第40戦:復讐心が導いた日
憤怒の罪、雪とみんながした行動の話。
「…さて、どうするか」
光が晴れ、目を開けた雪はメガネをクイッと上に上げる。
彼がいるには城塞跡地。何年、いや何十年前までは立派に立っていたであろう城塞は見る形も無くなっており、所々に残骸らしきものが残っているだけだ。空は夜空だというのに星と月の光のおかげで明るい。
「……本当にどうしようか」
雪は近くにあった平らな石に腰掛ける。
ージャリー
誰が歩み寄る音に雪は顔を向ける。その音の正体に思わず笑みがこぼれる。
「久しぶりだな、元気か?」
雪の問いに音の正体…人物は肩をすくめて言った。
「ええ、元気ですよ。私に限らず皆様元気です」
人物のその答えに雪はホッとしたようにクスリと笑う。少し高い、声変わりがまだ済んでいない青年のような声を響かせた人物は彼に近づく。
「復讐心に囚われた誰かと戦ったりするんじゃないかと内心、ヒヤヒヤしていた」
「良かったですね。戦うこともなくて」
「…まぁ、な」
雪はメガネを外して夜空を見上げる。雪はメガネなしでも周りを見ることができる。ちょっと足りない視力をメガネで補っているだけだ。人物も釣られて夜空を見上げる。
「……あいつは?」
「今は檻の中です。中で戦っています」
「そう」
「……………可笑しな人ですね。自分で引き寄せたでしょうに(ボソッ」
人物は雪に聞こえないように言った。案の定、雪には聞こえていないらしい。
『堕ちた魂は〜♪光にも闇にもなれない〜♪』
『行方を知り〜♪また、微笑むのは〜♪』
何処からか聞こえてくる2つの歌声に雪は言う。
「鎮魂歌か……」
雪は立ち上がり、人物に近づく。とメガネを落とし、両腕を広げる。
「早く殺ってくれ。生きすぎた悪意も一緒に葬れ」
それに人物は鼻で嗤う。
「ホント、あなたは憤怒ですね」
人物の影が人ではないものに変わっていく。その獣は雪を見据える。
昔、大昔に憤怒は復讐という変な公式が人間達の中で出来上がっていた。皮肉なモノだ。だが、正すことも憤怒することもなかった。すでに『復讐相手』に分類されていたのかも知れない。それが人間達かそれとも自分自身かも知らない。死ぬことがないのだからゆっくりでいいと思った。そう……死ぬことができない憤怒だからな。
初めての大罪人は路地裏に住む貧乏人。そいつが憤怒したかったのは血の繋がらない両親。日々が過ぎるたびにそいつの憤怒は増し、それを受けて人間の体を器にした。大罪人の憤怒のままに憤怒を爆発させて殺しまくった。大罪人も嫌いな両親も大好きだった友人達も殺しまくった。そして大罪人は殺された。憤怒という名の復讐に踊らせられて……まるで憤怒のようなことをして大罪人は息を止めた。
まるで憤怒のように息を止めた。そう、止めた。二度と、息を吸うことはなかった。二度と会うことはない初めて憤怒を……自分を我が『神』とあいつら以外で見つけてくれた人間。やっとそこで自分は気づいた。あいつらが、何故、意志のか。
何故、傲慢が仇に宿ろうとしたのか。
何故、強欲が仇を生かしたのか。
何故、怠惰が器に提案を持ちかけたのか。
何故、色欲が相手を殺さなかったのか。
何故、憂鬱が“約束”を交わしたのか。
何故、愛憎が大罪人を生まれ変わらせたのか。
何故、暴食が自分のように行動したのか。
何故、自分が魔法を手にしたのか。
(もう、遅すぎた。あの時、もう少し……運命を探すべきだった…)
運命を探して見つけた先にあるのは見えないし聞こえない。ただ、何かを感じるだけで。
皆が移した行動の理由も自分が魔法を手にした理由も随分前に分かっていて。
もう、いい。
さぁ、この悪意を殺してくれ。
獣が雪に牙を剥く。そしてーーーーーー
『お帰り、憤怒』
『ーーーただいま、大罪人』
ーーーー続きは書かれていない。次のページを捲る
次回の予定は一応、金曜です。




