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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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8.森田先生

「町川ー! どうせおまえ家変えるだけなんだろう? だったら少し手伝ってくれ」


 少し戻って、帰りのホームルーム直後。俺が教室を出ようとすると、担任の森田が声をかけてきた。


 はぁ……またか。


「今度は何の手伝いですか?」


 春歌高校に入学してからもうすぐ三か月。だというのに、町川からの頼み事はこれで八度目だった。


「ほれ」


 森田が鍵を投げた。俺はそれを片手でキャッチする。


「化学準備室の棚に使わなくなった教材を縛ってあるから、それをゴミ捨て場まで持っていってくれ」


 そのくらい自分でやれよ……。


「そんな面倒そうな顔をするなよ町川。今度の課題免除してやるから頼むよ」


「それ、教師としていいんですか……」


 白髪が混じり始めた薄い髪の森田は、いたずらっ子のように無邪気に笑ってごまかす。そんな森田に白い目を向けていると、森田はだしぬけに真剣な表情を作った。


「町川。おまえ最近山下と仲いいだろ? だったらきちんと面倒見てやれよ」


 ……!? なんで知って……いやそれより──。


「それ、どういう意味ですか?」


「どうもなにも、そのまんまの意味だ。おれが見るに、山下は自分を蔑ろにするタイプだ。どんなに辛くても自分が頑張らないとって考えるやつだ。おれの長年の教師の感がそう言ってるんだよ。今も相当無理してるんじゃないか?」


 確かに、山下は俺と会う前まで昼飯を抜いていた。


「おれはそういう生徒を何人か見たことがあるが、そいつらは全員、教師のおれが何を言っても無茶をやめなかった……」


 森田は一度言葉を切り、眉間にシワを寄せて遠い目をした。きっと、何もしてやれなかった生徒たちのことを思い出しているのだろう。


「だから町川。おまえが山下の友達なのか彼氏なのかは知らんが、教師のおれなんかより山下に近いおまえが山下を支えてやれよ」


 後悔と無力を噛みしめる森田の重々しい声に、俺は神妙に頷いた。


「はい」


 この時俺は、山下が俺に近くにいていいと言ってくれる限り、彼女を支え続けようと誓った。


***


「わたしは急いでいるんです。……その手を退けてください!」


 森田に頼まれた古い教材をゴミ捨て場に持っていく途中、廊下の先から山下の声が聞こえた。見ると、山下は金髪長身の男──長谷田によって壁に押し付けられていた。


 ……っ!


 俺は持っていた古い教材を投げ捨て、全速力で長谷田の腕を掴む。


「おまえ、何してる……!」


 俺の口から響く、ひどく冷たい低い声。俺は自分にこんな声が出せるなんて知らなかった。


「町川くん……」


 俺を見て、無表情を取り繕っていた山下が表情を崩し泣きそうに目を細める。俺はそんな山下を一瞥し、肩越しにこちらを睨む長谷田の腕を引っ張った。そして長谷田の体が山下から離れた瞬間、俺はすぐさま二人の間に立ち、山下を庇う。


「…………」


「…………」


 俺は、長谷田の獲物を狙う肉食動物のような鋭い眼光に気圧されながらも視線は逸らさない。冷汗が頬を伝う感触に顔を顰めながらも、長谷田の行動を待った。


「……ぁ──」


 しばらく向かい合っていると、ふいに長谷田の瞳が揺れた。長谷田がずっと後ろに隠していた右手を振り上げる動作に、俺は身構える。


「はっ?」


 俺は長谷田の右手に握られたハンカチを見て、間の抜けた声を漏らした。


 いや、どういうことだ……?


「これ……山下さん……が、教室で落としたの、見て……」


 イケメンヤンキー。その言葉が似合う容姿と威圧感を持つ長谷田からは想像もできない、衣擦れの音よりもなお小さい声。少し早口気味で紡がれる小さな声を発しているのが長谷田だと理解するまでには数秒かかった。


「おれ……コミュ障、で……昔、から、人とうまく……喋れなくて……」


 オドオドと視線を泳がせ、肩も背中も丸めて小さくなる長谷田は、とても嘘を言っているようには見えなかった。


「じゃあつまり、長谷田は山下さんにハンカチを渡そうとしていただけなのか?」


 半信半疑で長谷田に問う。すると長谷田は猫のように丸めた体を背け、頷いた。


「おれ……人と、話そうとすると……声が出なくなって、体が先に動くんだ……」


 虫も殺さなそうな長谷田の言動に緊張が解け、俺はため息を吐いた。その時、俺の手に温かくて柔らかい感触が触れていたことに初めて気が付いた。それは、山下の手だった。


 ……っ!?


 不意の一撃に、俺は呆気なく顔を赤くし山下を振り向く。


 繋いだ手から伝わってくる震えが、山下がまだ怯えていることを告げてくる。にもかかわらず、山下は俺の陰から体を半分乗り出して長谷田に向き合った。

 

「山下さん?」


「大丈夫……」


 心配する俺に震えた声を返す山下。彼女はギュッと俺の手を強く握り、長谷田の手からハンカチを受け取った。


「ハンカチ、拾ってくれてありがとう……」


「……ごめん、山下さん……おれ、怖がらせた、よね……」


 山下と長谷田が、俺を挟んでお互いに頭を下げる。蝦夷梅雨に曇る空も相まって、俺たちの間にはお通夜のように重苦しい空気が流れた。


 それから数秒後。先に顔を上げた長谷田が逃げるように去っていく。


「長谷田くん。悪い人じゃなさそうだね……」


 顔を上げた山下は、もう震えていなかった。俺は山下が恐怖から抜け出したことに微笑み、曲がり角に消えていく長谷田の後姿を見送る。


「そうだな。長谷田は関わってみると案外面白いやつなのかもな」


 台風のように過ぎ去っていく長谷田に呆気にとられた俺と山下は顔を見合わせ、手を繋いだまま微笑み合った。


 ふいに、廊下を吹き抜ける風に山下の髪が揺られる。それを押さえようとした時初めて、山下はずっと俺の手を握っていたことに気付いた。


「……!? ……ごめん町川くん。わたし……」


「いや……このくらい大丈夫だ……」


 慌てて手を離し、山下はもじもじと指を動かして耳の裏を触る。それから俺と目を合わすことなく、


「わたし、今日アルバイトがあるの……だから、その……先に帰るね」


 と言って、山下は急ぎ足で教室へと戻っていった。

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