17 エピローグ:レオさん視点
ケンタくんと急に会えなくなってしまった。
もともとゲーム内でしか会った事がない相手なので、ログインして来なくなってしまったら連絡を取る手段はなくて、相手の状況もわからない。
今までもリアル事情で辞めたり、あまり遊べなくなったりとかする人は沢山居たし、それが普通なんだけど……ケンタくんとこのまま縁が切れてしまうのは嫌だなと思っている。もうちょっと何かゲーム以外でも連絡を取れる方法を決めておけばよかったと後悔している。
ケンタくんと仲が良かったラビさんにも聞いて見たけれど、一緒に遊んでいた時に突然回線落ちみたいにして消えてしまってそれっきりらしい……ゲーム機の故障かもしれないし、ケンタくんの家の事情かもしれない。
俺も仕事が忙しくなったのもあってゲームにログインする事も少なくなってしまったが、ゲームが出来る時間があるときはいつもケンタくんを探していた。一年くらい経ってしまったのでもうゲームは辞めてしまったのかもしれないなと思いつつもログインしている時は必ず名前のサーチはしている。
今日は朝早く目が覚めたので、バザーのキャラをログアウトさせておこうと思って見てみると「おはようございます」と話しかけてきてクリームパンとジュースを買う人がいる。もしかして……と思って話しかけようとしたら走って行ってしまいそうになったので、思わず「逃げないで」と声をかけた。
キャラも名前も違うけれど話してみたら思った通りにケンタくんで、ゲームをやらなくなった理由とか、ゲームキャラが違うとか色々と事情があるようだけど、詳しくは話せないと困っていた。
まあ、また一緒に遊べるそうなので今度こそはちゃんと連絡先を交換して、何かあってゲーム内で会えなくなった時にリアルで連絡できるようにしておいた。
しばらく遊んでいなかったのでバージョンアップで増えた新エリアのクエストやミッションなどを、ケンタくんと一緒にのんびりお互いの日常の話をしながら攻略していている。
「ここレオさんと来れると思って居なかった」
「まあ、仕事でなかなか来れなかったからね。ごめんね」
「ううん。僕もあんまり長時間出来ないし。ラビさんとこ新しいミッション全部クリアしたらしいよ」
「もう? さすがだね」
「でもさ、寝ないで攻略とかあそこのコミュにはついていけない」
「リアル事情はどうなっているんだろうね」
「ねえ」
ケンタくん……サクくんは病気であまり長時間ゲームが出来ないので、忙しい俺とあまり時間が合わない。待ち合わせ時間とか先に連絡してから遊んでいるうちにゲームよりもリアルで連絡している方が多くなって来た。
サクくんからもっと色々話したいから「会いたいな」と言われてうれしかったけれど、サクくんは高校生と聞いていたので、流石に飲みに行ったりは出来ないし、こちらは大分年上なので警戒されるようなあやしい感じにならないように、待ち合わせをお昼ご飯を食べながら少し話をするくらいの場所にして、会う約束をした。
ラビさんも連れて来ると聞いて、リアルでも仲よかったのかとびっくりしたけれど、そういえばゲーム内でも良く一緒に遊んで居たなと思い出した。
待ち合わせの場所にやってきた時、二人が手をつないで来たので今時の男子高校生ってこういう感じなのか? と驚いたけど、まあ二人が普通な感じにしていたのでそんなものなのかなと納得はした。でもちょっとうらやましいと言うか、俺も聡久くんにさわってみたい……変な意味じゃなくてリアルに存在しているのをちゃんと確かめて見たいと思った。
聡久くんはゲームの中で会って話していた時とはイメージが違っていて、病気で入院していたと聞いていたので、もうちょっと細い華奢な感じをイメージしていたけど、明るい今時の子供という感じでとても可愛い感じの子だ。でも話す時の感じとかしぐさがケンタくんのキャラと同じで違和感がない。違和感がないことに違和感があるけれど。
「菟崎くんがラビさんとか驚いた」
「サクにも驚かれた」
「だよねえ」
「ふふ」
驚いたのが、聡久くんの同級生だと言う菟崎くんがラビさんだと知った。あの常に20人から30人はいるコミュニティーのリーダーをしている人なのに……あの大人数のまとめ方や面倒見の良さを見ていて年齢的にはもうちょっと大人で、俺と変わらないくらいの歳の人を想像してた。
実際は元気なスポーツ少年風で、ゲームをしている事が意外な感じ。でも少し話していると考え方がしっかりしていたので体調がまだ完全に良くない聡久くんを、ゲームの中で面倒を見ているようにように、学校でもちゃんと見てあげているのかなと思える。
あまり遅くまではいられないと言って二人はお昼を食べてすぐに帰ってしまったので、実際に会ってみたらゲームの中のイメージと違いすぎでがっかりさせたかな……と少し落ち込んでいたけれど、家についてすぐに聡久くんが連絡をくれたので、大丈夫そうかなと安心した。
家にゲーム機やソフトが沢山あると話したら聡久くんが遊びに行きたいと言ってきたのでもちろん遊びにおいでと誘った。
流石に子供相手にどうこうしようと思ってはいないけど、今度は菟崎くんと一緒に来たいとか言い出さないで、聡久くんが一人で遊びに来てくれたら良いなと思うくらいは許してほしい。