第45戦:思い出を、感情を、意志を、覚醒させろ!
その声に時計が姿を突然消す。ティウムの顔が歪む。そして、驚いたように目を見開いた。
『貴様…!』
ティウムの視線の先には湖の中に悠然と立っている愛憎の姿があった。手には開かれた本が、ティウムが渡した本がある。
「俺達の大罪人達を舐めてもらっちゃあ困る。なあ、みんな?」
『みんな…?貴様以外にいるなどあるわ…け…!!』
愛憎の言葉にティウムは止まる。我を邪魔したこいつらと同じ思いを秘めた罪達が自分の大罪人を支えるように立ち上がらせているのを見たからだ。愛憎が前にいるのでヴァークとサツキを立ち上がらせているは暴食の罪と憤怒の罪の2人だ。
さっきまで気絶していたのに何故?!
龍も驚いたように雄叫びを上げる。
『何故、貴様らが…?!』
それにニッコリと笑って傲慢の罪、月が言った。零が持つ大剣と同じ黄色の光に包まれている。
「あら、わかんないの?アタシ達の大罪人が“悪意”から解放させてくれたからに決まってるじゃない」
「罪と大罪人の絆を見誤ったな、『神』のオリジンよ」
憤怒の罪、雪が笑って言う。彼は緑色の光に包まれている。
『絆?ハッ。脆くも崩れ去るような見えないモノに情を持った、貴様らの方がよっぽど見誤っていると思うが?』
彼らを嘲笑うようにティウムは顎を右手に置いて言った。それに強欲の罪、唄が言った。マヤが持つ斧同じ青色の光に包まれている。
「確かに絆は見えませんし触れられません。しかし、響くでしょう?」
「こう、心にさ。響くんだよ…見なくても、触れられなくても」
唄の言葉を受け継ぎ、嫉妬の罪、練が柔らかい笑みを浮かべ、言った。勇馬の持つ刀と同じ黒色の光に包まれている。
見えるモノ、触れられるモノだけが重要ではない。見えない、触れられないモノだって時によっては重要なのだ。『心』に響くような“絆”や“想い”のように。
『ほざけ。そんなモノにどんな価値があるというのだ。そんなモノがあっても貴様らも大罪人も、人間も『神』も、いずれはそんなモノ捨てる存在じゃ』
ティウムの言うことは正論だ。誰だってそんなモノ、いつか捨ててしまう。それでも…最後の最後まで捨てない者だっているのだ。
「……捨てない者だって……いる、よ…信じる…ことだって…大切だよ……」
怠惰の罪、水が言った。春が持つ弓矢と同じ水色の光に包まれている。
『否や、破滅に導くことの方が大切。信じるなどは夢の中の夢じゃ。破滅こそが唯一の救いなのじゃ』
ハハハと嗤うティウム。信じるなんて愚劣をするよりなら破滅すればそんな脆いモノに情を持つことなんてなくなることの方がよっぽどいいとティウムは思っているのだ。【狂い咲きの闇黒】だってそう思っているだろう。だが、彼らは違う。
「それは違うぜぇ。破滅が救いだなんてその方がまやかしだぁ。破滅は終わりだ」
暴食の罪、剛が言った。彼は赤色の光に包まれている。剛の言葉を受け継ぎ、色欲の罪、蜜が笑って言った。鈴都が持つ魔導書と同じ紫色の光に包まれている。
「そうです〜。破滅は始まりじゃありません〜破滅が持つのは終わりだけ、です〜」
「破滅が終わりだなんて言わせない、救いだなんて言わせない。救いは『心』なんだよ」
憂鬱の罪、未来が真剣な顔で言った。哀が持つ薙刀と同じ空色の光に包まれている。
「俺達はこういう奴らなんだ。そして、俺達、罪が愛したのもそういう人間達だ。だから俺達はお前に屈しない。お前の考えを覆してやる!」
愛憎が叫ぶ。ヴァークとサツキの持つ武器と同じ金色と銀色の光に包まれている。
ティウムは鼻で嗤い、勝ち誇ったような顔で告げる。
『『神』に勝てる者などいないのじゃ。そう、『神』こそ最強であり、最恐なのだ!』
龍がティウムと同意見だと咆哮する。とその時、まばゆいほどの何色もの光が龍を突然と包み、その身をあっけなく引き裂いだ。龍は悲鳴を上げながら湖に消えていった。
『何故?!……!!貴様らもか!!どれだけ我を邪魔すれば気が済むのじゃ!!!』
ティウムが怒りに任せて叫ぶ。さっきまで龍がいた所には大罪人達に敵意を向けていた『神の双子』が空中に浮かんでいた。手には扇を持っている。
「邪魔?邪魔してるのはそっちだろう?」
「そうだよ。ウチらの愛し子をこんな風にしてくれちゃって!」
叫ぶ双子。だが、途端にティウムを憐れみの目で見た。
「でも、破滅はいけないな」
「そうだね、破滅はいただけない」
パタンッと双子が扇を畳むと大罪人達の傷が癒えた。
「「同じ『神』として貴殿に粛清を下そう」」
その言葉に誰もが驚きを隠せない。ティウム…『神』のオリジンでさえ。
「『神』のオリジン、2代目ティウムを極刑と処す。3代目以降は貴殿の意志は疎か誓いすら全て受け継がれないものとする。生まれ変わることすら禁忌とする!」」
『神』のオリジン、ティウムは呆然と立ち尽くす。『神』の上に立つべきものが『神の双子』によって死を宣告されたのだから。
ティウムはわなわなと両手を見つめると、背をそって大きく嗤い出した。
『ハ…ハハ…アハハハハハハハハハハハハハッッッッッッ!!!!!!人間にでも絆されたか双子よ!!我にそんな刑罰を与えて許されると思っておるのか!!』
「これはオレ達『神』全員の意見だ」
「今の君には『神』である資格も『神』と名乗る資格もない」
「「たかが『神』から堕ちた愚か者に過ぎない」」
双子が片手を繋いで言う。恐ろしく冷酷な顔で。
「敵…じゃないのか?」
「てか…味方になってるの!?」
「いや、違う。最初から双子は味方だ」
「……試してた…んだ…ボク達を」
「本当の敵に気づかせるために」
「本当の意志を見るためニ」
「「そして、決着をつけるために」」
大罪人達が『神の双子』の意図に気づく。
彼らは自分達の敵じゃない。罪との絆を、罪への意志を、思いを確かめ、認めたんだと、『神の双子』が発した言葉から伝わってくる。
『神の双子』は大罪人達にニッコリと優しく微笑みかける。
『愚か者だと?貴様らだって地上界を私用で滅ぼしたに過ぎないではないか!!』
罪達はティウムをにらみつける。違う。我が『神』は私用で地上界を滅ぼしたんじゃない!
「オレ達は違う。オレ達のしたことは『神』全員の同意を得ていた」
「そう。みんなあの時に地上界に不満を抱えていた」
「「だからオレ達/ウチらは火を放った」」
「まぁ私用よりも私情が」
「混ざってたかもね?」
キャハハと楽しそうに笑う双子。
そう、双子は勝手に地上界に火を放ったわけでがない。『神』全員の同意を得て放ったのだ。その時の『神』のオリジン、1代目の許可も得て。
一致していたのだ、意見も思いも。だが、今回は違う。私用で世界を滅ぼそうとしているのだ。同意も思いも一致していない。明らかに私用で私情だ。
『うるさいうるさい!!貴様ら全員、殺してやる!!』
ティウムが右手を振り上げた。大きな闇の形が大罪人達と罪達、『神の双子』に迫る、がそれを『神の双子』はバッサリと真っ二つにした。
「お前にはもう」
「『神』ではない」
双子は大罪人達と罪達を見て言った。
「「さあ、この愚か者に粛清を下せ。お前達/君達がけりをつけるんだ」」
それに彼らは頷く。罪達は双子に向かってこうべを垂れた。
「「「「「「「「我が『神』の御心のままに」」」」」」」」
「我が大罪人と巡り合わせてくれた運命と我が『神』の御意志のままに」
大罪人達は武器を構え、双子に誠意を示す。
「自分の信じた道を突き進むだけだ!」
「自分の欲望のままに!」
「怖気づく気もないな」
「………全てを晒して、真実を見る…」
「許す気はさらさないねん」
「どっちが悪いか教えてあげるヨ!」
「「嘘も真実も運命も全て見定めよう」」
それを見て、ティウム…『神』のオリジンでさえもなくなったただの愚か者が再び、攻撃を仕掛けようと両手を振りかざす。
「「それでこそ大罪人だ」」
『我に指図するでない!我こそが…!!!』
ティウムの頭上に出来上がる先ほどよりも大きな闇の塊。そこからウヨウヨと何かの形をした化け物が這い出てくる。数が多い。
「キッモ!メッチャキッモ!」
「どうすんだよ!近づけねぇぞ!!」
哀と勇馬が叫ぶ。と罪達が武器片手に走り出した。
「こいつらの相手は任せときな」
愛憎が大罪人達を振り返り、言う。
自分の罪が、相棒が、化け物の足止めをしてくれている。
大罪人達は頷き合い、化け物と罪達の対戦に向かって走り出す。戦いの火花をよけながらティウムに向かって突き進む。ティウムは大きな闇の塊を向かってくる彼らに投げようとしている。双子がティウムに向かって扇を向け、バッと開く。
「大人しく」
「殺られてよ」
「「愚か者が」」
ティウムの目が完全に狂っていた。自暴自棄のように。
「「傲慢、憤怒、強欲、嫉妬、怠惰、暴食、色欲、憂鬱」」
黄色、緑、青、黒、水色、赤色、紫色、空色の光が双子の扇から放たれ、扇を舞う。
「「愛憎」」
金色と銀色の光が双子の扇から放たれ、扇を他の光と共に舞う。とそれらの光がティウムに向かって放たれ、ティウムを拘束した。頭上の塊は少しずつ、操る者がなくなったために消えていく。
『おのれぇええええええええええ!!!!!!』
『神』ですらない者の声が響く。
大罪人達がティウムに近づき、武器の柄を握り締める。
「「「「「「「「「行っっけぇええええええええええ!!!!!!!」」」」」」」」」
罪達が自分の大罪人に向かって叫ぶ。それに答えるように大罪人が雄叫びを上げてティウムに向かって武器を振り上げる。
『貴様らああああああああ!!!!!!』
ティウムの憎らしげな、悔しそうな声が響いた。
眩しいほどの光がみんなを包んだ。




