中精度を与えてくれているが、強化しておいて損はないだろう。
撃ち損じが減れば弾丸代が減るのでお財布にも優しいはずだ。
《精密射撃がLV10になりました》
《精密射撃が狙撃に変質しました》
狙撃――離れた場所から敵を狙うやつだな。
射撃統制を起動させると、スナイプモードとやらのUIが展開された。狙撃を行うため、射弾の修正や補正を拡張現実でアドバイスしてくれるようだ。
「今時点では役に立たないけど安全圏から攻撃できるのは非常に有難い」
こうなったら狙撃用の装備も揃えておきたいところだな。
帰ったら早速、発注するか。
「……それからこれも強化しておこうか」
《暗殺術が(略)になりました》
暗殺術。
名前は大仰だが実際には、ナイフを使用した格闘技術が上達する実用性の高いスキルだ。
最大値まで上げておけば戦闘に際しお役立ちなのは間違いない。
ちなみに今回も強化アナウンスは省略モードである。
《暗殺術がLV10になりました》
「よしよし」
《次のスキルからひとつだけアンロックする権限が与えられました。選択してください》
銃拳道
暗器舞踏
BARITSU
「……ナニコレ?」
《近接格闘術です(ง'ω')وバッチコイヨ》
バッチコイヨじゃねえよ。
ラインナップが飛ばし過ぎてやしないか。暗殺術以上に胡散臭さが倍増しているじゃん。
というか確実に架空の武術が混ざってる。BARITSU、君だ。
説明書きには「相手の行動予測を行いカウンターを常とする近接格闘」などともっともらしい文がある。
だがどう見てもライヘンバッハの滝から落っこちても死なない名探偵が使うやつだ。
他二つの名称も聞いたことない。本当に近接格闘術のスキルなのだろうか。
「字面の厨二病臭からして実在がかなり疑われる……まあいいか。これにしよう」
《銃拳道を解除しました》
《銃拳道がLV1になりました》
漢字からして分かるように銃を併用する截拳道でアイコンもそのまま拳銃と拳がクロスしている絵だ。
実用性は戦ってみないと分からない、けど銃を使う自分にはぴったりだろう。早速取得したのでドラゴンへの道を突き進みたいと思います。はい。
「後どうするかな。……そうだあれをカンストさせておくか」
端末画面に力こぶのアイコンを呼び出すと連打する。
《肉体強化が(略)になりました》
《肉体強化がLV10になりました》
肉体強化はコストが高くてなかなか強化できなかったスキルだ。
戦闘にも日常にも使えるし汎用性は非常に高い。万が一戦車に襲われても、また襲われなくても十分役に立つだろう。
アナウンスが終わる頃にはミシミシという音。
全身の筋肉が作り変えられていく感覚が訪れる。スキル説明によれば筋肉繊維の構造を変化させる、とかだったはず。
結果、見た目には然程、変化はなかった。ただ筋肉が鋼の線を束ねたみたいに硬いのに、動き自体はしなやかになった。
「うわバックパック背負っている感覚がなくなるくらいに軽い」
《五百円硬貨グニュってできるのではᕕ(´ ω` )ᕗ⁾⁾》
うわマジでできた。すごい。すごく勿体ない。
「……でもあれ?」
確かに肉体強化の結果は上々だ。
だが本来あるだろう別のアナウンスがないのはどうしてだろう。
LVがカンストすると必ず流れてくる派生スキルやスキル統合などのあれがない。
「今回はスキルカンストの報酬が貰えないの?」
そういえば悪臭のスキルを最大まで強化した際もノーリアクションだったな。戦闘中だったから忘れてた。
これクレーム案件では?
《成長限界のようです》
「限界って……これ以上鍛えようがないってこと?」
《正確には今の生存戦略ではこれ以上の強化設計が見込めませんʕ⁎̯͡⁎ʔ༄》
まあ確かに悪臭も肉体強化も人間の領域をかなり超えているスキルだ。もう成長できないと言われればそうですかとしか返しようがない。
ただ残念ではある。
折角、大量のカロリー分を注ぎ込んだのだから、それに見合うだけのサプライズは欲しかった。
「まあないなら仕方ない。他にできることをするか。まだカロリーには余裕があるし後は……未習得スキルなんかあったかな」
《現在、未習得スキルはありません》
「ああ……女王蜘蛛戦でガチャに費やしたの思い出した」
《……ショボーン(´-`)》
あのスキルガチャよく考えたら未習得スキル二個でひとつ新しいスキルが手に入るってかなりコスト高くないか。
ほかに方法がなかったとはいえ非常に勿体無いことをした。
ガチャは便利だし楽しいけど御利用は計画的にしたいものだ。
「……となるとできることは限られてるな」
既にあるスキルを幾つかカンストさせるか。
成長の余地はまだあるもののカロリーを投入しまくればすぐに底が見えそうだ。
果たしてこの先どの程度までスキルを強化できるのだろう。
「うーん……もしかして生存戦略そのものに限界きてる?」
《σ( ̄、 ̄)》
《σ( ̄~ ̄)》
《く(´⌒`;)ゞ》
あっクオヴァディスさんが考え込んだ。珍しい。
もしかして図星だったのか。
それからさっきまでの元気が嘘みたいに黙ってしまった。
まあいいか。そもそも戦車相手に肉弾戦を想定するのがどうかしているのだ。
既に人間の限界は越えているわけでこれ以上なにかを求めるのもおかしな話だ。
そんなことを考えているとポップ音。端末画面をみると文字が浮かんでいた。
《生存戦略ver.2.0の御提案につきまして》
……なんですかそれ?
◆
「戦車のほうはどんな感じ?」
「あー……まだいる」
地上の偵察に行ったウルフが戻ってくるとそう教えてくれた。まだ暫くは足止めを喰らうことになりそうだ。
駅舎側の地下連絡路から迂回する案が出たが、僕が却下した。女王蜘蛛との戦いで落盤が酷く、とてもではないが進めないからだ。
「ウロウロしてるみたいだけど何か探してるの?」
「鉄くず喰ってるだけだ。終わったらすぐ都心に向かうだろ」
ああ鉄くずで弾丸生成するんだっけ。それ本当に戦車なのか?
ただ面倒な戦闘が回避できるならそれに越したことはない。もう暫くここで待機するしかないな。
「……」
ほかの少年たちに視線を移した。
彼らはコンクリートの壁に背をつけじっとしている。先程から浅く長い呼吸が聞こえてきていた。
喘息に似た症状が出ておりたまに咳き込んだりしている者もいる。
自分自身はマスクなしでも全然苦しくないし、体調も変化しないから全然実感湧かないけど、霧が心身に様々な影響を出すのは確かなようだ。
「そういえば戦車が都心に向かうってどうして分かるの?」
「あ゛? ……どうみても郷愁病の症状じゃねえか」
何それ? というか戦車が病気なのおかしくない?
ああ、猫の脳みそ使ってるんだっけ?
「霧の汚染は精神までイカレさせんだよ。熱に浮かされてフラフラ歩き出して、気づくと都市の中心に向かいだす。まあよくあるビョーキのひとつだな」
夢遊病的な?
そういえば濃霧が原因で暴走したとか言ってたな。
人間も動物も、どうも機械にすら影響があるうえに、肉体や精神を狂わせるってどういう原理なんだろ。
「俺もちょっとだけ理解できる……」
「君も?」
「あっちの方角を眺めてるとアタマぼんやりして懐かしい気持ちになってくる。行ったこともねえのにな」
「……」
「これが酷くなるとああなるんだろうよ」
ウルフは手の甲に刻まれた「13」という文字を眺めながらそう言って自嘲気味に笑った。
あっちの方角は都心だ。
何故そんな場所を懐かしく感じるのだろう。
環状線を潜って都心に近づく度、霧の濃度が上がるという理屈。それが正しければ、それはひとつの答えに辿り着く。
即ち、霧の発生源は東京環状一号線。
地図を広げて見る限り、そこにあるのは本来は東京駅や皇居だ。
八号の話ではそこまで辿り着き、帰還した者は未だいないと言っていた。
「ようやく地上に戻れそうだな」
「いやはや余計な戦闘をせずに済んで助かった」
暫くして外を覗くと件の戦車は消えていた。
うみゃ……おおおおぅう……。
気のせいかもしれないが霧の向こうであの物哀しい咆哮のようなものが響いている気がした。
夢遊病患者のようにフラフラとあちら側に行ってしまったのだろう。
戦車は燃料が尽きるか、壊れるか、或いは霧の先に辿り着くまで動き続けるのだろう。
その果てに何が待っているのか僕はほんの少しだけ興味をそそられた。
書き溜めに入りたいと思います。3月初めには更新できるかと思います。
あと感想お待ちしてます。




