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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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13.格安デート③

 木々に覆われた自然公園のベンチ。そこに山下と並んで座り、読書すること一時間。


 チラッと横を見ると、山下は背筋をピンと伸ばし、ページをめくっていた。わかりずらいが、本を読む山下の目はいつもより少しだけ大きく開かれ、物語に没入しているのが見て取れた。


 よかった……山下さん、楽しんでくれてるみたいだな。


 ふいに、山下は垂れてきた横髪を耳にかける。その仕草に、俺の目は釘付けになった。


「…………っ」


 息をするのも忘れて、俺は山下の横顔に目を奪われる。そうしていると、手に持っていた本がバサッと音を立てて地面に滑り落ちた。


「やばっ……!?」


 俺は慌てて本を拾い上げ、我に返る。本を軽く叩き、土埃を払いながら隣を見ると、山下は俺が本を落したことにも気付かないほど熱中して本を読んでいた。


 山下さんの邪魔にならなくてよかったぁ……。


 そうして俺も読書に戻る。


 もうじき本格的な猛暑が到来しようかという六月の最終日。木陰でそよ風に揺られ、のんびりと本を読む。そんなありきたりで特別な時間は、あっという間に過ぎていった。


「あっ……」


 読書を初めて二時間が過ぎた頃。山下は本の最後のページを読み終え、もの惜しそうな声を漏らした。


「読み終わったのか?」


「うん……」


「どうだった? 楽しめたか?」


「うん。面白かった。主人公とヒロインの関係性がどんどん変わっていって、次はどうなるのかなって気になって……気付いたら全部読み終わってた」


「そうか」


 表情だけは冷静だが、山下の声には物語の興奮冷めやらぬといった熱がこもっていた。


「山下さん。よかったら今度、俺の家にあるラノベを何冊か貸そうか? 返すのはいつでもいいから、時々気晴らしに少しずつ読めるように」


「いいの?」


 珍しく食いつきのいい山下に、俺は迷いなく頷いた。


「ああ。じゃあ明日にでも学校に持っていくけど、それでいいか?」


「ありがとう町川くん。……楽しみにしてるね」


 口元を緩ませ、薄っすらと微笑む山下。彼女につられて、俺も表情が緩む。俺みたいな陰キャが山下のような美少女と微笑み合っていられる時間はいつ終わるかわからない。けれど──。


 山下さんといられる時間がずっと続いてほしい……。


 そう思わずにはいられなかった。そう思う自分が照れくさくて、俺は山下から目を逸らす。


「……あー山下さん、喉、渇かないか?」


 俺が前髪を弄りながら問うと、山下は首を振った。


「ううん。大丈夫……」


 これ、嘘だな。


 山下は嘘──というか我慢をするときには僅かに瞳が揺らぐ。山下とメイドカフェ「メイフィー」で出会ってからの二週間で気付いたことだ。


「じゃあちょっと俺、飲み物買ってきていいか?」


「うん……待ってるね」


 俺は山下に見送られ、図書館前にある自動販売機まで小走りで移動した。


 山下さんは味が薄いものが好きだったよな……ここは無難に水とお茶でいいか。


 俺は山下を待たせるのも悪いと思い、即決して水とお茶を買い、山下の元へ戻った。


「山下さ──」


 戻ると、山下は膝の上に本を置き、スヤスヤと寝息を立てて寝ていた。彼女の無防備な寝顔はいつも通りの無表情。けれどよく見ると、その口元は緩み、ほんの少しだけ口角が上がっていた。


 少しは、リフレッシュできたみたいだな……。


 山下の幸せそうな寝顔は今日のデートを本心から楽しんでいたことを物語っていて、俺は安堵に表情を緩める。それから俺は山下の隣に座り、本を読み始めた。


 辺りに人もいなくなり、山下の静かな寝息とそよ風に揺れる木の葉の擦れる音だけが響く。文明から完全に切り離された空間、隣には学年トップの美少女。そんな現実離れした状況での読書は、言葉にできない高揚感を伴った。


「……んん」


 どのくらい経っただろうか。木の葉の隙間から差す光が茜色に変わり始めた頃、山下が目を覚ます。


「おはよう山下さん」


 俺は、細く目を開けた山下に声をかけた。すると山下は思い出したように勢いよく目を開き、俺を見た。


「ごめんなさい。わたし寝ちゃって……」


「いいって。俺もずっと本読んでただけだし」


 もとはと言えばこれは、山下がリフレッシュするためのお出かけ。だから山下が気持ちよさそうに寝ていたのは上手くいった証拠だ。


 だから、むしろ山下さんが気持ちよさそうに寝てくれてうれしい……。


「それより山下さん、水とお茶、どっちがいい?」


 俺は自動販売機で買ってきた水とお茶を掲げ、話題を逸らす。


「えっ……!? わたしはいいよ……」


「遠慮するな。これは今日付き合ってくれたお礼だ。受け取ってくれ」


「でも……」


 視線を揺らす山下を、俺は真っすぐに見つめる。すると、難なく山下が折れた。


「……じゃあ、水……もらうね」


 そう言って水に手を伸ばす山下の瞳は、不自然に揺らいだ。


 また遠慮してるな……。


「あー山下さん。選ばせといて悪いけど実は俺、このお茶の味苦手なんだよな……だからその、こっちを飲んでくれないか?」


 俺は水を引っ込め、代わりにお茶のペットボトルを前に出す。そうすると山下は俺の顔を覗き込んだ。


 ……っ!? これやばっ……!


 決して山下自身も狙ったわけではないだろうが、美少女の不意打ち上目遣いに、俺は声を我慢するので精一杯だった。頬の熱さに、俺は慌てて横を向き、顔を隠す。


「……ごめんね町川くん。気を遣わせて……」


 俺が吐いた、お茶が苦手だという嘘はあっさりとバレた。しかしその上で、山下はお茶のペットボトルを手に取った。


「ありがとう……」


「いや……まあ……」


 俺が曖昧な返事をすると、山下はペットボトルを傾け、口をつけた。その際、結露してペットボトルの表面に付いていた水滴が流れ、山下の白く細い腕を煌めかせた。


「……じゃあ、そろそろ帰るか」


「うん……」


 日も傾き始め、木々が生い茂る自然公園は茜色に包まれる。色の抜け落ちた自然公園が、デートの終わりを告げていた。


「町川くん」


「なんだ?」


 自然公園の出口へと歩き始めていた俺は、山下の声に振り返る。すると山下は耳の裏を触り、躊躇いがちに口を開く。


「あの……今日はありがとう。今日は時間も忘れるくらい楽しくて……。えっと……その、明日からもよろしくね?」


 何を言いたいかわからなくなった山下が最後に疑問形で放った言葉に、俺は思わず噴き出した。


「ふっ……ハハッ! なんだそれっ?」


「……っ! ううん……な、何でもないの……」


 顔を真っ赤に染め上げた山下は、肩を丸めて俯き、視線を逸らした。


 ……まあ、ちゃんと楽しんでくれたみたいでよかったかな。

この話を読んでいただきありがとうございます!


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