第28話 運命の調味料――味噌と醤油と味醂の再会
翌朝。
酒盛りの余韻を引きずりつつも、三人はしっかりと目を覚ましていた。
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「……ちょっと頭重い」
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珍しく、アイリスがぼそりと呟く。
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「飲みすぎだ」
ガルドが呆れたように言う。
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「お前、自分で増やした酒だろうが」
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「効率よく飲んだだけ」
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「効率ってなんだよ……」
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リーナはすでに支度を終えている。
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「今日は?」
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「買い出し」
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アイリスは即答した。
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「ダンジョンにこもる前に、食材を補充する」
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「携帯食じゃなくていいのか?」
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「ダンジョンで料理するから不要」
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「相変わらずだな……」
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三人は街の市場へと向かう。
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セスカンリェラスの市場は広い。
露店が所狭しと並び、野菜、果物、肉、魚、香辛料など、あらゆる食材が揃っている。
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「……いい匂い」
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リーナが小さく呟く。
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「焼き物か」
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「あと香辛料」
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ガルドが周囲を見渡す。
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「さて、何買う?」
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「とりあえず野菜と肉」
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アイリスは迷いなく進む。
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露店で新鮮な野菜を手に取り、品質を確認する。
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「これ、いい」
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手に取っては――
アイテムボックスへ。
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「……それ、店主にバレてないか?」
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「払ってるから大丈夫」
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「いや、そういう問題じゃねぇ気もするが……」
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次に肉。
そして香辛料。
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「……ん?」
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ふと、足が止まる。
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「どうした?」
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ガルドが覗き込む。
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アイリスの視線の先。
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そこには、小さな露店があった。
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他と違って、目立たない。
むしろ“気づかれにくい”場所にある。
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「……これ」
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棚に並べられた瓶。
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茶色い液体。
黒い液体。
そして、淡い黄金色の液体。
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その匂いが、ふわりと漂う。
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「……嘘」
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アイリスの目が、明らかに変わる。
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「どうした?」
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ガルドが首を傾げる。
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だが、アイリスは答えない。
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ゆっくりと、その瓶を手に取る。
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蓋を開ける。
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香り。
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その瞬間。
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「……醤油」
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「しょうゆ?」
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ガルドが聞き返す。
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次に、もう一つ。
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ペースト状のもの。
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「……味噌」
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そして――
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甘い香りの液体。
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「……味醂」
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アイリスはしばらく動かなかった。
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「……知ってるのか?」
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「うん」
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短く答える。
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「これ、最高の調味料」
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「へぇ……」
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ガルドが瓶を覗き込む。
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「そんなにか?」
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「そんなに」
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断言。
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リーナも興味を持ったように覗き込む。
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「使う?」
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「絶対使う」
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迷いなし。
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アイリスは店主に声をかける。
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「これ、全部ください」
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「おお、嬢ちゃん分かるねぇ」
店主がにやりと笑う。
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「最近入ったばかりの珍品だ」
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「どこから?」
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「東の方だな。異国の調味料らしい」
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「……やっぱり」
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アイリスは確信する。
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(プレイヤー製)
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ゲーム時代。
料理スキルを極めたプレイヤーたちが作り出した品。
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「全部、買う」
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「毎度あり!」
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大量購入。
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もちろん――
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アイテムボックスへ。
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「……で、それそんなにすごいのか?」
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「夜、分かる」
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アイリスは小さく笑った。
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その夜。
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三人は宿の一室で、簡易的な調理を始める。
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鍋。
火。
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そして――
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味噌。
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「まずはこれ」
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味噌を溶く。
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香りが広がる。
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「……いい匂い」
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リーナが呟く。
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「スープ?」
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「味噌汁」
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具材を入れる。
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完成。
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「はい」
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三人で口にする。
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一口。
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「……っ!」
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ガルドが目を見開く。
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「なんだこれ……!」
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「うまい」
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リーナも短く評価する。
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「でしょ」
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アイリスは満足げに頷く。
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次に――
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醤油。
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肉を焼き、醤油をかける。
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ジュッ、と音が鳴る。
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香ばしい匂い。
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「……やばいなこれ」
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一口。
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「……うまっ!」
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ガルドが叫ぶ。
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「今までの肉と違う!」
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「当然」
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最後に――
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味醂。
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甘辛いタレを作る。
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肉に絡める。
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「これも……」
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一口。
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「……反則だろ」
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三人は無言で食べ続ける。
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ただ、美味しい。
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それだけで十分だった。
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「……これ、やばい」
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ガルドがぽつりと呟く。
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「戦闘より感動してる」
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「分かる」
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リーナも頷く。
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アイリスは静かに笑う。
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ゴミスキルと呼ばれた力。
それは、戦いだけではない。
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食も、楽しみも、すべてを広げる。
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そして少女は――
新たな“美食の冒険”へと踏み出すのだった。




