目覚めの少女
「お前は・・・生きろ。それが、俺の願いであり、―――の願いだ。お前は生きることを優先するんだ。何を差し置いてでも」
何でそんなことを決められなきゃいけないんだ。俺の命だ。俺がどう使おうが勝手じゃないか。
「もう、お前だけの命じゃない。お前には守らなきゃいけない。―――を守るんだ。生きろ。生きて生きて生きて生きて全てから―――を守るんだ」
・・・・・・。それが、あんたの望みなら聞こう。死にゆくあんたの最後の言葉だ。俺はあんたの言葉を信じて生き抜いてみせるさ。この腐った世界を。
「良かった・・・。これで、安心して逝ける。お前ならやれるさ。だから、自分を信じるんだ。何も恐れるな。お前は全てを超えた力を持っているんだから」
俺は、死に逝く―――を見ながら涙を流した。ただただ泣く。雨で涙が流れるよりも早く目からは涙が溢れ続ける。血だらけの―――はもう言葉を発しない。残された俺はこの荒廃する街を見て生き抜く決意を固める。全ては―――のために。
『ワシの力が必要になったらいつでも呼ぶがいい。それが、主とワシの契約だ。さぁ、目覚めるんだ。我が主、神鳴 秋縁。目覚めの朝だ』
俺は、意識を深い深い深淵へと落とされる。そして、また目覚める。全てを覚えたまま。
「はっ! また、あの夢か。くそっ! いつまでもあの続きから進まない。それに誰なんだ血だらけの奴と俺の頭に語りかけてくるのは・・・。
やべっ! それよりも学校の時間に間に合わない!」
俺は急いで学校へ行くための準備をする。今日は、入学してから3日目ということで魔力検査が行われることになっている。入学式の長い校長の話や、2日目の身体測定なんかと比べてみんなが楽しみでありつつ不安な魔力検査。
人の脳というのは使われていない部分が多く存在する。その中の一部を産まれる前の胎児の段階に刺激することで魔力という新たな力を持った子供が生まれてくることが分かった。人に完全な無害なそれは瞬く間に世の中に広まった。それと同時に、魔力を使用した魔法も発見され、法改正を余儀なくされることとなる。
様々な法が出来たが、俺たちに特に関係するのは高校に入るまで魔法の取得を一切禁ずるというとこだろう。身も体も中学ではまだ幼すぎるという理由と中学の義務教育の範囲では魔法の取得までを補うことが出来ないという判断かららしい。
そういった背景から高校入学の3日後ぐらいの時期に大体の学校で魔力の検査が行われる。
検査という名前から仰々しく感じるが、やることは至って簡単だ。魔力総量と魔力の質を知ることである。
総量はその名の通り、その人が持つ魔力の量のことである。そのキャパシティを超える魔法を使用することは出来ないため総量は大事になってくる。
次に質は、その人の魔力がどういった魔法に適しているかということである。これは、後々に説明するから後にする。
つまり、総量と質を知ることで自分に合った魔法を知り、向上に役立てることが出来るのである。
「何とか間に合ったか・・・」
「よっ! 秋縁。検査に間に合わないかと思ったぞ」
「俺も間に合わないかと思ったよ・・・」
「もうみんな移動し始めてるし行こうぜ」
こいつの名前は桐谷 光。高校の入学式で隣の席だった奴だ。初っ端からいきなり声を掛けてきてコミュ強を見せつけられた。それから友達になってつるんでるといった感じだ。
1年生全員が魔力検査を行うので、場所は体育館である。2日も同じ場所だったのでどこか懐かしさすら感じる。
光とあれこれ話していると俺の番になった。検査は、特殊な水晶玉のような物に手をかざすことで総量、質、得意な魔法系統といった様々な情報が浮き彫りになる。恐ろしい機械(?)だ。
「よろしくお願いします」
「えっと・・・1年2組の神鳴 秋縁くんね。それじゃ、椅子に座って水晶玉に手をかざして」
検査員の言う通りに手をかざす。そして、水晶玉の中に様々な文字が浮かび上がる。そして、結果が検査員の手元にある紙に次々と印字されていく。その結果を検査員が確認すると驚愕の顔をする。
「・・・え? この結果って。ちょっと待ってね」
検査員の人はどこかに行ってしまった。そして、偉そうな人と何か話をして戻ってくる。
「ごめんなさいね。あなたの結果は・・・バハムート・クライシスよ」
「バハムート・クライシス?」
聞きなれない単語に俺は疑問を感じる。バハムートって神話とかゲームで出てくる竜だよな。そして、クライシスってことは危機? それが俺の結果? よく訳がわからないんだが。
『ふふふ・・・ははははははは! とうとうこの時が来たわ! ワシの目覚めの時じゃ!』
周りに声が響き渡る。澄んだ声でどこか聞き覚えのあるその声に俺は冷や汗を流す。まさか、夢で出てきた奴なのか。
『その通り! ワシこそがバハムート。その姿を今現さん!』
俺の胸の辺りが光を放つ。何が起こってるのか戸惑ってるっている間に光が収まっていく。視界が慣れてきてその人を捉える。
「やっと・・・やっと、ワシは外の世界に出れたぞ!」
そこには漆黒の長い髪をなびかせ、人形のように精巧に作られた顔、透き通るほどの肌と触れるだけで壊れてしまいそうな華奢な体を持った少女がいた。だが、その少女の美貌に目を奪われるよりも先に頭に生えた2つの角に目がいった。あれは何だ?
「ワシの名前はバハムート! 世界よ、ワシにひれ伏すがいい!」
少女は1年生を目の前にそう宣言しやがった。少女は胸を張り、ドヤ顔を決める。一体何がどうなってるんだ。