(軽度に)強敵と相まみえる約束取り付ける放課後のひと時
マオをセンターにアイドル部の次の部費をかけたライブの練習が始まり、一週間が過ぎる。
演目は全てマオたちに任せるとはいえ、なにもしないわけにはいかない。
オレにはオレでやれることは全部やる。
「えっと……」
視聴覚室のマイクの前で放送部の羊谷ロウの視線を受け、指をクイクイと曲げられる。
「……」
隣の席に座り、マイクの角度を調整する。
「アイドル部部長亀梨玄斗です。来月の6月26日、アイドル部でライブを行います。興味のある方はぜひお越しください」
カットが入る。オレはため息を吐く。
「ほんの一息なのに緊張するなぁ……」
「いい出来でしたよ」
羊谷の可愛い顔が近づき、ニコッと笑われる。
「……」
メガネで覆われた可愛い顔に癖っ気の白い髪がどこか知的さを醸し出しなかなか愛嬌のある顔だ。
しかも前かがみになってわずかに露出したシャツの下の真っ平らな胸が男の視線を独り占めする。
でも、本当にまな板だなぁ……
「……死にたい?」
「ごめんなさい」
手をワキワキしないで……本気で怖いから。
「二人とも仲がいいのは結構ですが……」
犬養の指がマイクを指さす。
「マイク、入ったままですよ」(ハァ……)
「うわぁ!?(慌ててマイクのスイッチを切る) 亀梨くん、なんで切らないの!?」(羊谷)
「切り方知らないよ!」(オレ)
「まぁまぁ……話は変わりますが視聴覚室にいるのも都合がいいです。羊谷さん、この話はオフレコでお願いしますよ」(人差し指を唇の前に立てる)
「なんだよ……」
「今のままだと大して人は集まりませんね……ただ歌って踊るだけなら盆踊りで十分です」
「盆踊りとライブダンスを同格にとらえるか……」(羊谷)
「集まらないって……ど、どうしてだよ?」
「普通に考えればライブが行われるのは放課後です。たいして人気のないマオ達の歌や踊り見たさに集まるのは本当に好きな人間だけですよ。そうでなくともライブは好き嫌いがハッキリ出ますしね」
「……」
「でも……放送部でライブの放送をするくらいしか宣伝の手段はありませんよ」(羊谷)
「放送部の放送に問題があるんでなく、ただ単に来るメリットがないだけです。貴重な放課後を興味のないライブに来るバカはいません……風が吹けば桶屋が儲かるでもない限りね」(犬養)
「興味がなくとも客が来たくなるような要素を作る必要があるってことか……?」
「ついでに女性客も欲しいですね。女ユニットは女性客は集まりにくいですから……アイカツやプリパラなら例外ですが」
「……頭が痛い」
「ゲームのようにステータス次第で客が集まるシステムならどれだけよかったかわかりませんね……(スマホでゲームを始める)レベルが上がればその分結果に出る。だからゲームはやめられません」(羊谷)
「ゲーム……」(キョトン)
「どうしました亀梨?」
「ゲーム……集める……なぁ、出の悪そうな羊さん?」
「なんですか、首の引っ込んだ亀さん?」
「ゲームって基本的に争いあうものだよなぁ……」
「例外は多いですが基本的にゲームの醍醐味は対人戦ですね……それがどうしたんですか?」
「それだよ、それ!」
「それ……?(自分の胸元を見る) ッッッッバカァァァ!」
バチンッ!(殴り飛ばされる)
「あべしぃ!?」
「首をひっこめた亀が空飛ぶ亀に進化しましたね……大怪獣かな?」
壁にめり込んだ身体を引きずり取られながらオレは口の中が鉄っぽく感じる。
そして小一時間ほど……
「ほぅ……ここは」(顔を上げる)
「そう……我が獣字学院の姉妹校。星字学院だ!」
バァァンと擬音が聞こえそうなほどご立派ないで立ちの姉妹校に犬養の目がキョトンとする。
「ここに来て、なにするんですか?」
「ちょっと知り合いに会いに行ってくるんだ……」
「知り合い?」
「まぁ……な」
星字学院に入るとオレはさっそくアイドル部の部活へと突撃しに来た。
「あら……久しぶりですね」
迎え入れてくれたポニーテールの少女に苦笑が漏れる。
「また痩せたか……天音?」
「バカな馬が勝手をするからねぇ……」
星字学院のアイドル部の部長、秤天音の視線に部室の隅で退屈をしていた赤髪の少年・天馬一角が怒鳴る。
「誰がバカだ誰が?」
「アナタのことを言ったんですよ! アタシに逆らってばっかでいうこと聞かないじゃない!?」
「オマエがセコイことしようとするから反対してるだけだろう!」
「セコイ? 戦略と言ってほしいですね! アナタのやろうとしてることは力任せばっかじゃないですか」
「最終的に力が勝つ!」
「最終的に戦略が勝つんです!」
「あぁぁ!?」
「えぇぇ!?」
バチバチバチ!(視線の火花が散る)
「まぁまぁ……二人とも落ち着いて」
間を割って大型のイケメンがケンカの仲裁をする。
アイドル部のアイドル・熊谷戦士だ。
「そうだよぉ~~……戦略を持って力を発揮すると書いて『戦力』でしょう?」
同じようにケンカの仲裁に入る小柄な少年・織姫彦星が呆れた声を出す。
「二人ともお客の前でケンカしないで……ね?」(彦星)
「部長もせっかくの可愛い顔が台無しだよ?」(戦士)
「ふん!」
「ハンッ!」
プイッと顔を背けあう二人にオレはゲンナリする。
「で……」
天音の視線がオレと犬養を見る。
「獣字学院の人がウチになんのようですか?」(天音)
「ああ……実はなぁ……」
オレは懐から一枚の紙っきれを取り出す。
「今度、うちの学校でライブのイベントをやるんだ。その参加協力を頼みに来た」
「参加協力……(紙を見る)アイドルバトル?」
「そう! 獣字学院と星字学院のアイドル部同士でどっちが面白いか票数で勝負し、勝ったほうはエンディングで独占ライブをする! 面白いだろう?」
「……(紙をテーブルに置く)で、本来の目的は?」
「も、目的……?」
「腹を割って話そう……ここまで来てアイドルバトルなんて普段の君が思いつくものじゃないし……私だってやらないしこんなセコイこと」
「嘘つけ」(天馬)
「天馬くん……その閉じの悪い口、枷でふさいでほしい?」
「ふんっ……」
本当、口を開けばケンカするな、こいつら……
「で、本音を聞かせてください」
「……はぁ。犬養、説明を頼む」
「お任せアレ」(ペコリ)
かくかくしかじか……
「なるほど……(椅子に背もたれる)減額の判断が出たか?」(ニヤニヤ)
「まだ出てない! 楽しそうに笑うな!」
「それで人気のないマオちゃん達とは別に女性客も増やすため男子アイドルのうちの部に協力を申し出たと……」
「気にくわねぇ……(天馬)自分たちの集客数のために俺たちを利用なんて男のすることじゃねぇ!」
「……」
「そもそも人気なんて必死にやっていれば……」
「天馬くんうるさい」
「グッ……な、なんだと?」
「大事な話をしてるんです! 後でニンジン上げますから黙っててください」
「だ、誰が人参ぶら下げた馬だ!?」
「似たようなものでしょ、アナタなんて!」
「なんだと!?」
「なによ!?」
「はいはい、二人ともケンカしない」(戦士)
「話が前に進まない」(彦星)
「わかってるわよ……その代わり、条件があるよ!」
「条件?」
「そう……」
ポニーテールの先を弄りながら天音の吊り上がったオッドアイの目がオレを見つめる。
「勝負形式は票数は当然としてその票数結果はそっちの学校でやる以上有利になるのはそっち。よってそっちが勝つには私たちアイドル部の倍以上の票数を得ること……私たちの学校の生徒もそっちのライブに無料参加する権利を与えること。さらに私たちが勝ったら次の私たちのライブの時、バックダンサーとしてアイドル部のメンバーをよこすこと……いい?」
「足元見るなぁ……」
「いやなら結構。別に参加しなくともうちの部は余裕でアイドルインターハイに参加できるしね。むしろここで負けたら変にケチがつくからこっちにとってはいいことないしね」
「天音……またそんなセコイこと」
「無能な馬は黙ってて!」
「だ、誰が無能な馬だ!」
「アンタのことよ!」
「オマエだって針の狂った天秤じゃねぇか!」
「誰が針が狂ってるってぇぇぇぇ!?」
「ふ、二人ともケンカはそこまでそこまでぇ!」(戦士)
「本当、二人とも口を開けばすぐケンカなんだから……お客が来てるっていうのに」
「……」
「……」
にらみ合う二人にオレもいい加減にしてほしく、ため息を吐く。
「いいよ……そっちの条件を飲もう」
バックダンサー自身、こっちに決して損があるわけじゃないし……星字学院の生徒が集まれば確実に集客数はオレ達の目標を軽く上回る。いいこと尽くめだ。まるで日本に留学を望むラグビー選手並みに好条件じゃないか。
「よし……(ハンコを取り出す)商談成立。(渡された紙にハンコを押す)じゃあ、後日、ステージのこともかねて私が伺いに来るから学校への報告はお願いね」
「了解」
「俺は納得してねぇからな……こんなセコイ勝負……絶対に負けねぇ!」
「天馬くん、やる気があってよろしいけどうるさい」
「そっちこそテンション低すぎじゃねぇか……針だけじゃなく天秤の器も歪んだか?」
「だ・れ・が……歪んでるってぇ?」
「左右の重さが違うから満足に計量もできないもんな!」
「どこを見てるんですか?(ぷるん♪) この形のいい両の器が見えないんですか?」
「ほう……これはなかなか」(たぷんたぷん)
「エッチ!」
「いでぇ!? なにするんだ!?」
「エッチなことするからでしょう!」
「重さを量ってやったんだよ!」
「で……どうだった?」
「とっても……大きいです」
「この変態うほ男!」(バチン!)
「うげぇ……本当いちいち殴るな!」
「やる気!?」
「やらいでか!?」
「だから、ケンカするな!」
「付き合いきれないよ!」
「さぁ、帰りましょう……亀梨」
「そうだな……」
ケンカするほど仲がいいというがああ怒鳴りあう仲にはなりたくないなぁ……
星字学院を抜けるとオレは少し曇り気味の空を眺める。
「オレが外に出るとたいてい空って曇るんだよなぁ……」
「首の引っ込んだ亀が雲の引っ込んだ亀ですか? そういえば「雲」も「亀」もどことなく漢字が似てますしね」
「……これでどれくらい客が集まるかな」
「そうですねぇ……(懐から巻物を取り出す)星字学院の人気とそこから発生する外部のお客。星字学院のアイドル目当ての女性客を計算すると……まぁ」(毛筆を走らせる)
ニヤリと笑う犬養にオレは目をそらす。
「まぁ、やることはやった。あとはあの馬鹿どもに任せるか」
「そうですね……首の引っ込んだ亀が首のない亀になるのを楽しみにしてます」
「オマエねぇ……」
が、この後、オレは自分のやったことで余計に自分の首を絞める一大事を起こしてしまったことをこの時、気づいていなかった。
獣字学院が「四神」と「十二支」をイメージしてるのに対して星字学院は「星」や「星座」をモチーフにしてます。
ちなみにわかりにくいでしょうが熊谷戦士のは名前は「オオグマ座」と「タイタン」をイメージして名前を付けてます。
星と神話は切り離せないのである意味、星字学院のほうがはるかにキャラクターを増やせそう……




