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スキルガチャにすべてを賭けますか?

女王蜘蛛の持ち駒は潤沢だ。

飛車や角を落とそうが向こうは予備から新しい駒を続々と投入してくる。


だが裏を返せば女王蜘蛛打倒がすべての解決を意味する。

操り糸の存在によってその可能性の高さが裏付けされた。


《問題はやはり黒いレースのカーテンですね》

「それな」


あの防弾カーテンはマジ邪魔。

どれだけ撃ってもその先には届かない以上、あれをどうにかしなければ女王蜘蛛打倒は無理だろう。


《攻略方法はあります》

「どんな⁉︎」

《あのカーテンの幾何学模様はニードルレースという技法で編まれたものと酷似していました》

「ニードル……何?」

《一七世紀頃に生み出された編み物の技法で、たった一本の糸と縫い針のみを使って作りあげます》


端末に提示されたのはアンティークレースとやらの紹介記事だ。

確かに女王蜘蛛のものと酷似しているけどそのオシャレカーテン情報いる?


《故に技法通りであれば模様と模様の継ぎ目は糸が通っていません》

「つまり?」

《隙間を通せば銃弾をぶち込めますΨ(`▽´)Ψ》


クオヴァディスが殺る気なのは頼もしいけど、それあくまで推測の話だろ。

第一、問題がある。


「……やろうとしてできるものなのか?」

《成し遂げるにはそれこそ針に糸を通すような射撃の腕前が必要になりますね》

「残りの余剰カロリーは?」

《875kcalです》

「生存戦略をギリギリ三回分か……」


どんなスキルを獲得或いは強化すればそんな曲芸じみた射撃が可能になるんだ。

どうにか知恵を絞って「命中精度」を調達するしかない。


「可能性があるとすれば、これか――」

《射撃統制がLevel10になりました》

《自動射撃を獲得しました》


自動射撃は『手近な敵対者に反応して勝手に攻撃をしてくれる』便利機能らしい。


打倒女王蜘蛛に求めるスキルではなかったが、この状況には有効だ。

戦闘をこなしつつ、端末操作にも意識を割ける。


《次のスキルからひとつだけアンロックする権限が与えられました。選択してください》


弾丸作成。

跳弾。

二丁拳銃。


三択にも望むものはなし、期待通りにはいかないが……ここは二丁拳銃かな。


《御主人様、恐らく手持ちのスキルでは解決できません》

「諦めろってこと?」

《いえ。必要なのは定石を超えた手段で得た銃スキルです》


なんだそれ。

残り572kcalでどうやって手に入れるんだよ。

スキルをカンストさせる以外に新しいスキルは手に入らないんだぞ。


……いや他にスキルを得る方法があったか。


「射撃統制をカンストさせたから歩兵は卒業済みだな」

《サブ兵種は空欄です^_^》

「なら新しい兵種から基礎スキルが手に入る。……問題はどれを選ぶかだ」


最有力候補は断然、砲兵だ。

多分、何かしらの銃スキルを持っているだろう。

だが定石では辿り着けないというクオヴァディスの見解に従えば、却下になる。


《前方、御注意ください》

「分かってる!! 大神の突進は本当に厄介だな!!」


こうして考えている間にも敵の襲撃は続いている。

自動射撃で応戦しながら思考を続ける。


先の見えない領域に手を伸ばさなくては欲しいものは手に入らない。

つまりリスクを承知で予測のつかない選択をするしかない。


そして考え抜いて出した結論――


《サブ兵種:おもちゃの兵隊を獲得しました》


それは少年斥候をカンストさせた際にアンロックされた奇妙な兵種だ。


名前からではどんな効果があるのか想像もつかない。

果たしてネタで終わるか起死回生の一手になるか。

これは一か八かの賭けだった。


《基礎スキルからいずれかひとつを獲得することができます》


自動戦闘。

カプセルトイ。


説明書きは読まず敢えて勘で選択する。


《これ以上は基礎代謝に支障がでますがよろしいですか?》

「続行してくれ」

《カプセルトイLevel1を獲得しました》

「……これは?」


端末画面に現れるスロットマシンの筐体。

左側に振り下ろしのレバーが備え付けられており中央にあるリールもひと枠のみというレトロなデザインだ。


《トークンを二枚入れてスロットを回してみよう》

《素敵な可能性に出逢えるよ》


素敵な可能性……ってなんだ?


〈検閲校正、止血、浄水、クリック音、火打ち石、神経毒、蝋燭、二丁拳銃〉


次に現れたのはスキルの一覧だ。

お行儀よく並んだ七個のアイコンはどれも習得しないまま放置状態になっているスキルである。


「いったいどういうスキルなんだ?」

《未習得スキルをふたつ代償にして、兵種もしくはスキルをひとつ解放できます》

「……要はスキルガチャか」


面白いスキルを手に入れてしまったと感心している余裕はなかった。

試しに使い道のなさそうなスキルをふたつ――浄水と蝋燭を投入。


ガシャンという音と共にハンドルが上下すると、リールに表示された様々な名称が回転し始めた。


高速過ぎてほぼ視認できない名称がランダムで出現しては消えていく。

止め時が分からないので適当にタップ。


《美肌が解除されました》

「いらんのですが!」


何に使うのかよく分からないスキルを手に入れてしまったが、期待は確信に変わっていた。

きっとこれで防弾カーテン突破できるスキルを手に入るはず。


「ソシャゲで培った目押しの力を見せてやる!」

《嗅覚強化が解除されました》

「違う!」

《兵種:おもちゃの兵隊が解除されました》

「またお前か!」

《声帯模写を獲得しました》

「こんにゃろが!

《そういえばソシャゲでもハズレばかりでしたね(´-`)》

「どうせくじ運ないですよ!」


未習得スキルはもう残りふたつ――つまり次の一回が最後だ。

こうしている間にも戦闘は続いている。


《ゾンビ化された唐獅子が十匹を超えました。そろそろ危険です》

「……ああ」


苦しい境遇だったがラストチャンスだ。

これにすべてを賭ける。


《動体視力がLevel2になりました》

《警告! 生存戦略で大量の――》

《ハッピトリガーを使用します。有効時間は10秒です》


戦闘を続けながら、なけなしの余剰カロリーを消費して下ごしらえを始める。


強烈なアルコールを呷ったようなガツンとくる酩酊感の後、辺りが急に静かになった。


極限まで研ぎ澄まされた感覚でリールに降りてくる文字に集中する。


ひらめき、薬品生成、外反拇趾、爪強化、冷たい指、暗殺者、毒耐性、猟兵、長時間睡眠、自己再生、老化、擬死、殺戮衝動、もち肌、電撃、造血、鱗粉、猫耳、粘液、仮想敵――


ゆっくりとスクロールしていく様々な名称。

効果は名前から想像する他ない。

慎重に選びたかったがハッピートリガーの制限時間は残り六秒。

逸る気持ちを抑え、タップの瞬間を待つ。


保護色、貧血、鱗化、腰痛、発火、ハイジャンプ、強化兵――


精密射撃


「これだっ‼︎」

《精密射撃が解除されました》

《精密射撃を獲得しました》


精密――極めて細かい点まで行き届いていること。

名称通りであるならば、女王蜘蛛のカーテンを潜り抜けるのに役立つスキルのはず。


《射撃演算領域をCQBにおける射撃精度向上に特化させるスキルです》

「よく分からんが早速、試し撃ち――」


自動射撃で対処していた唐獅子十匹と大神一匹の頭上を順番に撃っていく。


スキルを得て劇的な変化があったわけではない。


ただ二点。

射撃補正による照準点の修正がより速くより正確に機能するようになったこと。

そして二十メートル近く離れた敵にも命中率が百%を維持し続けていたこと。


それだけでゾンビ犬の頭上にある細い操り糸に弾丸が命中する。

そして文字通り糸が切れたようにバタバタとその場に倒れていった。


《御主人様、後ろです》

「‼︎」


巨躯の猟犬が小刻みに左右にステップを切りながら突進してくる。

避けきれない――覚悟を決め鉛弾で殴りつけた。


頭上の操り糸を断ち切ると、大神は前脚から崩れ落ち、僕の傍を転がるように通り過ぎてシルクのカーテンに突っ込んでいく。


「……ふう危なかった」

《……》


それにしても精密射撃の有用性は証明された。

あれだけ苦戦したゾンビ犬たちを一分を経ずしてすべて葬り去ることに成功してしまった。


これで後は女王蜘蛛だけ。

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