二十八呪 何かがおかしい
「くそ、どこ行った!?」
いくら捜し回っても、鈴音を見つけることは叶わなかった。すでに鈴音がいなくなってから、三時間が経過している。一向に見つからないのは、すでにテレポートを使い帰宅してしまったからか。
「けど、荷物はここにあるし……」
一度、鈴音が落ち着いて家に戻って来ていないかを確かめに戻った叶真は、部屋の隅に転がったままだったミニポーチを見つけたのだ。見つけたら渡そうとそれを持って捜しているのだが、成果は上がっていない。濡れないようにスーパーの袋に二重に入れられたそれをリュックのように背負った叶真はあちこちを捜しているのだが、有力な目撃情報すらないのだ。
と言っても叶真とヤの付く方々の関係はここいらでは有名なので、まともに取り合ってくれる人自体がほとんどいないと言う悲しい境遇であり、そっちは当てにならないのだけど。
「友達がいないって、こういう時困るよな……」
鈴音の行きそうな場所を知らないかと誰かに訊きたくても、まず知っているのは鈴音の両親くらいだろう。
友達がいないと人海戦術も不可能だ。だからと言って鈴音の両親に会おうにも、ここからではだいぶ時間がかかる。それに今から鈴音の家に行けば、間違いなく大事になってしまう。
鈴音の魔法からして事件に巻き込まれる恐れは低いのだが、それはそれ、これはこれ。本気で警察沙汰だ。そこまで大事になってしまえば、鈴音的に余計に出て来にくくなってしまう。
「ああもう! せめてあいつがケータイ持っててくれたら……!!」
鈴音に教わったケータイの番号は暗記してある。公衆電話でも見つければ未だに現役でテレカを使用している叶真でも、連絡が取れたかもしれないのだが、あいにくと叶真の家からはかなり離れたところにしかない。
「明日は休みか……んじゃ漫喫とかにでもいる? いやあいつ、そんなとこ入れるような奴じゃないだろうし、そもそも財布は俺が持ってるし……友達はいないから友達の家にも行けないし……となると、やっぱり帰ったってのが一番有力なんだけど……」
どうも、胸騒ぎがする。これを放置すれば、何かやばいことになりそうな予感がガンガンするのだ。
現在、叶真はいつも水を汲んでいるのとは違う、大きな公園にいる。そこは広い野原が広がる公園で、休日にはよくピクニックをする家族連れを見かける場所だ。叶真自身も、一度だけ家族で来た事がある。ただその時母親はどこにいたか覚えていないので、恐らくどこか他の男のところにでもいたのだろう。
叶真の家を中心に円を描くように捜索範囲を拡大しているのだが、まだ手掛かりは何もない。
「ここまで見つからないとなると、本気で一度鈴音の家に行く必要、が……」
辺りを見回した叶真の視界に、一瞬何かが引っかかった。野原の先の、森になっている部分。そこに、人影が見えたように思えたのだ。
走って森まで向かうと、奥の方に確かに人がいる。緑系統の服を着た、シルエットからして女。身長からみても、鈴音の可能性が高い。
「おーい! 蛇喰!!」
出せる限りの大声で鈴音に呼びかけるが、返事はない。人影はこの雨の中傘も差さず、ゆらゆらと妙な足取りで林の奥へ奥と進むばかりだ。
人影が鈴音かどうかを確かめるべく、叶真は大急ぎで奥へと向かった。
森の中は、足元がようやっと見えるほどの明るさしかない。
時刻は、午後三時。本来であれば夕暮れですらない時間なのだが、なにぶんこの雨だ。ただでさえ暗い森の中が余計に暗くなり、先はほとんど見えない。だがなぜか、鈴音の姿はハッキリと捉えられた。明るい色の服を着ているからだろうか。
人影を追い進むうちに、気づけば樹が少ない開けた場所に来ていた。そこの真ん中に、まるで待ち構えるかのように人影が佇んでいる。
「蛇喰?」
間違いなく鈴音だと確信して声をかけたのだが、やはり返事はない。聞こえていないのかと思い再度声をかけるも、反応はなかった。
おかしい。
ようやくそこで、叶真は鈴音の様子が普通ではないことに気付いた。もっと早く気づいても良さそうなものなのだが、鈴音を見失わないようにするので精一杯で、そこまで頭が回っていなかったのだ。
「蛇喰。聞こえているなら返事をしてくれ。頼む」
半ば懇願のように発されたその言葉に、鈴音が初めて反応を見せた。ぎしぎしと音がしそうな、油の切れたロボットに似た動きでゆっくりとこちらを向いたのだ。
「じゃば、み……!?」
振り向いた少女は、確かに鈴音だ。蛇喰鈴音。叶真の、唯一の友達。
だが、その少女は鈴音であっては鈴音でなかった。なぜならその少女の目は、血のように真っ赤な目で虚ろに宙を見、半開きになった口からはダラダラと涎を垂らしていたのだから。
「おい蛇喰、一体なにがっ……!?」
ぞわりとした悪寒に見舞われた叶真は、咄嗟に飛び退いた。同時に、それまで叶真のいた場所に木の枝が落ちる。それは投げられたものではない。ただ、存在する座標を書き換えられた。そんな現れ方。
それは、叶真が鈴音を怒らせてしまった時に見せられた、空間に割り込むテレポートで間違いなかった。
つまり鈴音は、叶真に向かって攻撃したのだ。




