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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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31.練習

「よし、じゃあまずは操作方法から説明するぞ」


「うん」


「移動はWASDのキーで──」


 俺は山下と、部屋の隅に並べた二台のパソコンの前に座り、FPSゲーム──ガンドランの操作方法について説明を始めた。


 説明を聞く山下は、学校にいるときと同じ無表情で集中している。山下は訓練場という名の練習ステージでキャラを動かしながら、操作を一つ一つ確認していった。


「なんとなく操作確認出来たら言ってくれ」


「うん……」


 視線を画面とキーボードの間を行ったり来たりさせながら、山下は射撃やしゃがみ、アイテムの切り替えやリロードと言った動作を何度も繰り返し確認した。山下は十回、二十回と全ての動作を繰り返し、また同じ動作を行っていく。


 ……ん? いくらなんでも長くないか?


 山下は真剣に、どう見ても「なんとなく」のレベルを超えいるにも関わらず動作を反復していた。


「山下さん? ……山下さん!」


「えっ……どうしたの?」


 慌てて止めに入ると、山下は「何か間違ってた?」とでも言いたげに首を傾げた。


「最初から全部覚えるのは無理だし、基本操作はプレイしてれば慣れる。だから最初は軽くでいいんだ」


「そうなんだ……」


「ああ。だからまずは一回試合してみないか? まずは試しにプレイしてみて、どういうゲームなのかって雰囲気がわかった方がいいと思うんだ」


「……わかった。町川くんがそう言うならそうするね」


 キーボードとマウスを見つめ、少し不安そうにする山下。その表情からは、教わったことは全部完璧に覚えなければならないという強迫観念すら感じられた。


 山下さん、真面目過ぎる……。


「あー山下さん。今日は雰囲気掴みが目的だから、そんなに張りつめなくてもいいんだぞ」


「でも、わたしだけ初心者だから……」


「大丈夫だ。大会まではまだ三週間あるんだ。……自分でいうのもなんだが、世界王者である俺が保証する。そんなに気負わなくても、山下さんならちゃんと戦えるようになれる」


「うん……」


 山下さん。どう見ても納得してないな……。


「あー。山下さんは、自分だけ弱くて役に立てないんじゃないかって思って、賞金を等分するのは後ろめたいと感じてるってことで合ってるか?」


 俺がズバリ山下の心境を言い当てて見せると、山下は目を伏せ、無言で頷いた。


 やっぱりそうか……山下さんって優しいし真面目だから、そういうところを気にすると思ったんだ。


 だからこそ俺は、山下も活躍できる──というよりむしろ、初心者の山下がいないと成立しない策を考えたのだ。


「それなら大丈夫だ山下さん。俺が考えてる作戦は、世界大会レベルの実力がないメンバーがいないと成立しないものなんだ。だから山下さんには、俺たち三人にはできないことをしてもらう」


「そうなの……?」


「ああ。信じられないなら、今から作戦をざっくり説明するぞ?」


 感じていた後ろめたさが払拭されたのか、山下の表情には少し余裕が戻った。


「ううん……いい。町川くんって、気休めの嘘は言わないから、信じる」


「……そうか」


 心なしか弾んでいる山下の澄んだ声。それを聞くとなんだかこそばゆくなって、俺は山下から目を逸らし、前髪を弄り始めた。


***


「また負けちゃった……」


「でも二キルだろ? 初日でこれはすごいぞ」


「ううん。……町川くんの教え方が上手なんだよ」


 耳裏を触りながら、山下はうれしそうに目を細めた。時刻は午後五時半。山下は飲み物休憩を挟んではいたが、かれこれ三時間半もガンドランをやり続けている。


「山下さん。そろそろ夕食にしないか? いったん休憩した方がいい」


「わたし、もう少しやりたい……」


 山下さん。まだ実力不足を気にしてるのか……。


 俺は、山下の真面目さと自分への厳しさに苦笑い。同時に微笑ましさも感じながら、山下をたしなめようと口を開く。


「いや、だから、今日はまだそんなに頑張らなくてもいいし、ガンドランをすると自分が思っている以上に頭が疲れるから休憩しないと倒れ──えっ?」


 俺は山下の目を見て閉口した。俺の目を見る山下の瞳に浮かんでいたのは使命感でもなんでもない。山下は表情こそ乏しい。が、よく見ると彼女の表情は、ゲームを取り上げられそうになって親に懇願する子供のように、甘えに満ちていた。


「……山下さん。ガンドラン、楽しいのか?」


「うん。楽しい……」


 そうだよな。……山下さんにとってはガンドランが初めて遊ぶゲーム。楽しくなってもおかしくはないよな。


「山下さんが楽しいならよかった。義務感だけでやらせるのはちょっと、俺も思うところがあったんだ」


「それで、もう少しやっていい?」


 ……っ!


 普段大人しい山下が見せたワガママ。ほんのりと頬を赤らめ、首元の髪を弄る山下のかわいさに、俺はダメと言うことができなかった。


「わかった。けど、夕食の準備が終わるまでだからな」


「うん。ありがとう、町川くん」


 澄み切った弾んだ声でお礼をいう山下は、口元が緩むのを必死に抑えようとする。その仕草に、俺もつられて微笑んだ。


***


「こんなにいいの……?」


「ああ。まあ、昨日の残り物もあるけどな」


 俺が作った夕食は、脳の疲労回復と目の健康にいい食材をふんだんに盛り込んだ和食だ。二人用の食卓の上には、サンマの塩焼きと肉じゃがと小松菜、それにみそ汁と白米が並んでいる。


「のりと納豆とふりかけはあるから、食べたかったら言ってくれ」


「じゃあ、のりもらっていい?」


「わかった」


 以前はお茶と水の値段差すら遠慮していた山下が、素直にのりが欲しいと言ってくれた。そのことに内心歓喜しながら俺は、キッチンからのりを取ってくる。


「ありがとう」


「ああ。……じゃあ、食べるか」


「うん」


 そうして山下はまず、肉じゃがに口をつけた。その途端、山下の目が潤む。


「大丈夫か!? そんなに不味かったか?」


 俺は勢いよく立ち上がり、吐き出す用のティッシュを取りに行く。対して山下は口元を押さえ、首を横に振った。


「ううん。そうじゃないの。……久々に食べた町川くんの料理が、おいしくて……」


 肉じゃがを呑み込んでからそう言った山下は、陽だまりのような優しく温かい笑みをはっきりと浮かべた。

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