第7話 アタシと猫又の里
「くそっ…!」
「落ち着いてください、千里さん。管理人さんが休んでるんですから」
寝室に眠る静さんが起きていないのを確認した後、悪態をついたアタシを諌める久遠
「わりぃ…。でも油断してた、家ん中が安全とは限らないって分かってた筈なのに…!」
自分の不甲斐なさに腹が立ち、机に拳を打ち付ける。何をしてんだよ、アタシは…!
「だから落ち着いてくださいってば…今、果凛が残った妖気を辿って追跡しています。それまでは待つしかありません……」
「くっ…美鈴……」
歯痒い…待っているのは性に合わない…かといって何が出来るわけでもない……自分の無力さが恨めしい
「千里さん…こういう時こそ平常心です。焦ったってどうしようもありません」
「だけど…っ!」
「じゃあ聞きますけど…“只の人間”の貴女に何が出来るんですか?」
「…っ」
キツい言い方だが、事実だ。何も言えない…悔しい
「久遠様」
「果凛、どうですか?」
「駄目です。もう人間界には居ないようですね…気配が途切れました。すみません、力不足で……」
捜索から戻ってきた果凛が悔しそうに呟く。しかし久遠はさほど気にしないようだった
「いえ、ありがとう果凛。此処に居ないならもう特定したも同然です…恐らく妖の界…猫又の里でしょうね。果凛、行きますよ、転移の準備を」
「了解です」
「千里さんは待っていて下さい……なんて言うこと聞いてくれそうな顔じゃありませんね」
呆れたように久遠は言った。何かイラッと来たけど、そんな事を気にしてる場合じゃない
「当たり前だろ、大事な友達が危険な目に遭ってるかもしれないのに、黙って待ってられっか!」
「はぁ…やっぱり。分かりました、連れていきます。但し無茶だけはしないで下さいね」
「あぁ…分かった。必ず助けようぜ」
「はい、美鈴さんの憎まれ口が聞けないと何だか淋しいですからね」
「久遠様、準備完了です」
「よし、それでは行きましょうか!」
「あぁ!」
眩い光がアタシ達を包み込み、転移する。
美鈴、待ってろ…今、助けに行くからな…っ!
「がはっ…!うぐっ…!げほっ…!」
「しぶといわねぇ…さっさと吐きなさいっ!」
“ゴスッ!”
誘拐されたボクを待っていたのは、いつ終わるとも知れない拷問だった。吊し上げられたボクは抵抗できるはずもなく、されるがままに暴力を振るわれる
「げふっ…!おぇぇっ…!」
「うわ…汚い。吐くなら族長の証の在処を吐きなさいよ」
「はぁっ…はぁっ…五月蝿い、美莉愛…あんたに教えることなんて……ないっ…!」
先程から暴行を加えてきた女-美莉愛-を睨み付け、吐き捨てる。
「そう…まぁまだ時間はあることだし…じっくりいたぶってあげる…あ、忘れてたわ…貴女に屈辱をあげなきゃね」
そう言い美莉愛は熱した金具を手に取り、ボクに近付いてきた
「そんな事…しても…ボクは屈しない…絶対に…っ」
「あっそ…ほざいてなさい」
“ジュウゥゥッ!”
「あがぁぁぁっ!?いぎぃぁぁっ!?」
「あー…もう、五月蝿いわね、これでも咥えてなさい」
「むぐうっ!うぅーっ!!んむぅーっ!!」
想像を絶する熱さと痛みにに叫び声を上げる。それを鬱陶しそうに一瞥しボクの口に布を詰め込む。とうとう喋ることすら奪われる
「あははは!無様ね!これであんたは領主になることは無理ね、だって奴隷としての刻印、押されたものね!」
胸元にズキズキと痛みが走る。視線を落とすと、奴隷の烙印がくっきりと刻まれていた…
「ふーっ…ふーっ…!」
「あらら、睨んじゃって怖いわね…じゃあ反抗する気力なくなるまで遊んで「そこまでにしておけ。目的を間違えるな」
突然、男の声が響き、美莉愛の手が止まる。舌打ち一つするとボクから離れ、入れ替わりに男が近付いてくる
「久しいな…美鈴。元気にしていたか?」
「ぷはっ…気安く名前を呼ぶな…常夜 連太郎…っ」
「冷たいな、婚約者に対して。レンと呼んで慕ってくれていただろう?」
「五月蝿い…そうやってボクの心を弄んで…そして父様を殺した…ボクはお前を絶対許さ…んむっ!?ふっ…んっ…はっ…んぅ…」
言葉を遮るかのように、連太郎が唇を重ねる、嫌なのに…コイツは父様の…仇なのに……なんで拒絶できないの…なんで……
「ふぁ……っ」
「惚けた顔をしているな…どれだけ罵ろうと、拒否は出来ない。体は正直だな…美鈴」
「……っ」
「ふん…そんな小娘の何処が良いんだか。興醒めしたわ…帰る」
「そうか…美鈴はどうするんだ?」
「適当に牢屋にぶち込んどいて。まだまだ苛めたりないもの」
「分かった。おい、連れていけ…怪我の手当ても忘れるな」
部下に指示をして、連太郎も去っていった。拘束を解かれるが、抗う気力もなく牢へと連れられて行くのだった………
「此処が…アイツの故郷」
「はい、猫又の里です。果凛、お疲れ様…暫く休んでいて」
「ふにぃ…すみません」
申し訳なさそうに果凛は呟く。どうやら今の転移で霊力を殆ど使ってしまったらしい…そんなに力使うのか?若しくは1人余分だったからか……多分、後者の方だな
「ごめんな、果凛。無理させて」
「気にしないで下さい。千里様は絶対引き下がらないと思ってましたし……それに私は元々、霊力が低いんです。久遠様が拾ってくれなければ消滅していました……」
懐かしむように果凛は話す。隣の久遠はちょっと頬を染め、照れ臭そうにしていた
「ふふ、優しいんだな?久遠」
「い、いえ別にそういう訳では…ただその…式神も居なかったんで…たまたまですよ」
「それでも拾ってくれた恩は忘れません…回復したら後を追います、千里様、久遠様…ご武運を」
「えぇ」
「おう、果凛も気を付けろな?」
狐の姿になり、物陰に隠れた果凛に手を振り歩き出す。さて……これからどうするかな……?
「おい、久遠!あれ…!」
「何ですか……あ!」
指差した方を見、久遠が声を上げる。そこには手足を拘束され、目隠しと猿轡を噛まされた美鈴が荷物のように運ばれていた
「酷い……」
「何もあそこまでやることないだろ……っ!」
「落ち着いてください……此処で騒ぎを起こしたら、美鈴さんの救出どころじゃ無くなりますよ…堪えて下さい…っ」
「だけど…っ!」
「千里さん…私だって同じ気持ちです……っ!」
飛び出そうとしたアタシの腕を掴む手は怒りに震えていた。そうだ…久遠だって優しい子だ、友人のあんな姿を見て何も思わない筈がない
「わりぃ……ダメだな。すぐカッとなるの、悪い癖なんだよなぁ」
「裏を返せばそれほど、正義感が強いって事ですよ?私は素敵だと思います」
「そっか…ありがとな」
「エヘヘ」
感謝を込めて頭を撫でるとふにゃりと笑う。不謹慎だがすげー可愛い。じゃなくて…
「さて、どうやって助ける?」
「んー、そうですね……」
「むぅっ…!?」
思案していると、呻き声が聞こえた。慌てて視線を移すと、男達が美鈴を牢屋に投げ入れ、暴行を加えていた
「むっ…んうぅっ…!」
「けっ、ざまぁねぇな!小娘!」
「ぐっ…ぐふっ…ごほっ!」
「覚えてるか?俺の右腕、お前に折られたんだぜ?おらぁっ!」
恨み辛みを吐きながら男達は暴力を振るう。小さな体でそれを必死に耐える美鈴……くそっ!
「久遠、ごめん無理だわ…!」
「あ、ちょっ…千里さん!」
久遠の制止を振り切り、走り出し近くにいた男を殴り飛ばす。そのまま壁に激突しそいつは気絶した。ふん、弱すぎる
「誰だ、貴様!ぐほっ!?」
呆気に取られていたもう1人を蹴り飛ばし、黙らせる。只の人間にやられるとか…笑えるな
「生憎、友達を傷付ける輩に名乗る名はねーよ……いて、何すんだよ久遠」
「もう、勝手に飛び出さないで下さいよ…相手が弱かったからまだしも、格上だったらどうする気だったんですか」
「すまん……美鈴、大丈夫か?」
美鈴の拘束を解き、体を起こす。体は痣やら生傷やらが付いていた
「げほっ…げほっ…千里、久遠、なんで此処に……」
「助けに来たからに決まってんだろ」
「…久遠も?」
「はい。友を見捨てるほど、私は薄情では無いですよ?」
「2人共…ありがと…」
「良いってことよ。さてこのまま戻るか?」
「そうですね…美鈴さんも衰弱しているようですし…一旦戻り「そうはさせん」
「連太郎……!」
声のした方を向くと1人の男が果凛を連れて立っていた
「果凛!」
「久遠様…すみません…」
「貴様…果凛を離せ!」
怒りを込めた瞳で睨み付けるが男は動じることなく果凛の首を絞める
「あっ…かひゅっ…」
「最後の通告だ。大人しくしろ…」
「くお…さ、ま…ダメ…っ」
「くっ…分かりました…従います…」
「ふん」
一瞥した後、手を離し果凛が地面に落ちる。同時に久遠が駆け出す
「愚かな…」
「がっ…!?」
男が投げ付けた首輪が久遠の首に装着され、呻き声を上げ、その場に崩れ気を失った
「久遠!てめぇ、何しやがった!」
「少し大人しくして貰っただけだ…貴様もだ。やれ」
「がはっ…!?」
直後、腹部に衝撃が走り、アタシの意識は完全に刈り取られた……




