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カロリーが足りません(˃̵ᴗ˂̵)ノ 〜終末食べあるきガイドブック 魔物グルメ編 in 池袋〜  作者: 大場鳩太郎
第一章

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34/89

一定条件が満たされた為、◾︎◾︎◾︎◾︎が発動します

生体機能の恒常性ホメオスタシスはようやく安定したみたいだ。

だから大丈夫。

ダーリンはきっと大丈夫。

AIは反乱しちゃったけど、核戦争も起きちゃったけど、エイリアンも襲来したし、ゾンビウィルスがパンデミックしたし、霧向こうからモンスターもやってきたけど、きっときっと大丈夫」


は?


「ダーリンはこの終末世界でどんな危険な目にあっても生き残れる」


多分、三分はとうに過ぎていた。

けれど彼女はカップ麺のことなど忘れてしまったかのように話しかけ続けてくる。


彼女が何を言っているのか半分も理解できていなかった。

ただいつの間にか潤んでいたその瞳にどきりとさせられる。


「聴こえていないかもしれない。忘れてしまうかもしれない。でも、それでも」


彼女は何事かを告げると最後に笑った。

まるで車窓越しに別れを告げるように。

顔を僅かに哀しそうに歪めながら笑いかけてくる。


「元気でいてね」




◆◇◆◇




「……黙示……録」


何故、そんな言葉を最後の力を振り絞って口にしたのかは分からない。

ただ今がその時であるという確信はあった。


《一定条件が満たされたため、◾︎◾︎◾︎◾︎――黙示録が発動します》

《これによりユーザーの健康状態に致命的な異常が発生しました》

《生存戦略におけるすべてのスキルが使用できなくなりました》


黙示録――その言葉には二つの意味がある。

記憶の向こうでそう誰かが言っていた。


ひとつは『終焉』。

終末論を記した宗教書物のことであり転じて、そこに描かれるようなこの世界の破滅を指す言葉。


そしてもうひとつはギリシャ語でアポカリプス、その言葉の本来の意味は――


()()()()()()()()()()』。




《兵種:ショゴスを獲得しました》




テケリ・リ。


それは楽器に似ていた。例えるなら終末を告げる喇叭ラッパの音に似ていた。だが響いているのは黄昏た雲の切れ間からではなく頭のなかからだった。


テケリ・り。テけリ・リ。


吐き気がくるよりも先に嘔吐していた。それは口にしたばかりのライトミートでも昨日の猫缶でもましてやミネラルウォーターでもなく、不快な悪臭を伴った重油に似た黒い粘液質な何かだった。


社畜時代慣れない酒をしこたま飲まされた時、胃が出てくるんじゃないかと思うくらい吐いたことがあったけれど比ではなかった。


てケリ・リ。テケり・り。てけり・リ。


喉の奥から溢れ出すそれはどれだけ流れても勢いが止まらず、切断された腕からも血の代わりに、そして喉からだけではなく身体じゅうの穴という穴、目の隙間からも滲み出てていく。


テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ。テケリ・リ。


その喇叭に似た「鳴き声」が粘液の発するものだと気づいた頃、既にそれはひとつの漆黒の不定形な粘液生物スライムと化しており、僕はその一部となっていた。


《かりそめの不死性を獲得しました》

《触手を獲得しました》

《溶解を獲得しました》

《捕食を獲得しました》


どこからともなくアナウンスが流れた。直接頭のなかで響いたのかもしれないし携帯端末がまだ辛うじて破損しておらず音声を流したのかもしれない。


だがそんなものはどうでも良くなっていてただただ腹が減っていた。周りのものがすべて食べ物に見えて仕方がないくらいだ。


だから手始めに群がっていた入道蜘蛛三匹に覆い被さると、触手で嬲りながら、溶解させ、ペロリと捕食する。


《兵種:ショゴスがLevel2になりました》


うん全然足りない。


更に近くにいた大入道蜘蛛二匹に這い寄ると溶かし、嬲り、ペロリと平らげという流れで取り込んでいく。


《兵種:ショゴスがLevel3になりました》

《兵種:ショゴスがLevel4になりました》


無論、蜘蛛たちは抵抗するけれど、細胞のひとつひとつから滲み出す悪臭はあらゆる生物を畏怖させるし、不定形なこの身体は物理攻撃がほぼ効かない。そして少しの隙間があれば無抵抗な体内に侵入でき、内側から溶かすことができた。つまりはほぼ無敵だ。


うん駄目だ。

全然足りないや。


《兵種:ショゴスがLevel5になりました》

《兵種:ショゴスがLevel6になりました》

《兵種:ショゴスがLevel7になりました》


どれだけ食べても食欲は留まるところを知らない。

身体を肥大化させながら、周りにいる蜘蛛の化け物やら唐獅子たちを取り込み、更に体積の増大を繰り返していく。


もっと食べたいもっと食べたい。もっと量を食べたいしもっと色んなものを食べたい。もっともっともっと食べたい。食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい。


《兵種:ショゴスがLevel27になりました》

《兵種:ショゴスがLevel35になりました》

《兵種:ショゴスがLevel48になりました》


あの女王蜘蛛なんかどうだろう。

どんな味がするだろう。甘いだろうか。塩っぱいだろうか。美味しくても不味くても味がしなくても栄養があってもなくてもなんでもいい。とりあえず食べよう。


このまま体積を増やしてカラダを伸ばしていけば女王蜘蛛の巣まで辿り着ける。相変わらず半透明のカーテンが鬱陶しいけど、不定形な肉体には通用しない。僅かな隙間をかいくぐれば意味がない。


【(わ、た、し、は、き、れ、い‼︎)】


女王蜘蛛の鳴き声はテトラポッドに似た軀――そこの僅かにひび割れた場所から聞こえてきた。そして亀裂が走ると、そこから蛹が蝶に羽化するように別の蜘蛛が現れる。


計十三の眼に似た模様のある翅を背負った上半身が女性に似た十本脚の蜘蛛だ。


【(お、ま、え、は、な、あ、に?)】 


一瞬だけ、触手の先だけがわずかに女王蜘蛛に届いてひと舐めした次の瞬間――爆撃を食らって体積が激減していた。


【(み、に、く、い! き、た、な、い! く、さ、い! し、ね‼︎‼︎)】 


女王蜘蛛の羽ばたきと共に鱗粉に似た何かが生まれている。それはチクタクチクタクと鳴る奇妙な蝶の群れだ。


蝶は美味しそうな色をしていた。

けれど一定時間が経過すると爆発する生物で、取り込もうとした矢先から肉体が焦げて使い物にならなくなる。


食べることができない蝶々の存在に苛立ってくるが、まだまだ蜘蛛たちや彼らが運んできた唐獅子や大神の死骸など資源リソースは残っていた。


《兵種:ショゴスがLevel142になりました》

《兵種:ショゴスがLevel150になりました》

《兵種:ショゴスがLevel161になりました》


食べては増えて、食べては焦げて、食べは増えてを繰り返しながら、女王蜘蛛を追い詰めていく。もうちょっとで食べられそう?


……でももし女王蜘蛛を食べても満たされなかったらどうしようかな。


まあその時は地上に出ればいいか。


外にはきっとまだまだたくさんの食料(いきものがいるはず。

それらをすべて平らげよう。

心ゆくまで平らげよう。

きっと地球のあらゆる食料を平らげる頃にはお腹も満たされるに違いない。


《いえ、このままでは女王蜘蛛には勝てません》


何処かで声がした。

誰?

次回で池袋編ラストです。


かりそめの不死性:

計画細胞死アポトーシスを抑制して無限増殖を繰り返す、癌や単細胞生物に似たショゴス本来の性質をスキル化したもの。

カロリーが続く限りどこまでも増大し続け、またすべてが壊死しない限り、指先程度でも残り続ければ死なない。

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