鉄と硝煙とオイルの臭いです
◆
「これをあんたがぶっ殺したのか」
地下二階の階段に鎮座する八本脚で五つの複眼を持つ巨大生物。
例の神輿入道蜘蛛である。
案外まだ生きているかもと思ったが残してきたままの姿で完全に沈黙している。
「いやーこんなデカイの仕留めるとかないわー」
「みろよ、弾丸が同じ場所貫いてるぞ!」
「殻売ったら結構金になんな。これで秋田助かるぞ」
「社畜のくせにやっぱバケモンだわ」
「やべえスカンクぱねえ! スカンクマジ最強!」
この怪物を仕留めたことが少年たちには驚異だったらしくひとしきりワイワイと盛り上がっていた。
彼らも蜘蛛の怪物と戦闘したことがあるそうだが一度、入道蜘蛛サイズと遭遇したきりらしい。
以前まで蜘蛛だらけだったが、唐獅子との争いやショゴスさんの大暴れのせいかだいぶ減少しているようだ。
「いいからさっさと運べ」
「「「うっす」」」
「結構、重いな。いけそうか弟者」
「ダックスがいりゃあ余裕っす」
なんだかんだ手伝わなくても運べそうな良さそうな雰囲気だ。楽チンだ。
「ところでどうやって食べるんだろ」
食材というのは何を隠そうこの神輿入道蜘蛛だった。
食材認定したのは八号さんだ。
彼が食べられると言うから食べてるのだ。
ただ僕としてはさすがにこのグロテスクな怪物を食用にしたいとは思わなかった。すべて少年たちで食べてもらうつもりだ。
「生に決まってんだろ」とウルフ。
「うげえ……いったいどんな味が……?」
チャレンジャーだな。
某四部の漫画家先生ですか?
「蟹缶に似てる」
「蟹じゃなくて蟹缶なんだ。というか蟹缶食べたことあるんだ」
「破落戸市場で盗んだ。あれは美味かったな」
人里には缶詰があるんだな。
じゃなくて盗みは駄目だろ。万引きと強盗とか当たり前みたいにやってそうだなこいつ。
《たこはちは食用油のストックが残っているので揚げものにしたいとゆってました^_^》
「揚げ物かあ」
クオヴァディスが端末に動画を引っ張ってくる。
どこかの国のバラック市場だ。
屋台の店主らしき男が小さな蜘蛛を次々と油に放り込んで揚げスナックにしていた。
《タランチュラのフライです。カンボジアではポピュラーな料理のようです┌(┌^o^)┐》
「カンボジア料理かあ」
他国の食卓に並んでいるからといって、食べたくはならないぞ。
あとクオヴァディスさんその顔文字は禁止な。
《調べによると蜘蛛料理は圧政や食糧難の名残だとか》
「うへえなら不味いんじゃん」
《ニンニクと塩をかけて揚げるのですが味はフライドチキンに似ているそうです》
「フライドチキン……だと⁉︎」
大好物なんだけど。
言われてみるとこんがりきつね色に揚がった様子は、確かに少しだけ美味そう。いや食べないけどね。僕はちっとも興味ないけどね。いやでもフライドチキンと聞いてしまうと。
「……フライドチキンってなんだ?」
「食べたことないの?」
「油で揚げるのは腐ったもんを食うか金のある時だけだ」
少年たちが暮らしている――廃棄地区だったか。蟹缶は流通しているが孤児が飢えて盗みを働く程度には貧しい場所。
うーん駄目だな。今の人里の状態が具体的にイメージができない。ただ僕が生きていたのは飽食の時代とは比べ物にならない程度には貧しいのだろう。
「……スカンク」
「ん?」
「俺らはあんたからIDを奪おうとした、殺そうともしたんだ」
端末を見ているとウルフがそう話しかけてきた。
「なのに何故、おれたちを餌付けしようとする」
「餌付けとは人聞きが悪いな」
ウルフの疑問――タイマンで負かした相手を殺しもせずに見逃し、あまつさえ見返りも要求せず食事を与えるのは何故か。
勿論、質問の答えははっきりしている。
僕が人殺しをしたくないからで、彼らがおなかを空かせた子供だからだ。
ただそれを説明しても通じないだろう。
何故ならお互いに生きてきた環境が違い過ぎる。八号との会話や、彼らの行動からそれは感じていた。
「君はまだ僕を殺したい? コンビニが欲しい?」
「コンビニは欲しいけどあんたは襲わねえ。何度死んでも多分勝てねえ」
第一恩がある、と少年は言った。
「なら良かった。僕もごはんを奢った甲斐があった。せっかく、初めてのお客さんなんだから仲良くしておきたい」
「あの蜘蛛も奢りなのか?」
「だね。フライドチキンは美味いから期待してるといいよ」
ウルフ少年は素っ気ない顔で「分かった」と言ってその場を離れた。
よく見ると耳がピクピクしていた。興味ないわけじゃなく性格が素直じゃないだけのようだ。
◆
コンビニへの帰還途中で戦闘はなかった。
ただ一度危険な存在との邂逅があった。
気づいたのは長身痩躯――幽霊と呼ばれる少年だ。地上に上がってからすぐ彼は頭頂部の獣耳をピクつかせ制止を呼びかけてきた。
「ヤバそうなやつがいるようだのう」
もうひとりの長身痩躯――柴がマスク越しに何かを嗅ぐような仕草をする。
「鉄と硝煙とオイル……この臭い嗅いだことがあるっすね」
獣化していると嗅覚と聴覚が発達するようだ。
一旦地下出入口に隠れていることになり暫くして警報。遅れて微震が始まった。
揺れるアスファルト――何か重量のあるものが地面を踏みつけて移動する音。
外をそっと覗き込むと入る前よりもミルク色の霧が濃くなっていた。そして向こうから巨大ななにかがやってくるのが分かった。
うみゃ……おおおおぅう……。
猫の鳴き声を野太くさせたような不気味な咆哮のようなものが辺りに響いた。
うわ……なんだあの機械の化け物。
巨大な濃い灰色の異形だ。
砲塔に生やした五本脚でガシャンガシャンと道路を闊歩する鋼鉄の獣だ。
そいつは落ち着きなくぐるぐると主砲を動かしては、路上の放置自動車を踏み潰している。
ウルフの指示で一旦、地下に戻った。
「ちっ錆喰らいかよ……厄介だな」
錆喰らい――東京外環自動車道を警備巡回する朝霞の自律戦車だそうだ。
都心から逸れた大型の怪物を人里に入る前に始末する役割を持っているらしい。
うみゃ……おおおおぅう……と獣じみたサイレンの様なものを発しながら、軽自動車にミシミシとのしかかって潰している。
道路上の廃車などを喰らって砲弾を生成するらしいのでそういう名称らしい。
何故厄介者かといえば敵味方の区別がつかず、近づいた墓暴きでも問答無用で襲われるからだとか。
うん、あれはやばいな。
攻略しろと言われても絶対に無理だ。
銃撃くらいではモノともしなそうな鋼鉄の装甲と、巨大蜘蛛すら一撃で仕留めるだろう強力な主砲。
更には機関銃らしき装備も備わっている。
そもそも人間が兵器とやりあうという思考がどうかしているな。いつから僕は脳筋になったのか。
襲われたら逃げの一手に決まってるだろ。
「錆喰らいがなんで外環から移動してるんだろ?」
「先月の濃霧で暴走ったんだろ」
「機械がそうそう狂うかよ」
「知らねえの。駐屯地の連中、AIじゃなくて猫の脳みそ使ってんの」
「だから不浄猫だけは襲わねえのか。クソが。何人殺されたと思ってんだ」
少年たちが地上を覗き込みながらボソボソ言葉を交わしている。話によると目の前の戦車は霧によって暴走しているらしい。
「やり過ごせるとは思うけど念のため、スキル強化でもしておくことにするか」
《お任せくださいᕦ(ò_óˇ)ᕤ》
感想とかありがたいです。質問とかでもいいのでしてもらえるとモチベーションになります^_^
次回は久々にスキル強化回となります。




