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二話 出来

※10/20改稿しました

 拾った少年は案外優秀だった。言いつけた仕事は彼の優秀さ故か、思った以上に早く終わった。

 薪をつむ作業は子供だと言うこともあって難航していたが、それでも経験がないにしては詰み方がうまく早かった。


「……終わりました」

「遅いわ」


 また傷だらけになった手を見なかった事にして吐き捨てる。

「今度はそこの棚から薬草とって。一番下の、右から三番目」

「はい」

 虚ろな目で少年が棚に向かうのを一瞥して外に積み上げた薪に火を灯す。指先から生まれた小さな炎は風に煽られみるみるうちに大きくなった。

 太陽の光は嫌いだが、この炎から生まれる光は嫌いではない。私の瞳とは違う、赤が揺らめく様子は美しい。



 この黒の森の隣の王国、ジノヴァが敵対してきた国の手に落ちたらしい。


 寝ている間に調べさせてもらった。最初ににらんだ通り、彼は王子。それも第二王子だった。名はサリヴァンというらしい。

 敵国に落ちた時点で王と王妃、そして王太子は死亡している。となれば次の目標は第二王位継承権を持つこの少年だ。

 透き通った青い瞳はなるほど、あの賢王に似ていた。集中して狙われていたらしく見つけた少年の弟妹たちは彼ほど酷い傷は負っていなかった。そうなるよう自ら囮をかってでたのかもしれない。

 幼いながらの落ち着きを払った態度をみるに成長すれば良き君主となるのだろう。無事成長できればの話だが。

 敵国ビヒデールは民にとって良い国とはいえない。戦を繰り返す国柄。豪遊三昧の肥太った醜い君主をみただけでよくわかる。

 王子が生きていることが伝われば民は彼が剣を取ることを望むだろう。そして、きっと望みに答え剣をとる。

 相手はちょうど全盛期。王を失い崩れたままの体勢で剣をとれば負けるのは明白だ。あっさりと捕らえられ、民の前で打ち首といったところか。


「……」


 別にソレがどうと言うつもりはない。死のうがどうしようが人間のことなんて魔女の私には関係のないこと。


 ……ただ。

 あの国には百年前この森の一部を焼かれたという大きな借りがある。


 擁護してやるのは決して少年の為ではない。この森の、そして私の為だ。

 私の見立てではあと、七年、いや早ければ五年であの国の全盛期は終わる。そんなもの五百年の時を生きた私にとっては短い期間だ。


 ―――ガタン!


 その音に振り返ると、床に伏せる少年の横に薬草が散乱していた。

 倒れた?

「っ、だい」

 割れた瓶からハーブのにおいが立ちこめる。ハッとして我に返った。

「……全くなにしてくれるのかしら」

「もう、し、わけ、」

 声は今にも消え入りそうなほど。顔色も、治療前と同じくらい青い。

 なぜ? 治療はきちんと行ったはず。

 ……ああ。

 腹部の布を握りしめる少年を見て思い出す。

 失念していた。そういえば、人間は何日食事をとらなくなると動けなくなるのだったろうか。食事の必要の無い体になったと知って以来一度も食物を口にしていない。もう、弱い人間だった頃のことなんて忘れてしまった。

 手に持っていた袋から、中身を一つ取り出して、残りを床に落とす。

「床にこぼれた薄汚れたものなんてもう使えないわ。罰としてこれはお預け。せいぜい、残り物でもお食べ」

 倒れ込む少年を見下して唇をつり上げ、見せびらかすように手の中――パンをひらひら振る。たしかこれが一番人気だと言われたパンだ。甘ったるいにおいが鼻につく。


「私が帰ってくる前にそこ片付けておくように。日が落ちるまでじゃ時間が足りないかしら?」

 嫌みたらしく壁に掛けた時計を指さし、身を翻す。

 窓を開けると、風が吹き込んできて、それが部屋の薬草の匂いを外へ運ぶ。

 ……そうだ。

「良いことを思いついたわ。罰の追加よ。確か風呂なんて沸かせていたわね。丁度良いわ。そのゴミと一緒に入りなさい」

「……何の、毒、ですか」

 毒。毒、ねぇ。掠れた声で問うからおかしくなってしまう。

「さあ? 人間には毒になるのかしら。興味あるわ。お前まさか字が書けないなんて言わないわね」

「……」

 無言は肯定ととろう。

「効果をそこの紙に記しておきなさい。湯に浸かるのは半刻もいらないわ。……そうね、日が沈むまでといったけどノロいお前の為に時間のばしてあげましょうか?」

「結、構です」

 振り絞るような声。

 プライドを守る余力があるのなら、大丈夫でしょう。

「そう。ならさっさと取りかかって」

 背後で少年が紙袋に手を伸ばす音を聞いて、足下に魔法陣を展開させた。


「ああ、間違っても逃げようなんて思わない事ね。貧弱なお前なんてすぐ魔獣の餌なるわよ。まぁ、それがお好みなら構わないけど?」

 くすくす、笑い声は魔女らしく。

 足下の魔法陣がわずかな光を放った。それの完成とともに笑みを消す。


「言っておくけれど余計な真似しないで頂戴ね。手間を増やしたら容赦しないわ」


 冷ややかに言い切る。

「……あなたは、いったい」

 少年の声は小さくて。続く言葉は私の耳に届く前に消えてしまった。

「言っておくけれど余計な真似しないで頂戴ね。手間を増やしたら容赦しないわ」

訳 他には何もしないでいいから休んでね。


優しさのわかりにくい魔女さん。

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