22 中途半端なエピローグみたいニャ。
「ワープゲートが使えないままだって?」
あれから森でリリカとナツミに合流して街へ戻った俺たちは、封鎖が解除された神殿に戻った神官によって、ジークフリードとドムが復活させられたのを見届けた。
そして夜が明けてその姿を太陽に晒した、血と肉片と子ガルムの死骸にまみれ、あちこちが破壊された街を見て途方にくれる住民と冒険者たちには悪いが、そのまま宿に戻って寝た。
宿の主人はそれどころでは無いという様子だったが、夜中から戦って疲れていたので、こちらもそれどころでは無かったのだ。
そのまま部屋で三人倒れる様に雑魚寝をした。
午後になって目を覚ました俺たちは、少々申し訳ない気持ちもしたが、モンスターの死骸を片付ける人々を横目にリックが復旧の指揮をとる神殿へとやって来て、その話を聞いた。
「ああ、神官が言うにはゲートは壊れていなくて機能は問題ないらしいんだが、どうもあっち側、ラレンティア王国とアステ帝国の神殿でゲートが封鎖されてるんじゃないかって話だ」
「それは困ったニャね。もしかして、あっちでもマサトみたいなのが悪さしてるのかニャ?」
「あんな自演自治厨が何人もこの世界に来てるとは思いたくないですけど、ありえない話じゃないですねえ」
正直、あんなのが何人もいたら気が滅入るので勘弁して欲しい。
その後、街の復興作業をただ見ているのも気が咎めるので手伝いを申し出たが、俺もリリカもナツミも全く役に立てず、居るだけ邪魔だと目で語る人々の視線に耐え切れず、すぐに退散する羽目になった。こういう建設的な事には全く向かない三人であった。
冒険者側で復興を指揮していたリックはすぐにマサトの消えた冒険者ギルドの代表として担ぎ上げられた。
レベルこそ低いが、下水道の整備の様な仕事も進んでやるリックはメンバー達からの信頼が厚く、兄貴肌故か人望もあったらしい。
街の人々の間ではあの夜に現れた機械の戦士や謎の全身鎧を着た人物の話が尾ひれを付けて飛び交ったが、ギルドの代表になったリックが誤魔化した。
「助けられたヤツが言うには、カシオペア座から来た宇宙人と名乗ってたらしい。だがマサトが複垢でチートしていたのを嗅ぎつけた運営が送り込んだ刺客かもしれねえ。この世界は解らねえ事だらけだが、変な気を起こさずに地道にやっていけばあんなのに狙われる事も無えはずだ」
悪さをする子供を怖がらせるオバケかよ。
もうちょっとマシな言い訳を考えて欲しかった。
そして姿を消したマサトの悪事も公にされ、謎の宇宙人に何処かへと連れ去られたと言う事になった。
まったくの的外れではないし、人々は一応納得した様なのでそう言う事にしておこう。
リリカの大魔法だと思っていた姫騎士エヴァンジェリンとその配下の数人の騎士たちも、大魔法使いリリカ様がこれ以上人々に恐れられるのを望まないと言ったら納得して口裏を合わせてくれたので多分大丈夫だろう。
そして、もう一人のマサトの分身である死霊術師はレールガンの衝撃によって跡形も残らなかったが、俺が撃ち殺したマサトの死体はリックとドムによって街の近くの高台に密かに埋葬された。
アーネスト王子はマサトに騙されていた事を悔やんだが、すぐにその事を振り切って、妹である姫騎士エヴァンジェリンと共に兵士達の復興作業の指揮を執っている。
民思いの善人という設定に偽りは無いようだ。
この分ならすぐにこの街は以前の姿か、それ以上のものを見せるだろう。
そして俺たち三人は、ワープゲートが封鎖されている原因を探るため、そして現実の世界に帰る方法を探すために、ラレンティア王国へと旅立つ事にした。
「ディアスに会えたらよろしく伝えてくれ。俺たちはいつまでも帰りを待ってるってな。あんた達も同じだ。街がこうなったのは仕方ねえが、丁度いい機会でもあるから区画整理をして俺たち冒険者の家を作るつもりだ。あんた達の家も作るから必ず帰って来てくれ」
リックはそう言って密着したドムと肩を抱き合いながら笑顔で見送ってくれた。
「僕も魔王を倒すために旅立ちたいけど、ギルドでまだレベルの低いプレイヤーの指導を任されちゃってね。結構可愛い子も居て…いやいや、君たちの事を忘れるわけじゃないよ? すぐにみんなを鍛えて後を追うから安心して僕を待っていてくれ!」
ジークフリードはまったく懲りていない様子で、俺たちよりも新しいパーティーの女の子が気になる様だった。その女の子には悪いが、出来ればそのまま俺たちの事は忘れて欲しい。
「そうか、この国を離れるのか…出来る事なら私も同行したいが、今私が城を開けるわけには行かぬ。リリカ殿、あなた達はこの国の恩人だ。何かあればいつでも私を頼ってくれ。必ずや力になろう」
「君達の様な少女が過酷な冒険の旅に出るのは私も気が重い。いつでもこの国に帰って来て良いのだ。無理はしないで欲しい。そしてクラリス、私は第一王子としてこの国を、君の様な可憐な少女が辛い思いをしなくてもいい、皆が幸せに暮らせる国へと変えて見せる。その時になったら、また私と会って欲しい」
姫騎士エヴァンジェリンとその兄、第一王子アーネストは、殆ど勘違いであるが大げさに別れを惜しんだ。
俺たちは城門をくぐり、街を出て歩き出す。
これから先、何が待ち受けているのかわからない冒険の旅へと。
「ニャんか、復興の役に立てニャいし、ロボで大暴れした手前居心地が悪いからほとぼりが冷めるまで街を離れるだけのつもりだったのに、急に終わる打ち切り漫画みたいになっちゃったニャあ。みんなそれっぽいこと言って、中途半端なエピローグみたいニャ」
「だからそう言う事言うなよ。あちこちモンスターの血と肉が残っててグロいから街に居たくないって言ったのお前だろ」
「でもみんな遥々遠くまで行くみたいに見送ってくれちゃって、なんか悪い事しましたねえ。そろそろ飛行機呼んでもいいんじゃないですか?」
「誰が見てるか解らないし、せっかくだからもうちょっと歩いて街から離れた所にしよう。エリカ、この先の北にある森の中の開けた所にハミングバードを降ろしてくれ」
『了解。ですがその原住生物を乗せるのは気が進みません。置いて行ってもよろしいのでは?』
「エリカにゃん酷いニャ! いいかげんリリカも宇宙軍少佐だって事を認めるニャ!」
「あ、あたしは大丈夫ですよねエリカさん!? 清く正しい少年エルフなんだからちゃんと飛行機に乗せてくれますよね!? ロボットの操縦だってリリカさんより上手かったでしょう!?」
『原住生物に宇宙軍の装備を使わせるのは原則として重大な禁止行為なんです! クルセイダーⅣ改を使わせたのは例外中の例外です! 猫耳! あなたが宇宙軍に籍を置いていた記録はエインフェリアのデータバンクにも何処にもありません! 長耳! あなたもちょっと歩行戦車の操縦が上手かったくらいで調子に乗らないでください!』
「まあまあ、現地まで運ぶくらいはいいだろ。どっかの監獄惑星で囚人を護送したミッションもあったし、似た様なもんだ。あと出来れば仲良くしてくれって言ったろ」
『むぅ…マスターはその原住生物達に甘すぎます。そいつらは気を付けないと、どんどん付け上がるタイプですよ』
「そんな事ないニャ! リリカはいつも大人しくて良い子だって言われてたニャ! 学校の成績だって悪くないのニャ!」
「あたしだってリアルじゃ、有坂さんはいつも居ないみたいに静かだねって評判だったんですよ!?」
何十年前のモノかわからない、子供の頃の事であろう話を持ち出して抗議する、そろそろ本格的に現実と設定の区別がつかなくなっている猫耳ツインテールパンチラメイドの中のオッサン。中高年のニートが子供の頃よく褒められた事に縋っているのは、見ていてとても辛い。
さらりと現実の寂しい境遇を漏らす瞬間沸騰女装ショタエルフの中のお姉さん。女性らしいので油断していたが、こちらも現実ではかなり孤独をこじらせ鬱屈しているらしい。おまけに多分腐っている。
この二人に比べれば俺は相当に人間ができた方だと思えるが、別のゲームのキャラクターとしてこのSBOの世界に転移してしまった、今はTS金髪美少女だ。人が集まる街にはあまり馴染めそうに無い。
仕方ないのでしばらくは放っていたらどこで何をしでかすか解らない、この社会不適合者二人の面倒をみてやろう。
「クラリスにゃん! 何をニヤニヤしてるニャ! また中のオッサンがエッチな事を考えてるニャ? 遅れてるニャよ!」
「もっと早く歩いてください! さっさと飛行機でラレンティアまで行きましょうよ!」
こんなのでも、一応この世界で出来た仲間だ。
俺はいつの間にか先を歩いていた二人を小走りで追った。
――――――――――
山岳地帯の合間にある鬱蒼とした深い森の中。
「はあっ、はあっ、畜生ッ…! なんでレベル230のオレがこんな目に合わなきゃならねえんだ…! おい! 遅えぞクロー! さっさと歩け!」
人目を避ける様に。
「うるせえッ! 回復魔法をかけても腕が治らねえんだよおッ! クソッ!クソッ!」
「もう街の連中がオレ達が逃げ出したのに気づいてる頃だ…早くラレンティアまで逃げ込まないとマズいぜ…」
「シュナイダー! まだラレンティアの領内に入らないの!? いつまでこんな所を歩くのよぉッ!?」
草木を掻き分けるように進む四人の男女の姿があった。
「うるせえオカマ野郎! テメエなんざ置いて来ても良かったんだ! 文句言ってねえでさっさと歩けぇッ!」
逃避行だというのに怒鳴り合いながらもしばらく進むと森を抜け、山間の小さな草原のような場所に出た。
「はあっ、ここまで来れば街の連中も追ってこないだろう…ラレンティアの領内まではまだ半分って所か…」
「おやおや、レベル230のパーティーともあろう人達が随分情けない有様だねえ」
少年が突然話しかけて来た。
いつの間に居たのか、最初からここに居たのか。
シュナイダーは森を出た時には人の居る気配など感じなかった。
「なんだテメエ! いつからそこに居た!?」
「このガキ、プレイヤーか?ナメやがって…! こっちはイラついてんだ! ブチ殺すぞ!」
シュナイダーに続いてクローディアも吠えたが少年は意に介さない。
「まだレベル230以上のプレイヤーは居ないみたいだね。ちょっとレベルキャップの条件を厳しくし過ぎたかな」
「何言ってやがんだ! 調子こいてんじゃねえぞクソガキが!」
「ゲームをやり込んでくれてたみたいで嬉しいけれど、中身の頭の方は出来が悪いみたいで残念だよ。ちゃんと相手をよく見て言葉を選んだ方が良いね」
「だから何余裕ブッこいて……」
シュナイダーが少年に掴みかかろうとしたが、後ろに居た二人が怯えた声でそれを遮った。
「そ、そいつ…! レ、レベル500…!?」
「ク…職業は…『神』……? な…何なんだこいつ…!? こいつもチートか…!?」
シュナイダーも愕然として少年を見た。
逆に少年は哀れむような目で四人を見ている。
「熟練プレイヤーには悪いけど、君たちみたいな頭が悪いのはすぐに場を乱すからね。退場してもらうよ……うん、殺すと神殿で復活するから面倒だな…こうしよう」
少年が目を閉じて何かを呟くと、シュナイダーの足元から急速に冷気を帯びて凍結し始めた。
焦って仲間を見回したが自分を含めた四人とも足元からどんどん凍結して行く。
「クロー! ユカリ! 凍結の魔法だ! 解除しろ!」
「で、出来ねえ! ディスペルもクリアも効かねえ! なんだこの魔法は!?」
抵抗虚しく、後ろに居た二人、ジャスティンとユカリが完全に凍結して氷の棺に覆われた。
「畜生! ふざけるな! オレはこんな所で…!」
程なくクローディアも同じ様に生きたまま氷に覆われ動かなくなった。
「アブソリュートコフィン。神官系がレベル300で覚える上位完全解除の魔法で解除できるよ。いつか出してもらえると良いね。もっとも、こんな所に来る人間自体が居るかどうか解らないけれど」
喋っている間に完全に氷に包まれたシュナイダーから目を離して、少年は空を見上げた。
「ガルムグリフを出現させて、それを倒したプレイヤーが居るのか…。どうやったのか知らないけれど、僕の世界でチートは…遠慮してもらいたいな」
その顔は笑みを浮かべていた。
――――――――――
切り立った崖に囲まれた入り江の入り口で、黄金の装飾で飾られた豪華な装束を身に纏った若い男が馬車から降りて数人の従者を従えて入り江に入る。
そこに足を踏み入れると周囲の景色が歪み、巨大な鉄の建造物が現れた。
「これがあの者の幻覚の結界か。これほど巨大な物を完全に覆い隠すとは、凄いものだな」
若い男が周囲を見回して言葉を漏らすと近くで地面に複雑な光の紋様が映し出され、そこから長いローブを纏いフードを目深に被った人物が現れる。
「これは皇帝陛下、このような辺鄙な場所によく来てくれた」
声も何らかの魔術カモフラージュされているのだろう。男か女かも判別がつかない。
「これの事が解ったと聞けば来ぬ訳にも行かないだろう。やはり南の、グランシール沖で空から降りて来たという物と同じなのか?」
「まったく同じという訳では無いようだが…近い物だ。内部で私の居た世界にある国の言葉の刻まれたプレートを見つけた。ねこねこ…ふざけた名前だが…SPACEFLEET…宇宙艦隊と書かれている」
「うちゅ…う…? ……艦隊と言う事は、これは船なのか!? こんな巨大な鉄の塊が!?」
「左様。さらに言えば海に浮かぶ船では無い。空を飛ぶ船だ。グランシール沖で目撃された物も、そうなのだろう。おそらくこれらは…私と同じ、私とは別の世界からの来訪者だ」
「……これが突然現れたあの日、何もかもが変わってしまった。そして貴公が現れた。私の知る世界はどうなってしまったのだ。考えると不安で堪らなくなる」
「そう不安がらずとも、これは壊れてはいるが、調べれば想像を絶する強大な力を得る事が出来よう。私の知識ならば可能だ」
「貴公が我が領内に現れてくれて本当に良かった。改めて頼む、どうか我々に力を貸してくれ」
「頭を上げてくれ、皇帝陛下。あなたの帝国と私の帝国、協力し合えば如何なる敵も打ち倒す事が出来る。この様な玩具も敵ではない。この大地全てにあなたと、そして私の名を轟かせよう」
アステ帝国皇帝、イオラオスⅧ世にはフードの人物が笑った様に見えた。
第一部 了
とりあえずこれにて第一部終了です。
ここまで読んでくださったあなた。本当にありがとうございました。
活動の励みになるので、お手数ではございますが評価、ご感想等頂ければ幸いです。




