第27戦:イレギュラーと幻の九つ目Ⅱ〜消えた踊り子〜
昔の話を致しましょう。
ある一人の踊り子が自らの意志で『精神世界』という世にも不思議な世界へ身を投げた。踊り子にはもう、使命がなかった。自らがするべき踊りの意味が見出せなかったのだ。
踊り子は元の世界では自分の主人の友人を探すためだけに造られた模造品だった。それを知ってもなお踊り子は主人のために主人の友人を探し出した。そこまでは良かった、良かったのだが……踊り子は外の世界に魅了されてしまった。そして何より、主人の友人と親友になってしまったのだ。
ちょうどと言えばいいかいなや、その友人はあることがきっかけで魂だけになっていた。その抜け殻を埋めるように別の人格が入っていた。そのため、その人格と主人の友人が和解するまで踊り子はそこに留まり、その人格を見守る役目が回って来たのだ。
踊り子は内心、嬉しかった。まだこの、素晴らしい世界にいられる。それに、初めてできた親友とも一緒にいられる。
だが、その幸福は糸も簡単に崩れ落ちることになる。
「………え?…」
親友となったその人格は踊り子がいない間に暴力を受け、瀕死の状態になっていたのだ。
『貸せ。俺がやらないとあいつも戻れなくなる』
頭に響く主人の声は焦っていた。踊り子も、自分も何かしたかった。でも無理だった。なぜなら、踊り子の体は踊り子の物であって違ったからだ。踊り子が使っていたのは主人の体でただ自分は人格体として表に出ていただけだったのだから。
その後、主人の友人は元に戻り、人格とも和解した。踊り子と親友になった人格は踊り子を探した。何処にもいなくなってしまったから。でも見つからない。何故って踊り子は『精神世界』に身を投げたから。
だから踊り子は『精神世界』で独り、踊り続けた。独り、自分の意味を見出すために。独り、主人のために。
「独り、夢を見る」
愛憎は窓から外を眺める拓真と咲を見る。
ここに来るのが嫌だと言いながら満更でもない様子の咲。それもそのはずだ。咲はずっとここにいたのだから。
「んでここに来た意図は?」
拓真が一つの机の上に腰掛けながら言った。咲はその隣の机に腰掛ける。
愛憎は慣れない口を動かし、言葉を紡ぐ。
「………かく…にん…した、い……こ…と……が……あ…る」
確認したいことがある、彼はそう言った。拓真も咲も思い当たる節はない。一体、なにを確認するというのか。
「何を確認すんだ?」
咲が聞く。と愛憎は真剣な顔付きで言う。
「………イレギュ、ラー……と……して……融、合…し……チ、カラ…に…なれる…か?」
「「?!」」
嗚呼、ついにやって来てしまったか。ついに、この時が。
“イレギュラー”、拓真と咲は『神』達からそう呼ばれている。何故なら、造られた人格体だから。幻の九つ目、愛憎の罪に造られた模造品だから。
「嗚呼、俺はいいz「なんで」?咲?」
拓真のセリフを遮る咲。拓真は俯く咲の元へ机から降りて近づいた。
「咲?」
「……なんで…なんで今なんだよ」
咲は震えていた。何に対する震えかは拓真には分からなかった。
「大丈夫だよ。融合っつても二度と出れないわけじゃねぇし」
「それはお前だろ!!」
咲が叫び、机から降りた。拓真は驚いた。咲はあまり大声で叫ぶような奴ではない。でも今は何かに怯えている。キッとこちらに向けられた瞳が辛うじてその恐怖を軽減しているようだった。
「お前はいつでも出れるからいいだろうけど、俺は違う!俺は……」
嗚呼、そうか。咲は怖いんだ。俺と違って本体の許可ともう一つ条件が合わないと出て来れないから。融合したらまた独り、取り残されるんじゃないかって、怖いんだ。
「大丈夫だよ咲。独りになんてしないから」
笑って言う拓真の言葉に咲の顔が歪む。驚きと嬉しさの両方が合い重なって歪んでいく顔。
(ホント、お前ら…)
愛憎はクスリと笑う。
「…きま…った……か?」
愛憎が2人に聞く。
咲は拓真の言葉で何かを決心したようで顔は晴れ晴れとしていた。
「「嗚呼」」
2人の答えに愛憎は頷き、左手に拳銃を出現させた。そしていつの間に持ったのか右手の中には金色の銃弾があった。それを拳銃に詰める愛憎。
「それは?」
拓真が聞くと愛憎はこう、答えた。
「……憂鬱……に…作って、も…らっ……た…」
ガタタッと危なさそうな音を立てながら教卓を支えにして立ち上がる愛憎。何をするのだろうと2人が首を傾げていると、ガチャッと拳銃を2人に向けた。驚く2人を尻目に愛憎は言う。
「………Are you ready?」
ーバンッ!ー
これ書いてて思ったこと、「アレ?これこいつらも依存系になってる?」
まぁいいか←おい
大丈夫ですよこれで大丈夫……うん。
次回の投稿は……がんばって水曜か木曜です。が明日からまた一週間忙しくなるのです。すみません。




