第39話 踏破の代償――ギルドの呼び出しと三日の猶予
迷宮の最奥を踏破し、ボスを撃破した三人は、帰還路をたどってセスカンリェラスの街へと戻ってきた。
長い探索だった。
時間の感覚は曖昧だが、体の疲労は正直だ。装備は無事でも、精神的な消耗は確実に積み重なっている。
それでも――
「……終わった」
アイリスがぽつりと呟く。
「だなぁ」
ガルドが大きく伸びをする。
「……お風呂」
リーナが小さく言う。
三人とも、今すぐにでも休みたかった。
だが――
「……あれ」
アイリスが視線を上げる。
街の門をくぐった瞬間から、妙な視線を感じていた。
そして、それは気のせいではなかった。
「おい、あれ……」
「戻ってきたぞ……!」
「本当に踏破したって話、マジかよ……!」
ざわめき。
冒険者たちの視線が一斉に集まる。
明らかに“何かを知っている”反応だった。
「……嫌な予感しかしねぇな」
ガルドが顔をしかめる。
その予感は、すぐに的中する。
「お前たち!」
背後から声が飛ぶ。
振り向くと、冒険者ギルドの職員が数人、こちらへ向かってきていた。
「ギルドまで来てもらう!」
「……やっぱりか」
ガルドが小さくため息をつく。
アイリスは特に驚く様子もなく、頷いた。
「分かった」
拒否する理由はない。
三人はそのまま、半ば“連行される”形でギルドへと向かうことになった。
ギルド内はいつも以上に騒がしかった。
三人が入った瞬間、空気が変わる。
視線。
ざわめき。
そして――
「ギルドマスターを呼べ!」
職員の一人が叫ぶ。
「……大事になってるな」
ガルドがぼそりと呟く。
「当然」
アイリスは淡々としている。
「踏破、初」
「そうだけどよ……」
リーナは周囲を静かに見渡していた。
やがて、奥の扉が開く。
現れたのは、重厚な雰囲気を纏った男――ギルドマスターだった。
「……お前たちか」
低い声。
鋭い視線。
三人を一瞥する。
「ダンジョンを踏破したというのは、本当か?」
「本当」
アイリスが即答する。
無駄な言葉はない。
ギルドマスターはしばらく沈黙し、そして小さく息を吐いた。
「……信じられんが、状況証拠は揃っている」
「証拠?」
ガルドが聞き返す。
「最奥の魔力反応が消失している。ボスの再出現も確認されていない」
つまり、外部からも“踏破”が確認されているということだ。
「それに――」
ギルドマスターの視線が、アイリスの方へ向く。
「お前たちの持ち帰った品だ」
アイリスは無言でアイテムボックスを開く。
取り出されるのは、ボスドロップの装備や素材。
そして――金塊。
「……なるほどな」
ギルドマスターが低く唸る。
「間違いない」
周囲の職員たちもざわつく。
「本当にやりやがった……」
「三人だけで……?」
だが、話はここで終わらない。
「踏破報酬について話がある」
ギルドマスターが言う。
「それと、持ち帰ったドロップ品の買取だ」
「……やっぱり来たか」
ガルドが苦笑する。
当然の流れだ。
ダンジョン踏破は大きな功績であり、報酬も莫大になる。
さらに、持ち帰った素材や装備も高額で取引される。
だが――
アイリスは少しだけ考えた。
そして、口を開く。
「……三日後」
「何?」
ギルドマスターが眉をひそめる。
「三日後にする」
「理由は?」
「疲れてる」
即答だった。
ガルドが吹き出しそうになるのをこらえる。
リーナも静かに頷く。
「……限界」
それは嘘ではない。
長期間の探索。高密度の戦闘。集中の連続。
体はまだ動くが、万全とは言えない。
ギルドマスターはしばらく三人を見つめ――
そして、ため息をついた。
「……いいだろう」
「いいのかよ」
ガルドが思わず言う。
「無理に話を進めても、正確な判断はできん」
現実的な判断だった。
「三日後、改めて話し合いを行う」
「了解」
アイリスが頷く。
「それまでに、内容を整理しておけ」
「する」
話は決まった。
拍子抜けするほど、あっさりと。
「では、今日は解散だ」
ギルドマスターが手を振る。
三人はその場を後にする。
ギルドを出ると、外の空気がやけに軽く感じられた。
「……終わったな」
ガルドが大きく息を吐く。
「……まだ」
リーナが言う。
「三日後」
「そうだけどよ」
今はそれどころではない。
「とりあえず――」
「宿」
アイリスが即答する。
三人はそのまま宿へと向かう。
街の喧騒が遠くに感じられる。
扉を開け、部屋に入る。
荷物を下ろす。
そして――
「……休む」
アイリスがその場に座り込む。
「だな」
ガルドもベッドに倒れ込む。
「……お風呂」
リーナが最後に呟く。
緊張が解ける。
体の力が抜ける。
長い探索の終わり。
そして、束の間の休息。
三日後には、また大きな話が待っている。
だが今は――
ただ、休む。
三人は静かに、深い眠りへと落ちていくのだった。




