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志雄崎あおい様 お祝い小説

『ピッチとわたしの巣立ち』


 ある日、わたしの家に小鳥が巣を作った。

 種類はわからないけど、とにかく白い小鳥だ。


 お母さんなどは迷惑がっていたがわたしはその巣を見守るのが密かな楽しみになっていた。


 巣に籠もった母鳥はやがて卵を産みヒナが生まれると、生まれてきたヒナ達は母親の運んできてくれたエサを一生懸命についばみながらスクスクと大きく育っていった。


「ぴぃぴぃ、ぴぃぴぃ」


 そうして月日は流れ、何やら巣の方が騒がしいと思い見に行くと一羽の白い小鳥が巣から飛び立っていった。


 ヒナ達は巣立ちの時を迎えたのだ。

 一羽、また一羽と次々にヒナ達が巣から飛び立っていく。


「あれ?」


 しかし、そんな中一羽だけなかなか巣立つ事が出来ないヒナがいた。

 何度も何度も巣を覗きに来るものの、そのヒナは巣に閉じこもったまま飛び立とうとしない。やがて、わたしはそのヒナにピッチと名前をつけて応援するようになっていた。


 その時わたしはちょうど大学を卒業し社会人になるという所だったので、もしかしたら自分の抱えている不安をピッチに重ねていたのかも知れない。


 新生活の準備に追われる中、それでも何度も巣を訪れてはピッチの様子を見に行ったが一向に巣立つ気配はなく時間だけが過ぎていく。


 そうしている間にわたしが家を出る日になってしまった。

 心配そうなお母さんとお父さんに挨拶をし、家を後にする前にピッチの巣を覗きに行く。


 結局、ピッチの巣立ちまで見守ってあげる事が出来なかったな。


 その事を心残りに思いながら巣を見ると、そこにあったのは誰も居ない空になった巣だけだった。


「ピッチ?」


 もぬけの殻になった巣に呆然としてしまうものの、すぐにピッチは巣立つ事が出来たのだという事に気がついてよかったという喜びが芽生えてくる。

 それと同時にほんの少し寂しさも湧いてくる。


「もう、一声掛けていってくれればいいのに」


 そう思うけれど、それはわたしのわがままというものだろう。


「よかったね、ピッチ」


 わたしはピッチが飛び立っていた青空を見上げながら声を掛ける。

 さてと、わたしもそろそろ巣立たなければならない。

 そうして、家を出て駅のホームで列車を待っている時だった。


「ぴぃぴぃ、ぴぃぴぃ」


 ふと、どこからか鳥の鳴き声がする。

 気のせいだろうか。


 ホームに列車が入ってくるのも構わずに、わたしはキョロキョロと駅の中を見回す。そして、ベンチの背もたれに留まっている白い小鳥の姿を見つけた。


「ぴぃぴぃ、ぴぃぴぃ」


 わたしが近づくと、その小鳥はまるで話しかけるように元気にぴぃぴぃと鳴くのだ。


「もしかして、ピッチなの?」

「ぴぃぴぃ、ぴぃぴぃ!」


 わたしが名前を呼ぶと、更に大きな声で白い小鳥が鳴いた。

 巣立ったはずのピッチが駅のホームでわたしを待っていたのだ。


 ジリリリリリ。と発射のベルが鳴る。


 あ、列車に乗らないと。わたしがそう思って列車に視線を向けてから戻すとピッチの姿は消えていた。


 わたしは慌てて列車に飛び乗ると、窓際の席へと腰を下ろし外を見た。

 ゆっくりと流れていく景色の中に白いシルエットが気持ちよさそうに風を切って飛ぶ姿が見える。


 ああ、そうか。


 わたしがピッチの巣立ちを見守っているつもりでいたけど、どうやら巣立ちを見守られていたのはわたしの方だったらしい。


 わたしが窓の外に手を振ると、白いシルエットが微かに羽を揺らす。

 その姿からはまるでぴぃぴぃというピッチの鳴き声が聞こえてくるようだった。


志雄崎あおい様

素敵なプレゼントをありがとうございます。

社会人1年生。社会に出ることに不安でいっぱいだったよつ葉に届いたプレゼント。本当に嬉しいです。ありがとうございました。


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