6 首無し騎士が満載です。
リリックが持ち込んだスケッチブックを、各団長とリリック、司令官がまじまじと覗き込む。
描かれているのはこの国の騎士と思われる男の半裸。それが正面、背面、斜め前と角度を変えて描かれていた。
そして──。
『右からの切込みを躱す際に手首を僅かに捻る。左に癖は見られず』
『拮抗した打ち合いになると打ち出す隙きをみるのか爪先が内に入り込む。とても僅かだが』
『体格差がある相手だと右肘が開くことが多い。構えを大きくしているのか無意識か』
『腰を痛めたのか少し腰を落とすような姿勢が増えてきた気がする』
──弱点。
このような事が黒子や古傷の身体的特徴と合わせて書かれている。
リリックは最初に見たとき戦慄を覚えた。
この国の騎士の事が備に調べられている。
それは即ち国の軍事力が『暴かれている』のだ。それが何を意味するのか。誰かに背後を狙わているような錯覚に陥りそうになった。それくらいの衝撃を受けるほどの緻密な絵だったからだ。
拾ったスケッチブックには②とあった。
最初は近衛所属の第二騎士団の事かと思ったが、他の騎士団の騎士たちも描かれている。これは単なる番号付けの数字に過ぎないと思えるが②となると当然①も存在するのだろう。
そして、おそらくではあるがそれに続く番号もあるだろう。その身体的特徴の書き込みに加えこの人数。同じ人物が二度描かれてはいないと言ってもびっちりで、この一冊で収まる訳がないと思わせる程の熱量がこの絵から伝わる。
だが他国の諜報員が落したとするには合点がいかない。
其々の騎士団長は部下の癖はよく知っている。悪い癖は直すよう指導するから尚さらだ。
だからメモされている癖や特徴、スケッチされている体の肉付などからこの絵は誰で、この絵は誰で、と当てはめることができるが、他国のものが、いや、この国の者でも騎士団に所属していないのであれば見てもさっぱりだろう。
何故なら特徴として一番解りやすい瞳の色、髪の色、肌の色、背の高さが書かれていない。そして軍人として最も大事な利き腕と利き足が抜けている。
そう。このスケッチは肝心な情報が書かれていない、──首なし騎士の情報が満載のスケッチブックだった。