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34 友との約束

 

 一方フルールはというと。


 お気に入りの場所に、ハヤブサといた。

 何度か行ったことのあるその場所は、さほど遠くない。


 城下街の問屋街通りを抜けたすぐ、目と鼻の先だ。

 王城から真っすぐ伸びる目抜き通りこそ、いろいろな賑わいを見せるが、通りを挟んだ東と西とではだいぶ赴きが違う。

 東は、ブティックなどの貴族御用達の店が居を構え、西は問屋街などで、どちらかというと使用人がよく使う店が立ち並び、夜には色香を纏う店の明かりが灯る。


 西に立ち並ぶ問屋街通りを抜け切る一本手前の道、フルールとハヤブサのじゃじゃ馬二人はそこを曲がった。

 曲がった先には、王都指定の広い薬草園があるため一気に開ける。

 薬草園に沿うように流れる小川のその一角が、ふたりのお気に入りの場所だった。


 そこまで来ると、ハヤブサがそわそわしだした。

 何度もフルールを見る。


「わかったわ。アップルパイが食べたいのよね」


 そういうとフルールは所定の場所でハヤブサから降りた。そこからならうまく乗り降りできる。

 予備のものなのか、回収し忘れたのか、積み上げてあるブロックが、ステップの代わりにもってこいの高さなのだ。


 降りたフルールはその横の柵にハヤブサを繋ぎ、持って来たアップルパイを籠から取り出す。


「ちょっと待ててね」と言うとアップルパイのパイの部分だけを頬張り、煮りんごのところだけを手に乗せて、小川に向かった。


 こんなところをハンナやクララに見つかったら、かなり長いお説教を食らうことは間違いない。

 しかし、絶対に二人の目が光る場所ではこんなことはしなし、ここなら大丈夫だ。


 誰もいないわけではない。

 散歩などをしている人もいれば、子どもも遊んでいて、中には、旅の途中なのか、大きな荷物を置いて一休みしている人もいる。しかし二人がいる小川の方は、ところどころ舗装の綻びもあり、あまり人がいない。夏ならばバシャバシャと水遊びの子どもでにぎわうが、今はそんな時期でもない。


 だから、立ったままパイをぼろぼろこぼして食べている令嬢など、誰も気づかない。


 フルールは、昔サムに聞いた方法で、ハヤブサとの約束を守ろうとしたのだ。









「ごめんね。ハヤブサごめんね。おなかいたくしてごめんね」

 自分があげたアップルパイのせいで、お腹を壊したハヤブサに、幼いフルールは毎日あやまった。


 それこそ、数日は目を腫らして泣きながら。

 それが続き、見ていられなくなったサムが言葉をかけた。


「お嬢様、もう、ハヤブサのお腹も大丈夫ですし、ハヤブサはきっと怒ってませんよ。それどころか、美味しいものをくれたお嬢様を、もっと好きになりましたよ」


 確かにあの日以来、フルールに対するハヤブサの態度は軟化した。


 基本、サムラブ♡のハヤブサは、サムがいるときはフルールを見向きもしない。

 いや、チラッとは見るが、それだけだ。


 でも、サムが飼葉を取りに行ったり、桶を洗いに行ったりして姿が見えなくなると、前よりは仕方なしに相手をしてくれるようになった。なったけど『もっと』と言うのとは、ちょっと、いや……かなり違う。


 そう思ったが、それは言わずフルールはサムに聞いた。

 どうして、美味しいものなのに、ハヤブサはお腹がいたくなるのか。

 どうして、自分はいたくないのに、ハヤブサだけお腹がいたくなるのか。

 どうして、あんなに喜んでたのに、もうハヤブサは食べられないのか。


 気に入ってくれたのに。

「また持ってくる」と約束したのに。


 ハヤブサとの約束は守りたい。

 けど、またハヤブサがお腹をこわすのはいやだ。


 いつもなら、なんで? どうして? と誰彼かまわず聞くフルールだが、さすがにこの時はこってりと怒られたのもあるが、事が大きすぎて誰にも聞けなかった。聞くのが怖かったのだ。


 もしかしたら、自分のせいでハヤブサが死んじゃったかもしれないと、言われるかもしれない。それが本当になっていたらと思うと、怖くて聞くことができなかった。

 あの時のハヤブサの異変が、フルールの怖さに拍車をかけていた。


 でも、ハヤブサと約束もしたのだ。

 約束も大切だ。

 どうしたら……。


 フルールは、頭の中のグルグルに目を回してしまって、サムに助けを求めた。


「お嬢様。もし、お嬢様が、ハヤブサが食べている飼葉を食べたらお腹がいたくなると思いませんか? 同じものを食べて、お腹がいたくなるも、ならないも、それはお嬢様が人で、ハヤブサが馬だからです。馬と人は体の仕組みが違います。だからそれぞれ、苦手となるものが異なるのです。食べていいものと悪いものも違うのです。今回お嬢様があげたアップルパイには、ハヤブサの苦手なものが入っていたのでしょう」


「じゃあ、りんごのとこならあげてもいいのね?」


「確かにりんごはハヤブサの好物ですし、甘い物も好きです。ですが、甘すぎると馬にはよくありません。もしどうしてもお嬢様がハヤブサとの約束を守りたいのでしたら、一度だけわたくしは目をつぶります。ですが、りんごのところだけ、よおく水に晒して、甘さとバターをおとしてからにしてくださいね」


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