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三十呪 最悪の過去

「……だから、いなくなったのか?」


 そんな風に辛く当たられて、苦しかったから。


 叶真は、そう理解しようとした。ならば、求磨が父親と姿を消した理由に説明が付けられるから。


 だが、違った。


 叶真の問いを聞いた途端、求磨の顔から表情が抜け落ちた。


「なるほどね。僕と父さんがキョウの前から姿を消したのを、そんな理由だと思ってたんだ。道理でそれほど捜されていないわけだ。納得したよ」


「違う……のか?」


「あはは、だったら良かったのにね」


 乾いた声で嗤った求磨は、左目を覆う眼帯をむしり取って投げ捨てた。


「っ……おま、それっ……!!」


 眼帯の下は、叶真の予想とは違うものがあった。


 目の周りを覆う酷い火傷の痕と、それにより開かなくなった目。左目の周りだけキレイに焼けている事から見て、事故なんかじゃない。


 これは、誰かが人為的にやったものだ。


「一年前のことだよ」


 過去を語る求磨の口調は、気味が悪いほど凪いでいた。


「僕は特別具合が悪くて、その日も学校に行けなかった」


 それは叶真も覚えている。学校に行く前には間違いなくいた求磨と父親は、叶真が家に帰った時にはもういなかったのだ。荷物の一つすら残さずに。


「僕が寝ている横で、父さんはいつものように内職をしていた。僕のことを一人で残して行くのは心配だって言ってね。僕は大丈夫だって言ったんだけど……父さんったら、心配性だから」


 昔からあれやこれやと叶真達兄弟のことを心配していた人だった。求磨の髪の色のことでいじめられたりしないかとか、二人はやっていけるんだろうかとか。

ただその中に貧乏でやっていけるかという心配も入っていたのに、なぜギャンブルを続けていたのかが不思議だった。もしかすると、二人の父親がギャンブル依存になってしまったのは、呪いが関係していたのかもしれなかい。


「お昼前くらい……だったかな。あの女が一人でやって来た。そして、こう言ったんだ。『今までごめんなさい。あの男の人は暴力を振るう人で、私も手酷くやられたの。やっと目が覚めたわ。それで求磨のことを治せそうなお医者様を見つけたの。だから、今から一緒に行かない?』ってね」


 嘘だ。


 叶真には、それが直感でわかった。あの横暴で自分のことだけを考え自分達を迫害して来た女が、改心なんてあり得ない、と。


 事実、その直感は間違っていなかった。


「今ならそれが嘘だってわかる。けど、その時の僕は高熱で朦朧としていたし、父さんはほら、お人好しだから」


 喋るのが苦手なタイプだったが、二人の父親は人が良かった。妙なギャンブル癖さえなければ、最高の父親だった。そんな父親が、母親からそんなことを言われればほいほい信じてついて行くのは火を見るよりも明らかだ。


「そして僕と父さんが連れて行かれた病院ってのは、廃病院だった。まだ建物自体は新しかったからパッと見はわからなかったけどね。何でも医療ミスで人を死なせたせいで潰れた病院らしいから」


 病院が見た目だけでもちゃんとやっているように見えたのも、母親であった女の策略だろう。いくら馬鹿でも、完全に廃病院に案内されれば自分が騙されていることに気付くはずだ。


「そこに連れて行かれた僕達が、何をされたと思う?」


「……」


 答えは、思いついていた。けれど、それは口に出すことが出来なかった。だってそれは、あってはならないことだから。


 叶真の答えを待たず、求磨は何があったかを告げた。


「僕は目玉を抉りだされかけ、父さんは事故に見せかけて殺されかけた」


 あまりにもサラリと告げられた凄惨な真実に、叶真は何も言えない。かける言葉がみつからない。


「なんか、僕の目玉は高く売れるんだって言ってたっけ。魔力がどうとか触媒がどうのって言ってたけど。まさかあの女が、僕達以外に魔法を知る者とパイプがあるだなんて知らなかったよ」


「嘘だろ……!? あいつそこまで……!?」


「嘘だったら良かったけどねぇ」


 飄々と肩を竦める求磨の心情を、叶真には読み取ることが出来ない。二人の間に横たわる時間と事実の溝は、計り知れないほど深かった。


「と言っても、僕は抉り出す下準備の段階で助けられたんだけどね。爛れているのは、その時施された魔法陣のせい。相性が悪かったらしくてさ。そして熱と痛みで気絶すら出来なかった僕を、父さんは魔法で助けてくれたんだ」


「相対距離を操る魔法でどうやって……?」


 叶真が知る父親の魔法は、それだけだった。自分とターゲットに定めたものの位置を広げたり縮めたりする。それだけのはずなのに。


「父さんはそれを応用した――と、言うか、別の使い方をした。父さんの魔法は距離だけでなく、移動させる速度も操れたのさ。そこの女の、テレポートに近い魔法だったみたいだね。と言っても、座標を移動させるんじゃなくて強引に吹っ飛ばす感じだから、ただの高速移動らしいけど」


 そんなこと、全然知らなかった。教えられていなかった。


「父さんはお人好しだけど、馬鹿じゃないからね。何かあった時のために、切り札を用意していたんだってさ。あの女がどこから情報を仕入れるか、わかったもんじゃないって、父さんも心のどこかでは思ってたんじゃないかな」


 叶真の茫然とした表情で何を思ったのか悟った求磨は、フォローなのかそんなことを言う。慰められているのか、それとも馬鹿にされているのかはわからなかった。昔なら、求磨の思ってることはすぐにわかったのに。


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