竜の王女
俺の中から出た少女―――バハムートは1週間でクラスに馴染んでいた。あれから転入手続きを学校側が行い、生徒として学校に在籍することとなったのだ。どうしてこうなった。
「なぁ、バハムートは何で俺の中にいたんだ? 俺の魔法ということらしいがどういったことが出来るんだ?」
バハムートは俺の魔法ということで俺の部屋に転がり込んできて2人暮らしをしている。女の子との暮らしとか羨ましいって思うだろ? 実際、俺も悶々とした日々を過ごしてる。そりゃそうだろ、見た目は幼いし口調はワシだからどこか萌えないんだけど、見た目は美少女がいるんだぞ。間違いが起きそうにならない方がおかしいって。
俺は心の中で残念美少女と思っているが口に出さないようにしている。
この1週間はいろいろなことが起こり過ぎてゆっくりと聞く機会がなかったが、学校が休みの今日こそ聞こうと思い、バハムートに質問を切り出したって感じだ。
「主の中にいた理由はワシでもよく分からん。気付いたらいたという感じじゃったな。ワシは主の魔法でありながら存在があり、意思がある。
言うなれば召喚みたいなものかの。だから、ワシが出来ることは何でも主は出来ると思ってくれ!」
「召喚か・・・。具体的に何が出来るんだ?」
「分からぬ!」
おいおい。自分からワシが出来ることと言っておいて分からないのかよ。まぁ、いいや。それよりもご飯だ。バハムートもお腹を空かせているのかさっきからぐぅーっとお腹が鳴りっぱなしで、物欲しそうにこっちを見てきている。
「さて、昼飯の準備でもするか。リクエストはあるか?」
「ハンバーグ・・・いや、オムライスも捨てがたい。しかし、あえてのラーメンという手も。難しいのー」
「悩むのはいいけど早く決めてくれよ。調理にも時間が掛かるんだから」
「分かったのじゃ! ここは、オムライスに決めた。主が作るあの真ん中を切ったらパックリと割れるオムライスはフワフワでもとてもおいしい。忘れられぬ味じゃ」
「そ、そこまで言ってもらえると照れるな」
俺はリクエストを受けてオムライスを作る。手馴れた作業なのでテキパキと進める。そして、希望通りのオムライスを作り、机へと持っていく。
「相変わらず美味そうじゃのー・・・。早く早く早く!」
「分かった分かったって。それじゃ、いただきます」
「いただきます!」
そう言うとバハムートはガッツくようにオムライスを食べる。こう見ると年相応の女の子に見えるんだけどなー。頭に生えてる角が見えなかったらだけど。
「それにしても、バハムートは竜の中でも異質的な感じの神話になってるけど、お前自身はどうなんだ?」
「お前ではない。ワシはバハムートでありセレスティアという名前がある。バハムートと呼びにくければセレスとでも呼ぶがいい」
「それじゃ・・・セレスはどういった竜なんだ?」
「ワシは・・・竜の中でも特に最上位であるバハムートじゃ。だからか生まれた時から特別扱いされておった。言うなれば竜の王女といったところかの。
まぁ、それも過去のことじゃがな」
そう言うセレスの顔はどこか悲しげだった。しかし、踏み込んで聞くことはせず昼食をもくもくと食べ進める。そして、食べ終えた後に食器などを片付けるとセレスに街に行くことを提案する。
「街に? 何故じゃ?」
「セレスの服とかいろいろ買わないといけないだろ。召喚された時に着ていた白のワンピースしか着てないからな。嫌だったか?」
「嫌ではない。むしろ嬉しいぐらいじゃ! だが、主一人では心配じゃのー」
「安心しろって。助っ人を頼んでおいたから。集合時間まであと少しだし行くぞ」
うぬ! とセレスは返事をすると俺に付いてくる。集合場所は駅前だ。俺の寮からだったら近いためすぐに目的の場所へと到着する。そして、助っ人が登場する。
「やっほー! シュウ元気~?」
「姉さん、相変わらずだな」
「それはどういう意味かなー?」
元気いっぱいで登場したのが俺の姉である神鳴 舞。といっても実の姉という訳ではなく俺を拾ってくれた神鳴家の長女である。だから俺とは血のつながりはない。
「ふふーん。この娘がシュウの言ってたバハムート―――セレスね。私は神鳴 舞って言うの。舞って呼んでね」
「ワシはセレス! よろしくの、舞!」
うんうん元気があってよろしいと姉さんは頷くと目的の場所へと向かう。セレスの物を一気に買い揃えなくてはいけない為、最寄りのデパートに行くことにした。
「なぜ舞は秋縁のことをシュウと呼ぶのじゃ?」
「秋縁って呼びにくいでしょ? だから、シュウって呼んでるの。多分、仲がいい人はほとんどそう呼んでるんじゃないかな」
「なるほど。ならばワシもシュウと呼ぶことにしよう!」
女性同士だからかセレスと姉さんは会話が弾んでいた。こういう時に男一人だと居心地の悪さを感じてしまう。かといって男友達を誘おうにも姉さんがいる時点でみんな断るだろうな。
俺の姉である神鳴 舞は神鳴流と呼ばれる魔法に対抗するためだけに作られた剣術の師範である。その剣術をもってすれば魔法を切り、圧倒的な力で相手を倒すことが出来る。とは言ったものの姉さんの性格などからその剣術のことなんか微塵も感じないけどな。
それよりもみんなが引目を感じるのはモデルとして第一線で活躍しているということだろう。その美貌とプロポーションからデビューから1年でトップモデルの仲間入りをし、今じゃ雑誌の表紙で見ないことはないほどの人気だ。
そんな姉さんと街を歩こうものなら周りからの視線などでいても経ってもいられないだろうな。現に今の俺でもそんな感じだし。
トップモデルの姉さんと幼いながらも美少女であるセレスが並んで歩いてるんだ。何かの撮影かと思われても不思議じゃない。
「神鳴 舞に妹がいたのか!?」
「きゃーーーーー!! あの隣の娘可愛い! 舞さんの妹なのかな!」
「天使だ・・・。天使が天使を引き連れて降臨して下さった。世界の終わりなのかもしれない」
などと周りからの声が凄いことになってきている。いつの間にか人だかりが出来る始末に店側が対処せざるを得ない状況にまで発展してきていた。
「姉さん! 何で変装とかして来なかったんだ。これじゃ買い物どころじゃないぞ」
「あちゃー・・・やっぱこうなっちゃったか。私変装ってどうにも嫌いでねー。仕方ない。私の魔法を使いますか」
「それしかないだろうな」
姉さんは指に魔力を貯めるとパチンと鳴らす。そうすると今まで興奮していた人たちが一斉に落ち着きを取り戻し、買い物などに戻っていく。そして、姉さんは再びセレスとの買い物を再開する。
「今何をしたのじゃ?」
「あぁ、私の魔法を使ったのよ。私の魔法は幻。様々な効果で相手の気を逸らしたり、幻影を見せたりすることが出来るの。
まぁ、私の場合だと人払いが出来る便利な能力って感じになっちゃってるけどね」
「おぉー!! 舞の魔法は凄いな! 魔力の消費量は少なく、効果範囲は半径2kmほど。対象数は魔法によるが100~200人。先ほどの意識を外に外す程度ならば500人程度といったところかの。更に舞の魔法が恐ろしいところは幻の有効時間じゃな。舞が意識している限り効果が切れることはない。
違うか?」
「・・・大正解よ。さっきの一瞬でそこまで私の魔法を把握したの?」
「ワシはバハムート。範囲魔法においてワシより優れた者などいないからな。大概の範囲魔法なら一瞬で見抜くことが出来るぞ」
「恐ろしい娘ね」
あの一瞬でセレスは姉さんの魔法の質を見極めたのか。それを見て姉さんも感嘆していた。そして、エスカレーターで上の階へ上がったところで異変が起きる。
誰もいない。いや、人の気配がしない。どういうことだ?
「困ったわね。店員さんもいないとなると買い物が出来ないのだけれど」
「姉さんそんなことを言ってる場合じゃ・・・」
「ふぅむ。そこに隠れておるもの出てこい! ワシに用があるのじゃろ!」
セレスがそう叫ぶと柱の影から男がニュルと出てきた。男は黒いターバンのような物を頭に巻き、目隠しされている。目を隠している布の真ん中には竜と本と宝箱を囲うように葉のようなものが描かれている。
異様な出で立ちだ。そして、俺たちの敵だ。判断材料として十分な物を両手に付けている。ジャマダハルと呼ばれる武器に似ている。
「明らかに敵・・・だよな」
「でしょうね。私たちの買い物を邪魔するなんていい度胸しているけどね」
俺と姉さんは身構える。が、一向に襲ってくる気配はなかった。その様子に困惑していると敵が初めて言葉を発した。
「・・・私ノ名前はカオス。私ガ求めルは竜ノ王女。クライシスナンバー00、コード名バハムート。魔法、超範囲魔法。お前ヲ手に入れル。残りの鍵ハもうスグダ」
「ふん! クライシスナンバーだとかそんな者ワシには知らん! だが、貴様だけは不快だ。何が手に入れるじゃ。笑わせるな! ワシは誰の物でもない!」
セレスのその宣言と同時にカオスは俺たちへと向かって走り出す。ちぃ、戦闘かよ。姉さんには戦闘させることなんて出来ないし俺がやるしかない!
俺はセレスと姉さんの前に出ると迎え撃つように構える。
「剣はないから体術で失礼だけど気にしないよな」




