第39戦:女王様の御成り
傲慢の大罪人、音時 零 VS 傲慢の罪、月
「!!」
光が晴れ、目を開けるとそこは何処かの舞踏会会場。高い天井からぶら下がる豪華なシャンデリラがピカピカと外からの月光で光り輝く。
「遅かったのぉ」
その声に傲慢の罪、月は振り返る。そこにいたのは大罪人である零。“覚醒”をしていた。だが今の彼女にとって零は敵でしかなかった。
「あら、死ぬのが待ちきれなかったの?」
「いんや、違うがのぉ。まぁ、そう捉えるのも合っているのぉ」
零は大剣を肩に担ぎ、月に向かって左手を出すと人差し指で来い来いとやる。
「武器片手に女王の御成りじゃ、跪くがよい!!」
バッと月が大剣を握り締め、零に向かって走り、斬りつけた。それを大剣で防ぐ零。
「それはこのアタシよ!!」
ギリギリと火花が散る。ガキンッ!と一度交わった大剣同士が離れ、再び交わる。大きな刃がジリジリと相手との間隔を詰めようとせまる。
「ツキ!帰ろう?オレ達みんなのとこに」
零がいつもの口調で言う。それに月はクスリと嗤い、大剣に力をこめる。
「“悪意”の帰る場所は崩壊した世界よ」
それに零は驚いたように目を見開いたがすぐに真剣な顔つきになり、こちらもとでもいうように大剣に力をこめる。
「ならば…力づくでも!!」
ガキンッと2人の大剣が両者の力によって弾かれる。一度、両者は距離を取り、相手の様子を伺う。先に走り出したのは零だ。バッと月との間合いを一気に詰めると右足で彼女の足を足払いした。が月はなんとか耐えると大剣を零の右肩に叩きつけた。キィン…という甲高い音と大剣から月の手元にビリビリと振動が伝わる。零の“覚醒”姿はほぼ全身鎧。防御は万全で傷一つ右肩にはつかない。
月はとっさに身を引き、少し離れたところから零に向かって大剣を振り回した。零はそれを大剣を縦にして防ぐと積極的に月に迫り、攻撃した。月も零に迫り、攻撃し、再び両者は交わる。
「くっ」
「うっ…」
力強い大剣の攻撃に2人は苦痛を漏らす。ビリビリと振動する。
刃が離れてはまた交差し、力をぶつけ合う。何度も何度も繰り返す。
と零が足で月の腹を蹴ろうと一歩下がった。それに月は驚き、前のめりになる。そこに一撃、加えようとする。が
「へ?」
目の前にいたはずの月が突然消えた。そう、突然に。零は驚いて長くなり結ばれた髪を揺らしながら周りを見回す。どこにもいない。何処に行った?!
「こっちよ?」
「?!」
頭上から声がした。頭上を見上げてみると豪華なシャンデリアから月が零に向かって落下して来ていた。きっと、さっき上へ跳躍し、シャンデリアに移ると零の様子を伺い、今仕掛けてきたのだろう。
零は驚き固まってしまった。そこへ容赦ない月の大剣がせまる。零の近くに突き刺さった大剣は床を砕き、石つぶてを彼女に食らわせる。零はそれらから身を守るために大剣で顔を隠す。月がニヤッと嗤い、鎧に守られていない鳩尾を蹴った。そしてそのまま回し蹴りを放ち、階段のところへ飛ばす。ドゴンッ!と音がして砂煙が舞う。砂煙が晴れるとそこには苦痛を浮かべた零が崩れた階段の瓦礫の中に倒れていた。大剣は近くにあったが月が素早く彼女の元にいくと大剣を遠くに蹴った。そして頭を大剣を持っていない片方で掴み上げる。
「アンタ、弱すぎなぁい?鎧がないところくらい把握してなさいよ」
「……うる…せい…」
痛みで歪んだ顔で零が言う。それに月が嗤い、ゲシッと腹を蹴った。零が痛みで呻き、血を吐き出した。
「グハ……ッ」
「フフフ…最初の強気は何処に行ったのかしら?無様ねぇ…」
フフフと零を嘲笑う月。零にトドメを刺そうと大剣の柄を握り締めた。
『やめてよ!』
突然、頭に響いた自分に似た少女の声。
アンタは誰?止めないでよ。
『やめてやめて!アタシはこんなことしないもん!あなたもしないもん!』
何言ってんの?うるさいわね。とっとと失せなさいよ!
『やだやだ!……ねぇホントにわかんないの?見えないの?』
何が…?
月はそこで零を見た。突然止まった彼女を心配する零は国民を、愛し子を、心配そうに見るまさに女王様だった。
「っ…!」
「?ツキ?」
『あなたもわかってるし見えてるんでしょ?』
声の意図なんか知らない。アタシは“悪意”よ。惑わされないわよ?
『見えないフリしちゃダメなんだよ?あなただって愛してもらったんだから』
アタシが愛された?コイツに?……違う、違う違う違う違う違う!!!
『思い出してよ、ねぇ』
零に誰か達の面影が重なる。誰?アタシが知ってる人なのかしら?
面影は零にスゥ…と溶けた。
『思い出して、あなた自身のこと、あの人達のこと!』
頭が、痛い。ガンガンと硬い物で叩かれているみたいに!!
『ねっ?ニミューミ・フェルキタン・ノーレアン』
月が零から手を外し、その手で頭を押さえ出した。痛いようで「痛い…痛い…」とつぶやいている。
「…ツキ?」
「……痛い……痛いわ、レイ……ネェ…早く、アタシを……始末…して?」
泣きそうな顔で言う月。それに零は口を引き締め、がんばって立ち上がると大剣の所まで歩き、大剣を構える。
「嗚呼、待ってろ…今すぐに、助け出すからな…!」
と月が頭を押さえるのをやめ、さっきよりも凄まじいほどの殺気を漂わせた。そしてその手に大剣を握り締め、バッと零の真ん前に躍り出ると大剣を振った。それを大剣でガードする。ギリギリと力任せの押し合いを始める。両者ともに五分五分のようだ。
「フフフ…えい!」
「?!」
ガンッと大剣が振り切られ、零が弾かれる。足を使いなんとか飛ばされずに済んだ。と月が零の懐めがけて走り込んで来た。
『『さあ、我らが託した子を止めて』』
頭に響く2つの声。この声は自分の前世だ。
言われなくても分かっておる!
「“止めよ”」
月の目を見て、感情を支配して零が言霊を発する。金色をした言霊が月に襲いかかり、彼女の体に蛇のように巻きつき止めた。月は驚きながら言霊を外そうと大剣を振り回したりしてもがいている。
零は月に近づくとそのまま大剣を振り回し月を飛ばす。そのおかげで言霊から解放された月だったが彼女はさっきまで零が倒れていた所にぶつかり、倒れこんだ。彼女の大剣は飛ばされた拍子に空中を高く舞い、ズサッと彼女から遠い所の床に突き刺さった。
「……フフフ…レイ……トドメを…」
月は痛いのにも関わらず、零に向かって安らかな顔で微笑む。零は月にゆっくりと近づきながら言う。
「我が言の葉が紡ぎし言霊よ、哀れな迷い子を救いたまえ」
零の言葉を聞き、白と黄色をした言霊がゆらりゆらりと彼女の周りを舞い、そして大剣にまとわりつく。
そして月の前へと来た零。月はずっと頭を押さえて、「早く……早く…」と呟き続けている。
零は決心する。大剣の柄を握り締め、言霊がまとわりつく大剣を振り上げる。真剣な顔つきで真剣な瞳で。
「……“救え”」
そして何かを悟ったような月に大剣を振り下ろした。
ーーーー続きは書かれていない。次のページを捲る
もう少し!もう少しで終わる!…予定です!
一応、終わるんですけど緊急事態起きた時に備えて予定で。…ちゃんと終わりますよ!
次回は水曜を予定しています。




