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8 緻密な情報と足りない特徴


 常に戦術を考える者たちが揃って頭を抱えている。考えれば考えるほど相手の術中にはまっていくような気もする。不可解なことが多すぎる。

 

 警戒レベルを最大にするかと問えば、そこまでの必要はないとなり、では有事の編成を解くかと聞かれれば、それは出来ないと答えるしかない。

 警戒が解けない程の情報収集能力を見せられたかと思えばどこか抜けた内容で、でもそれすらも陽動でこちらを出し抜く為にわざと顔なしにしたのか。

 

 緻密な情報と足りない特徴。


 何もかもがアンバランスでどうにも危うい。


「暫くは現状維持だ。お前たちはそれぞれに探れ。リリックはスケッチブックを手にしたところを見られてる可能性があるから気をつけるように。以上!」


「はっ!」



 五人が司令室を出ると先程の若い騎士が二人待っていた。第一騎士団所属の者だがどうやらリリックに付き従う為に用意されたようだ。その証拠に他の四人はそれぞれに組んでそれぞれへ足を向けた。


 若い二人とは演習場でよく会う顔見知りで名前は知っている。だがリリックはおいそれと話しかけられるような階級にもいない。二人がとても気を使っているのはわかる。


「演習場でも、詰め所でもどこでも、なんでもいい。何かいつもと違うと口にした者はいなかったか?」


 リリックは早々何かが起こるわけではないとわかっていたが、世間話のつもりで二人の騎士に声をかけた。


 するととてももぞもぞした様子の答が返ってきた。


「あ、あの、いつもと違うと言えば違うのですが、なんと言うか、皆の話題程度の事でも話した方がいいですか?」


「聞いてから判断する」


「はい。あの、演習場の見学者の中に眼鏡令嬢と呼ばれているご令嬢がいるのはご存知だと思いますが、今日はその令嬢の姿が見えないとみんなが話していました」


「今日はかなり強い風が吹いていたからではないのか?」


「いえ、他のご令嬢は確かに風が強いと来ませんが、あのご令嬢は今日よりも強い風が吹いた日も必ずいました。強風の中だとあのご令嬢とお付きの方しかいないため逆にすごく目立つんです」


 言われて、リリックは何ヶ月か前に強風の中いたその令嬢が話題になった事を思い出した。


 その日の朝は穏やかだったが、見学者を入れる時刻になると風が出てきた。せっかく来たからと暫くは我慢して見ていた令嬢たちも、強まる風に次第に数を減らした。

 しかし眼鏡をかけた令嬢だけはその素振りも見せず静かにいつもの席にいた。


「確かにあの令嬢ならこのくらいの風で怯む事はなさそうだが、そうは言っても令嬢には変わりない。この風では不都合が出てもおかしくないだろう」


 リリックは自分の言葉にどこか違和感を覚えたが、付き従ってくれた二人を返すと、執務室で改めて考えを巡らせた。


緻密な情報と足りない特徴。


本当に顔は別に描かれているのだろうか。あのバラツキのある角度には何があるのだろうか。何故尻がまちまちに描かれているのだろうか。スケッチブックをどこで手放したのだろう。そもそも何故機密事項となるような物を王宮内に持ち込んだのだろう。見つかれば即座に反意を疑われるとわかるだろうに。

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