覚醒
ルナはローゼスの魔力プラント内に囚われてしまう。気付いたアーシェラは王太子らしからぬ判断をする。ルナを追いかけてローゼスに単身乗り込む。イーラは危険を感知して魔道砲対策も発動して対応は万全である。そこで特殊だったのは、魔道砲の魔力源も、ローゼスの魔道障壁の干渉・吸収の要も全てルナの隔離されているプラントだったのだ。戦闘開始。もうルナには逃げ道がなかった。
大陸の北西は、AIが支配する機械国家ローゼス、人は住んでいるが家畜同然の生活を強いられている。国力はかなりの部分が軍事力に偏っており、軍事力はアンブロシアにも劣らない。
機械蜘蛛の脚に貫かれたルーナは、胎内にはナノマシンが侵入して、完全に魔力循環回路を破壊されてしまっていた。
全く魔法が使えないのだ。
「ダメ・・・魔法構成が全く作れない・・・いったぁぁっ・・・」自己の身体の生命保持、疼痛コントロール全て出来ない状態に苦しめられていた。
ルーナはコントロールプラントの中枢の魔道エネルギー中枢にあるエネルギー抽出カプセル内に固定されてしまっていた。
身体のあらゆる場所に巨大留置端子を突き刺され、埋め込まれ魔力が吸い取られて行く。涙は出るが声すら出せない。
この国を統括するAIラプラスは、この国の巨大プラントのエネルギー源を探していたのだ。
その枠には本来は数十万人にも及ぶ魔導師の魂を封じ込めた生命石が置かれるはずだったがルーナ一人の犠牲で賄われる事になったのだ。
AIラプラスは語る。『まさかこんなに優れた動力源が見つかるとは思わなかった。』しかも、魔封装備を付けているため反撃も出来ない。持って来いの乾電池なのだ。
ルーナの拉致はまもなくアーシェラの耳に届く、現場に駆けつけた時には、金属スライムのコアが多数転がっているだけだった。
「これ程の数の機械兵器が一度に破壊されているという事は、ルーナが戦闘に勝って逃げ切れた可能性もあるか?」
残骸の端に大量の血痕がある。恐らく捕まった可能性が高い。
「やはり奴らに捕まったか・・・」
「アーシェラ殿下諦めた方が良いのでは無いですか?」
「いや、私は今までこれ程に愛らしく思えた女性は居ない。諦めるものか!」
古代魔法を使ってルーナの全ての過去を知ったアーシェラは、どうしようもなくルーナに心奪われていたのだ。
「しかし、危険ですし、いつも冷静な殿下らしく無いですよ。」
「なに・・・この日の為に全てとっておいただけの事だ・・・」アーシェラはローゼスの主都であるメナキアの主城に転移した。
城と行っても中は無機質で人っこ1人いないどころか、AI兵器すら配置されていない。
こんな所に敵はいるのか?アーシェラが疑問に思ったところ一瞬にして周囲を囲まれる。
『これはアーシェラ殿下お迎えに上がる手間がはぶけましたね。』AIラプラスが話しかける。
『当国は、これでこの大陸の全ての国を支配し統一する事になります。逆らう国には魔導砲を打ち込んで灰にしてあげましょう。』
ラプラスの身体は特殊金属で出来ており柔軟でしなやか、切る事もできず、打撃も効かず溶ける事も固まる事もなく、壊れても無限に再生出来る最強の身体を持っているのだ。
そして今、ルーナという新たな動力源を得てエネルギーも使い放題となったのだ。
「バルグラント」アーシェラが攻撃を開始した。古代魔法で作り出す硬く巨大な岩が、ラプラスに投げつけられる。
「ドゴゴゴゴォォォ」ラプラスは岩に押し潰されるが当然死なない。
巨大な岩を割り現れる。
「やはりこの程度の魔法では効かないようですね。これはどうでしょう!」
「フラウバース」蒼い高出力の炎がラプラスを包み込む。
「ゴオオオオォ」ラプラスは溶けて形を失うが消滅もしない。術の効果が落ち着くと、再び元の人型に戻ってしまう。
『かなり高出力な魔法でしたね。でも私を倒すには足りませんねぇ』
ルーナは魔導動力炉から虚な瞳で二人の戦闘を見つめていた。
『それでは、私からもお返しを致しましょう。』ラプラスの身体から細く鋭い触手が出て来て高速でアーシェラに襲いかかる。
「グレイウォルト」
偉大なる盾が触手を防ぐが吸収されてすぐに防壁は消えてしまう。
アーシェラは逃げられず何発もの触手に貫かれる。
「うぐっっ」必死に耐える。
『もう終わりですか?』ラプラスは不敵に北叟笑む。
アーシェラの古代詠唱が始まる。
『おやぁまだ大きな魔法をお持ちなんですか?ゆっくりとどうぞ。こちらも魔導砲の発射準備を致しましょう。』
魔導砲の目標はイーラの首都エクリアだ。
先にアーシェラの詠唱が終わる「ライラ!」巨大な電撃がラプラスに落ちる。
何故かプラントの核であるカプセル内のルーナが血の涙を流して苦しみ出す。
『分かりますか?貴方が攻撃でつかった魔法のマナは全てこの核の中の娘の身体に蓄えられるのですよ。優秀な核で助かります。』
ラプラスの受けた全ての古代魔法の魔力が全てルーナの身体に流れ込んでいたのだ。
『それではごきげんよう。』
「フオオオォォォ」街一つを灰塵と化す巨大な砲撃がエクリアを襲う。
その頃エクリアの魔塔では、魔導師が集結して集団詠唱から防御壁を完成させていた。
それは、ただの魔法障壁ではなく、受けた攻撃のエネルギーを増幅して跳ね返す特殊防壁であった。
「フレアリフレクタ」
物凄い光の中、魔導砲のエネルギーはルーナを捕らえられている首都メナキアに向けて倍以上に増幅されて跳ね返された。
ラプラスとアーシェラの対峙しているメナキアの巨大プラントに直撃する。
全ての魔導エネルギーはルーナの小さな身体に無理やり流れこむ。
声の出せないルーナは苦痛に耐えかねカプセルの中で血の涙を流してひたすら蹲っていたルーナの身体が突然光に包まれる。
夥しく身体に付けられた魔封装備が一つまた一つと壊れて消えて行く。そして全ての魔封具が消失した時巨大な魔力爆発が起こった。
メナキアのプラントはすべて吹き飛び藻屑と化した。
灰燼と化したプラント跡には、ルーナを抱きかかえたアーシェラだけが立ち尽くしていた。
るるるー 閲覧ありがとうー ございますぅ