第銃荷話 勇気と無謀。
ヨウシ・ミクニ
カヤエの父。41歳で、その容姿は余りにも怖い。通りすがる人は誰しも思うだろう。
「あぁ。あれが本当のヤクザなんだな」と。
きっとこの世界に警察が居たならば警察でさえ逃げる程の怖さだ。
銃を持っていても引き金を引く勇気はないだろう。
戦闘能力は未知数で、ゲームの世界で一度スペシャルイベントでミクニと対決したことがある。
結果は惨敗。俺がどんなスキルや能力、アイテムを駆使しても勝てなかった。
レベルは250を超えていたのにもだ。
彼の武器はセイクリッドソードで、俺が前に使っていた伝説の剣だ。
持ち主に影響を及ぼす自分以外の存在が使うスキルの無効化、魔法攻撃特化、状態異常無効、それらの最強とも言える能力を備えている。
その能力は俺が一番使っていたため、熟知している。
つまり、ミクニはゲームではよくある、「負けて当然」のキャラなのだ。
勝っても負けても、ストーリー的には負けてしまう事になっているアレだ。
とはいっても、このキャラに勝つ事はほぼ不可能。
しかもミクニが大会に出るなんて設定は聞いたことがない。
そもそもそんな設定があるのかどうかさえ疑問だ。
ちなみに防具はというと、
スガダマスの器一式…
なんとこの防具、魔王を倒し、その素材を使うコトで作ることのできる、超入手困難な防具で、
防御力や能力は製作者一同お墨付き。俺もそのうちに入る。
スカダマスの器一式の能力は、ズバリ、物理攻撃ダメージ半減だ。
防具に能力が付いているのは珍しい事で、レアアイテムにしか付かない。
ウラのルロイ装備もその内の一つと言えるだろう。
話が長くなった。
結論を言おう。
俺たちに勝ち目は、無い!!
「無理ゲーだな」
ポロッと出た言葉、無理ゲー。いや、本当にそうだ。この状況でこの装備でこのレベルだぞ。
いくらカヤエがいるからとは言え勝てるはずが無い。
「無理ゲー…ですか?」
別に反応しなくても良い所に限って素早く反応する…カヤエの悪い所と言えよう。
「勝てない戦だってこと」
勇気と無謀は違う。希望と願望は違う。勝ち戦と負け戦は違う。
「解りませんよ。そんなこと。私は期待していますよ。父の、平伏す姿が見れるのを」
フッ、と笑う。
俺にとっては笑い事じゃない。
というか、父親が負けるとこが見たいって言う娘を俺は初めて見た。
これは負け戦だ…
それでも、それでもやるしかないだろう!ここまで来たら!
「カヤエの全力にも期待してるからな」
力を込めて言うと、それに答えるようにカヤエも力を込めて
「必ず期待に添えますよ」
と、自信があるように言いつつも、アンテナは不安がっていた。
「もし勝ったら俺にまた、尻尾を触らせてくれよな」
俺は冗談半分で言ったつもりだったのだが、カヤエに冗談は通じなかった。
それゆえに
「え、あ、べ、別に大丈夫ですよ!?」
かなり動揺させてしまった。
このやり取りに反応して、経馬っていたウラが起き上がってきて、
「またって何ですか」とか、「ヨシさんは尻尾が好きなんですか?」とか、
「私にも尻尾があれば…」とか、「猫耳…買いに行こう…」とか。
最後のは、どうかと思うが、案外悪くないかも…じゃなくて。
もう何て言えばいいの?アレだな。ストーカーだな。
ストーカーみたいにしつこい。
カヤエは質問攻めをするウラに対して睨みつけると、ウラはビクッと反応して引き下がった。
「それでは、行きましょうか」
今のカヤエが笑っている様に見えたのは俺だけだろうか…
俺はそんなカヤエの頭を撫でながら、
「あんま無茶すんなよ」とだけ言っておいた。
そして俺たちは第三バトル場と書かれたドアを開けて、ボクシングで言う、リングに入っていく。
「やはりカヤエだったか!フハハ!楽しみであるな?」
「ええ、そうですね。しかし、私は負けませんよ?今回は彼がいますから」
その一言で、俺が倒すみたいな感じになっちゃったし。
何かめっちゃ睨んでくるし。怖いし。チビりそうだし。やめて、その目。
「カヤエ…そんなに期待しないでくれよ」
俺は、ヤル気の無いオーラを全開にしてカヤエに訴えたが、感じなかったのか、それとも無視したのか
「貴方の実力は確かなものです。自信を持ってください」
何故か励まされた。それに今の会話でかなり反応した男がいた。ミクニだ。
「お、お前!」
俺に指を差しながら叫ぶミクニ。
「俺が何かあります?」
「ウチの娘と、ど、どんな関係なのだ!?確かに今、呼び捨てで!」
あ、そういえば呼び捨てでしかも下の名前で呼ぶのは確か、夫ぐらいだったか?
別に夫でもなければ彼氏でもないのだが…
「私の夫です。ね、貴方?」
急に態度を変えて俺の手に両手で巻きついてくるカヤエ。
「な、ななな、何だと!?私の許可もなく籍を入れた…だと!?」
どんどん動揺していくミクニ。カヤエが動揺しやすいのは親譲りだな。
…そうか!
カヤエがいきなり態度を変えた理由が今はっきりわかった。
このミクニの異常な程の動揺を利用して勝つ、ということか!
それなら、話が早い。
「そうだ。カヤエ、帰ったらまた尻尾触らせてくれよ」
「はい、貴方」
俺たちのワザとらしいやり取りにもミクニは異常に反応する。
「し、尻尾までも!!」
しかし、俺たちはやり過ぎてしまったのか、激昂に完全に触れ、
「貴様は!このヨウシ・ミクニが成敗する!娘を貴様などに渡さん!」
逆に強くなった気がした。
そして遂に気を使ったアナウンスが流れる。
《……大丈夫でしょうか?……で、ではでは、気を取り直してぇ?試合開始!》
試合が開始される。ミクニが怒りに力を任せ、真っ先に俺の方に走り、
もう一人はカヤエに向かって攻撃を開始する。もう一人は正直強い相手ではないので、すぐに倒されるだろう。
ミクニはセイクリッドソードを俺に届かない距離にも関わらず、振り下ろす。
セイクリッドソードの攻撃技や攻撃範囲は熟知している。この技はゴーストソードと言う技で、
魔力を少し剣に込めながら振ることにより、目に見えないが、実際に当たった時と同じダメージを与えることのできるゴーストソードが、
振り下ろした地点の少し前に流れるのだ。
俺はその攻撃範囲を難なく避け、間髪を入れずにバックシールドを使い、一旦距離を置く。
セイクリッドソードには単発攻撃はない。つまり、ある技を使えば、続けて技が使えない、というのは無いのだ。
よって、このような単発攻撃がないため続けて技を出すことが可能なのだ。
一度の攻撃を避けただけで安心してはいけない。
「ほぅ?あの攻撃を避け、更に次の攻撃を警戒するとは…娘がおっ…いや、き、貴様。中々やるな」
俺がカヤエの夫だとは認めたくないようだ。別に夫ではないんだけどね。
俺はミクニの攻撃パターンを知らないため、相手の攻撃に備えることができない。
唯一、セイクリッドソードの攻撃するときの予兆が解るのだが、
それは振りかぶった時にしか解らないため、ギリギリの判断が必要だ。
とりあえず様子を伺おう。
どうせ、「なんだ?来ないのか?ではこちらから行くぞ」とか言ってくるので、それまで待つ。
そして、
「なんだ?来ないのか?ではこちらから行くぞ」
期待通りの言葉が来た。言葉通りにミクニが走ってくる。
周りに影響を及ぼすスキルは無効化されているため、空間停止スキルなどは使用不可。
バックシールド等のみである。
ミクニは既に手前まで来ていた。そして振りかぶる。
あれは…練武の舞か。俺は即座に見極め簡単に避けて、バックシールドで距離をとる。
一旦カヤエの方を見ると、丁度決着がついたみたいだ。
これなら二対一だ。数では有利。
「流石は我が娘だ。だが、数で私を倒すなぞは不可能なことだ!」
カヤエの方へミクニが走っていく。
俺は絶妙な距離を保ちながらミクニを追いかける。
「貴方は下がっていてください!私が行きます!」
カヤエがミクニに切りに掛かる。セイクリッドソードとカヤエの愛刀がぶつかり、ガキィィン!と金属音が響く。
「ふん!その程度か!」
セイクリッドソードは大剣の部類に入り、まずカヤエが短刀で斬り合った時点で可笑しいくらいだったが、
今弾き飛ばされた。
弾き飛ばされ、間もなくセイクリッドソードが振り下ろされる…
「バックシールド!」
俺が真っ先にカヤエの前に立ち、ダマソードで受け止める。
「ふん!その程度で…何ッ!?」
ミクニの剣が弾かれた。
俺が「剣刀離れ」を使ったのだ。これはスキルではある。しかしよく考えてみてもらいたい。
セイクリッドソードは、あくまで持ち主に影響を与えるスキルを無効にする。しかしこのスキルは剣自体に使った。
このスキルは剣に持ち主から卒業させるスキルなのだ。
簡単に言うと…
ある男がいるとしよう。
その男は会社をクビにされ、家にこもってしまった。仕事もせずにひたすら家でネットを…
そこに登場したのが就職サイト。無職の者を就職させるサイト。
男はそのサイトの援助があり、遂に無職を卒業。今じゃあエリート中のエリートとなった。
このエピソードに出てくる「サイト」が剣刀離れスキルとなり、
「男」がセイクリッドソードとなり、「ネット」が持ち主となる。
このスキルは、カヤエの父イベントでは使用不可だったが、今は使える。
無駄に長く説明してしまったが、まあそういう事だ。
「くそッ!」
ミクニが弾き飛ばされたセイクリッドソードを直ぐに拾い上げようとする…が、また弾き飛ばされる。剣によって。
「何故だ!?」
困惑の色を隠せない。ミクニはオドオドし始めた。
「卒業したんだよ。もうその剣を使うことはできない」
俺が簡単に説明すると、何故か信じてもらい
「私が…武器無しで弱いとでも?」
ミクニから凄い気迫を感じる。危険なオーラが漂ってくる。
「うおおおお!!!」
ミクニが叫ぶと地響きが鳴り始める…
「な、何だ?なにが始まった?」
俺は今まで、剣を使ってないミクニの戦う姿を見たことがない。
するとカヤエが
「貴方はとんでもないことをしました…私達に勝ち目はありません…」
声のトーンが下がり、目を下に落としている。
「何があるんだよ!カヤエ!」
地響きの音が次第に大きくなっていく。
「貴方は知らないのですか!?父が昔、魔王狩りに出掛けた時のことを!」
話の途中で黙っていたミクニが口を開く…
「私を、ここまで追い詰めたのは…貴様が二番目だな…」
追い詰めた…と言っても、武器を使えなくさせただけなのだが…
すると右手を開き、その上で赤く輝く物が見えた、
俺は咄嗟に危険だと判断し、バックシールドでその場から離れる。
しかしその瞬間。大きな爆発が起き、カヤエに直撃する。カヤエは声も出さずに、その場でノックアウト。
「…よく避けたものだ…いや?その様子だと、偶然かな?」
くそっ!足の震えが止まらない…このままだと…確実に負ける!!
俺の目に、先程弾き飛ばされたセイクリッドソードが目に入る…
「…そうか!!」
「何かに気づいたみたいだな?ふんっ!しかしもう終わりだ!
最終奥義!はぁぁぁぁあ!」
何か最終奥義と呼ぶものを発動するために魔力を貯める…あの様子だと、30秒と言った所か。
今の隙に斬りかかっても構わないが、防具のおかげで、物理攻撃ダメージが半減されているため勝つ見込みは少ない。
それならば…
俺はバックシールド+1でセイクリッドソードを拾い上げ、カヤエの腰にある愛刀を抜き、そして…
「終わりだ!最終奥義!エクストロア…」
ミクニが最後の言葉を言い終える前に、俺は空間停止スキルを使った…
ノロウィルスと、インフルエンザの併発した作者ですが、死……じゃなくて、復活しました。
お医者様には
「外に出るな。」と言われ、小説を書こうにも、おぇっとしてしまい、集中できませんでした。本当きつかった。人生で一番きつかった。うん。本当。
ノロの唯一の救いは、発熱温度が低いことなのですが、インフルエンザとの併発により40度超えの熱が…
ムカついたので徳川十五代将軍を覚えましたね。
お医者様は
「基本的にノロウイルスの併発はリバースする際にインフルエンザ菌も出てしまうので、大丈夫でしょう。」
大丈夫ではありませんでした。
今となっては……ですね。
やっぱり、賞味期限切れのプリンを…
いやいや、牛乳を…
ま、皆さんは私の様にならないように体調管理に気をつけてください…