第1話 アタシと人外少女
突然だが、皆は幽霊とか妖怪とかそういうの信じる?アタシ、天宮 千里は信じる派…というか見えるし触れるし、話せるしの無駄なハイスペックのせいで信じざるを得ない、と言った方が正しいか。昔から見えないものが見えたりで周りからは気味悪がられたり、怪奇現象に巻き込まれたりとで、いつの間にか孤立していたが、まぁその方が気楽で良いんだが…そんな感じでいつも1人だった訳だ…今日までは
「天宮さん!一緒に帰りませんか!?」
1人の小柄な少女がアタシに声を掛ける。周囲は驚いて此方を、厳密に言えばその少女を見ていた。ていうかこんな子、うちのクラスに居たかな
「あんた誰?まぁ良いや、止めときな、アタシに関わるとロクな事無いよ」
「狐川 九遠です!よろしくお願いしますね!」
「いや、話聞けよ…」
「狐川ちゃん、止めとけって。そいつ疫病神だからさぁ」
話を聞かない少女、狐川に頭を抱えていると1人の男子がそう言い放つ。事実とはいえ改めて言われると腹立つな、なりたくてなった訳じゃねーのに
「疫病神?」
「そーだよ。そいつの近くに居ると必ず何か起きるんだよ。事故とか怪奇現象とか色々な。だからそんな奴とじゃなくて俺らと遊びに行かない?」
下心丸出しの笑みを浮かべて男子が此方に近付き、狐川の手を掴み、連れて行こうとする。
「あ、あの…私は…っ」
「良いから行こうよ、帰りは朝になるかもだけど!ギャハハハ!」
抵抗するが相手は男子、小柄な狐川では振り切れない…はぁ、全く
「おい、嫌がってんだろ…離してやれよ」
「あぁ!?てめぇはお呼びじゃねーんだよ、疫病が…ごふぉっ!?」
言い終わる前に鳩尾に一発入れ黙らせる。生徒指導の先公に怒鳴られるなこりゃ。まぁいいか
「大丈夫か、狐川」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ったく、気が変わった。一緒に帰ってやるよ。こういうバカに絡まれたりしないようにな」
「やった!ありがとうございます!」
「誰がバカだ…がふっ!?」
立ち上がった男子の股間に蹴りを放つ。その場で硬直した後、うずくまって動かなくなった
「ほら行くぞ」
「あ、はい」
野次を飛ばしてくるクラスメートを無視、狐川の手を引き教室を後にした。その間ずっと握った手は力が入って、怒りに震えているようだった
「全く!何なんですか、あの人達は!天宮さんの事を何にも知らないくせに!」
「まぁ、いつもの事だから気にすんな…ていうかあんたも知らんだろ…それより何でアタシと帰ろうと思ったわけ?」
駅近くの喫茶店で一息吐き、怒りを露にしながら特大パフェにかぶり付く狐川へ問う。見てるだけで胃もたれしそうだ…ちょっと可愛いなんて思ったのは秘密だ
「そうでした!私、天宮さんとお話したかったんです」
「はぁ…アタシと?物好きだな、アタシに興味も持つなんて」
キラキラと目を輝かせて話す少女に呆れる。両親以外、アタシに関心持つ奴なんて誰も居ないのに…まぁその両親すらもう居ないんだが
「私、天宮さんの事、前から素敵な人だなぁって思ってたんです。格好良くて面倒見の良い人だなって。こないだも男の子を助けてましたよね?」
「ぶふっ!?おま、何で知って…!」
あれ、学区外でしかも相手は幽霊だぞ!?何で…
「ふふ、私は何時だって貴女を見ていたんですよ?」
ふわりと笑い、狐川は言う。何なんだこいつは…
「あ、でも遊び半分で肝試しに来た人を追い払うのに暴力振るのは頂けませんよ」
「う…そうでもしないとああいう輩は言うこと聞かない……ってちょっと待て!まだ中学ん時で、5年も前の話だぞ!何で知ってんだ!?」
「言ったじゃないですか、“何時も見ていた”って♪」
……コイツ、ひょっとしてストーカー?
「失礼な!ストーカーじゃありませんよ!」
「あ、声に出てたか?すまん。ストーカーじゃなかったら何なんだ?」
「んー…それを話すにはちょっと此処じゃ目立つんで…場所を変えましょうか」
「…分かった。ちゃんと話してくれよ?」
「勿論!さぁ行きましょう」
そう言い立ち上がり、狐川は会計へ向かうが慌てて戻ってきて申し訳無さそうにこう言った
「…すみません、お金貸してくれませんか?」
「はぁ……分かった、アタシが奢るから返さなくて良い」
会計を済ませ、外へ出る。因みに3000円の痛い出費だった…畜生
「うん、この辺なら良いでしょう…」
暫く無言で歩いていた狐川に付いていくと、町外れの神社に着いた。懐かしいな…昔良く遊びに来たっけなぁ…
「んで、あんたは一体何者なのさ…てのも気になるが、いい加減出てこいよ。さっきから尾けられてたのは知ってんだよ!」
大声で叫ぶと影からぞろぞろと先程の男子を始め、大勢の不良がアタシを取り囲む。おいおい…お礼参りってやつか?
「さっきはよくもやってくれたなぁ、天宮!泣いて謝るなら今のうちだぜ?」
「はぁー…お前さ、女子1人に数で来るとか恥ずかしくねーの?まぁ良いや、狐川ちょっと離れてろ…すぐ終わらせっからよ!」
「天宮さん…!」
引き止めようとした狐川の手を振り払い、不良共に向かっていく
「死ねぇ!」
「遅ぇんだよ!はぁっ!」
先頭の奴の拳をかわし、カウンターで蹴りを放つ。まず1人!
「てめぇ!よくも!」
「ぶっ殺す!」
1人がやられたのを皮切りに全員が此方へ向かってくる
「上等だ!纏めて掛かってこい!」
四方八方から拳や蹴りが放たれる。それを捌きつつ、確実に仕留め、数を減らしていく。
「どうしたぁ!その程度か!」
「ち、女だからって甘く見てりゃ…」
「そこまでにして貰おうか天宮ぁ!」
最後の1人が忌々しげに吐き捨てた時、大声が聞こえる
「な…狐川…!」
「この嬢ちゃんが傷物にされたくなかったら…分かってるよなぁ?」
ゲスな笑みを浮かべて、男は狐川の頬にナイフを突き付ける…くそ、外道が…っ!
「分かったよ…好きにしろ。但しソイツには絶対に手ぇ出すなよ?」
怒気を含んだ声で言うと男は若干怯むが自分が優位なのを思い出し、直ぐに余裕を取り戻す
「よし…野郎共、今までの恨みを晴らすチャンスだ、やっちまえ!」
1人がアタシを羽交い締めにし、身動きを封じる、それを合図に次々と拳や蹴りが襲いかかる
「がはっ…!ぐっ…うぐっ…!?」
「天宮さん…!」
「騒ぐなって…これくらいなんともねーよ…ほら、お前ら…こんな腑抜けた拳、痛くも痒くもねーぜ?」
「ほう、じゃあこれはどうだぁ!?」
“バキッ!!”
「がはっ…あがっ…げほっ、げほっ…」
大きく振りかぶった鉄パイプが腹に直撃、肺の空気が一気に押し出され、噎せ込む。ヤベ…目眩がしてきた
「もう止めて…天宮さんが死んじゃう…っ!」
「あ?かえって良いんじゃねーの?こんな疫病神、生きてる価値ねぇっての!」
“ガスっ!”
「あがっ…!?はっ…はっ…」
「あっはっはっは!良い様だな!天宮!」
「止めろ…」
「あ?何か言ったか?」
「止めろと言っているのが分からぬか!愚か者どもがぁぁ!」
狐川が叫ぶと、突風が巻き起こりアタシを捕まえていた男が吹き飛んだ。痛む体に鞭打ち立ち上がると、そこには凄まじい気迫を纏い、狐耳と九つの尻尾が生えた狐川が、不良のリーダー格を怒りを露にし、睨み付けていた
「全く…下手に出ておれば調子に乗りおって。天宮さんに生きている価値が無いだと?人を弄び、傷付ける貴様らの方が生きる価値は無いわ!」
「ひぃ…っ」
「今すぐに立ち去ると言うのなら見逃してやろう…だが少しでもおかしな素振りを見せてみろ……家族纏めて呪い殺すぞ…」
「ひ、ひいぃぃっ!」
怒気の籠った言葉に不良達は蜘蛛の子散らすように一目散に逃げていった
「全く…腰抜け共め。天宮さん、大丈夫ですか?」
「あんた…何者…うっ」
「天宮さん!?しっかり!天宮さん!」
叫び声を最後にアタシの意識は途切れた
「ん…此処は…」
「目が覚めたんですね!良かったぁ!」
目を開けると病室のベッドに寝かされていた。隣には狐川が安堵したような表情でアタシを見ていた
「狐川、あんたが運んでくれたのか?」
「はい、ごめんなさい。私の所為で」
ションボリと項垂れて落ち込む狐川。ったく…
「気にすんなっての。アタシが勝手にやった事なんだから」
そう言い狐川の頭を撫でる。心なしか心地良さそうに目を細める
「あぁ…天宮さんはやっぱり優しい人ですね。撫で方で分かります」
「買い被りすぎだって…そういやあんたが何者なんだかまだ聞いてないんだけど。人外ってのは分かるけど」
「あ、そうでしたね。んー…信じてもらえるか分かりませんが、実は神様なんですよ、私」
えっへんと言わんばかりに手を腰に当て、得意気に彼女は言った…は?神様…?
「はぁぁぁっ!?」
病院内にアタシの叫び声が木霊した
父さん、母さん。とんでもない人外と出会ってしまいました…