18.グレゴリー視点
「そこで、だ。お前さんに一つ情報をやろう。わしはな、義賊と占いの館アリアも繋がっとるんじゃないかと疑っとる」
「占いの館? あの、王都内で人気の占い師ですよね?」
「そうだ」
1年も前から秘かに人気を博している占い師、という情報以上に知っていることはない。とにかくよく当たると有名で、身分を問わず占うことから、一般市民の評価も高いと聞く。
持っている情報が少ないせいでそれ以上の推測はできないが、何か疑わしいところがあったということなのか?
「完全にわしの勘だがな。何処かきな臭いのよ。義賊との繋がりを感じずには居れん、共通性を感じるのだ。勿論、疑っているだけで確信はないんだが」
勘、とは。また随分と、証明のしようのないものを言い出してきたな。だが、オークウッド卿の勘は馬鹿にならない。確証はなくとも、怪しいと言うからには何かあるのだろう。
聞けば、皇太子殿下も同じ疑いを抱いているそうだ。そして殿下は、今日占いの館に赴いているのだという。
「ちょっと待ってください! 疑っているのに、殿下をそんなところに行かせたのですか!?」
「真偽を確かめたいと言うもんでなぁ。まぁ、決断した後に護衛を頼むと言われたんで、止める間もなかったのよ」
何と無謀な……皇太子殿下も何を考えているんだか。殿下も、なりふりを構ってはいられないのだろう。やり方は違えども、殿下とて2年前の事件をどうにか解決したい気持ちは同じだから。
だからって、どいつもこいつも勝手なことをされては困るよ、まったく。
「なんで皆、そんな極端な方法ばかり……」
「まぁ、気持は分からんでもないさ。ブラッフォード公爵も必死なのだろう。正直、生きているだけも良かったと思わんとな」
ベアトリス嬢を失って、後を追っていてもおかしくはなかった。今あいつが生きていられるのは、復讐心に駆られているから。だとしたら俺は、その瞬間、奴の強行を止められるだろうか。
「正しくないやり方だとは言え、結果として奴が誰にも危害を加えていないなら、騎士の位を返上して領地で秘かに暮らせとわしなら説得するがなぁ」
「復讐を果たすまでが奴の目標なら、果たした後はどうなるんですか? 領地でひっそり暮らしてくれると思いますか?」
「愛を貫いて死ぬだろうな」
そんな簡単に結論を言わないで欲しい。現実になりそうだから。だが、本当にそうなり兼ねない。せめて、奴に心情変化でも起きようものならまだ望みはあるが。
「まぁ、今はそんなことを心配する必要はなかろう。復讐は半ばだ。時が来てからどうするべきか決めればいい」
「それだと遅くはないですか?」
「勿論、最悪の結果にならぬよう今から考えておく必要はあるだろう。だが、少なくともわし等には考える時間がある。それに、もしかしたら大きく事件が動くかもしれんだろ。皮肉なことにな」
確かに、現に後ろめたい連中がここに集まっているわけだしなぁ。しかし、彼等は何故オークウッド卿によってここに匿われることになったのか。王宮の外で秘かに行われていたであろうことを今の今まで知らなかった俺にとって、そこは大いなる疑問だ。
「あいつ等、どういう経緯でこんなところに閉じ込められることになったんですか?」
「おい、閉じ込めたわけじゃないぞ。助けてくれと手紙が来たり、人目も憚らず助けを乞われて、一時的な避難場所として連れて来たんだ。別の場所へ移動するまでの一時的な処置だ」
「人目も憚らずって、噂になっていたらセオドアの耳にも入るのでは?」
「いや、それはなかろう。ただ、その時わしと一緒にフォンクシー国の使節団の一員のフィッツジェラルド子爵が居ったのでな。帝国の一伯爵の恥ずかしい命乞いを見られてしまったんだが」
フィッツジェラルド子爵と言えば、秋の狩猟大会に初めて自国の皇太子殿下を遣わすというので、国交正常化の友好を深めるためにも治安面を確認しに使節団として派遣されてきた人物だったはず。そんな人物の前で狼狽した伯爵がオークウッド卿に縋りついていたら、驚き以上に不安になったことだろうな。
皇太子殿下を遣わすに値する安全性が担保できないと疑われても仕方がない。しかしオークウッド卿曰く、彼は特別それを問題視するつもりはないそうだ。
帝国内で起きている義賊の情報を知っても尚、自分達には無関係だろうと目を瞑るつもりだという。
「その言葉を信じるので?」
「信じるも何も、実際問題義賊の件は彼等には関係ないからな。ただ、2年前の事件を白日の下に晒したければ、帝国内だけでなく他国の人間も巻き込みたいだろうなぁとは思っとる」
「つまり、秋の狩猟大会で何か起きる、ということですか?」
「あの一件は帝国の恥でもあるが、それ以上に悪魔が介在しておる事件でもある。人類共通の問題だとしたら、打ってつけの好機だとは思わないか?」
では、初めから秋の狩猟大会が目当てだと? 信じられないことだが、有り得る。後夜祭の宴では、一般市民が宮殿に呼ばれるのだ。そこには王侯貴族と隣国の使者や商人など、数々の来賓がある。人類全土に知らしめるも同然だった。
まさか初めから、それが目的だったのか? セオドア、お前……
あいつが、どれ程ベアトリス嬢を愛していたのかは分かっている。彼女は、あいつにとってすべてだ。だからと言って、そこまでするというのか?
セオドアの決意の高さと覚悟。それは、一歩間違えれば反逆の咎で捕まり兼ねないものだ。勿論、アディントン男爵令嬢が悪魔の力を借りている以上、この問題は帝国内だけで解決できる問題ではなく、人類の問題として考えなければならないものではあるが。
大事になればなるだけ、あいつの首を絞めることになる。やはり、止めるべきなのではないか。
しかしオークウッド卿は、俺の考えを読んだ上で首を振る。
「皇帝陛下もご存じだ。その上で、奴の作戦に乗るおつもりだ」
「陛下が?」
それはもはや絶望的なのではないかと思ったが、オークウッド卿の真剣な表情からは最悪な状況だという意図は感じられない。
「贖罪だ。これが皇帝陛下の、贖罪なのだ」
だから策に乗るのだと、オークウッド卿は言った。何故、皇帝陛下がそんな? 陛下とて、弟夫婦と姪を失って悲しんでおられるではないか。それなのに、セオドアの怒りと悲しみに対して、こんな形で贖罪するというのか?
どうしてこんな風に、傷付け合わなければいけないのだろう。傷付いた者同士で、何故?
「反逆の意図がないことは明白よ。ただ、奴はベアトリスの敵を討ちたいのさ。目的が同じならば、後世に愚王と名が残ろうとも構わぬと、皇帝陛下は思っていらっしゃる」
当事者の決断に対してわしらは何もできぬよ、とオークウッド卿は肩を叩いた。本当に、それでいいのだろうか。本当に、俺達には何もできないのだろうか。
何か方法はないものかと考えるが、結局何もできないまま秋の狩猟大会の日は目前に迫ってくる。




