第27話 レベル200の余裕と偽報告
セスカンリェラスの街は、今日も賑わっていた。
冒険者たちが行き交い、露店が並び、喧騒が絶えない。
だが、その中でもひときわ異質な三人組がいた。
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「……終わったね」
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軽く言ったのは、アイリス・アルベール。
その口調はいつも通り淡々としているが、その内容はまったく“普通”ではない。
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「終わった、じゃねぇだろ……」
ガルドが肩を回しながら苦笑する。
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「お前、自分たちのレベル見てみろ」
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アイリスは視界の端にあるステータスを確認する。
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「……200」
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「“突破”してるぞ」
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「うん」
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あっさりとした返答。
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「うん、じゃねぇよ……」
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リーナが静かに呟く。
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「異常」
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「そう?」
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「そう」
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短いやり取り。
だが、その内容は事実だった。
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パーティレベル200。
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それは、この世界において“伝説級”の領域。
通常プレイヤーでは到達不可能とされる数値。
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だが――
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「まあ、効率良かったしね」
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アイリスは何でもないことのように言う。
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「穴場狩り、バグ、ボーナスクエスト、全部使ったし」
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「全部アウト寄りだな……」
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「仕様の範囲内」
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「いや、絶対違う」
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そんな会話をしながら、三人は冒険者ギルドへと向かう。
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巨大な建物。
中に入ると、多くの冒険者が行き交っている。
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「……で、どう報告する?」
ガルドが小声で聞く。
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「普通に」
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「普通ってなんだよ」
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「普通に“倒しました”って」
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「いやいやいや」
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ガルドが慌てる。
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「内容が普通じゃねぇだろ!」
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「全部言ったら面倒」
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「それはそうだが……」
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リーナが口を開く。
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「誤魔化す」
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「そう、それ」
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アイリスは頷く。
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三人は受付へと向かう。
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「依頼達成の報告をお願いします」
受付嬢が丁寧に対応する。
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「はい」
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アイリスが前に出る。
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「遺跡の調査依頼、完了しました」
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「詳細をお願いします」
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その言葉に、一瞬だけ沈黙。
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そして――
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「……魔物が多かったです」
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「はい」
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「あと、奥に強い個体がいました」
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「はい」
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「それを倒しました」
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「……はい?」
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受付嬢が固まる。
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「それで終わりです」
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「……」
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明らかに納得していない顔。
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「討伐証明などは?」
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「あります」
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アイリスはアイテムボックスから素材を取り出す。
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大量。
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明らかに“異常な量”。
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「……え?」
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受付嬢が目を見開く。
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「全部、その“強い個体”のものですか?」
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「はい」
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「……」
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沈黙。
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「……確認しますので、少々お待ちください」
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受付嬢が奥へと消える。
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「……大丈夫か?」
ガルドが小声で聞く。
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「大丈夫」
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「根拠は?」
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「面倒だから追及されない」
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「雑すぎるだろ……」
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しばらくして、奥からギルド職員が出てくる。
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そして――
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「……確認しました」
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明らかに困惑している顔。
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「依頼は達成と認めます」
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「よし」
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「報酬をお受け取りください」
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金貨が渡される。
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「……いいのか、これ」
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「いいの」
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あっさり。
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三人はギルドを後にする。
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「……なんとかなったな」
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「でしょ」
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アイリスは軽く笑う。
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「じゃあ」
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足を止める。
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「飲む?」
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「……は?」
ガルドが目を瞬かせる。
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「酒」
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「急だな!」
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「いい」
リーナが即答。
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「飲む」
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満場一致だった。
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三人は宿へと戻る。
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部屋に入ると、アイリスがアイテムボックスを開く。
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「これ」
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取り出されたのは――
瓶。
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見たことのないラベル。
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「……これが」
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「プレイヤー製の酒」
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以前ダンジョンで手に入れたもの。
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「これ、美味しいんだよね」
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「飲んだことあるのか?」
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「ゲーム時代に」
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「なるほどな……」
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アイリスは瓶を軽く振る。
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そして――
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出す。
戻す。
出す。
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「……あ?」
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瓶が増える。
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「おいおい……」
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「増やした」
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「分かるけどよ!」
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テーブルの上に、酒が並ぶ。
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一本。
二本。
三本。
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あっという間に山になる。
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「……無限かよ」
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「うん」
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リーナが静かにグラスを手に取る。
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「飲む」
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アイリスもグラスを用意する。
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「乾杯」
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「おう」
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三人でグラスを合わせる。
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カラン、と軽い音。
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一口。
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「……うまっ」
ガルドが驚く。
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「でしょ」
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「これ、やばいな」
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リーナも静かに頷く。
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「……良い」
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酒盛りが始まる。
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笑い声。
軽口。
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戦いの緊張から解放された、穏やかな時間。
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「……にしてもよ」
ガルドが酔い気味に言う。
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「レベル200って、どうすんだこれから」
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「普通に冒険」
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「普通ってなんだよ」
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「分からない」
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三人は笑う。
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賢者の石。
無限の酒。
規格外の力。
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それでも――
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今この瞬間は、ただの“楽しい時間”。
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ゴミスキルと呼ばれた力。
それは、世界を壊し、酒すら増やす。
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そして少女たちは――
次の冒険へ向けて、英気を養うのだった。




