二十一呪 最後の手段
「ラスト。どこか、もしくは誰か別口からお金を借りる」
「それはっ……!!」
叶真に、個人的に借金をしろと言う意味に他ならなかった。
憤慨しかける叶真に目で落ち着けと伝えながら、鈴音は言う。
「あれもだめ、これも嫌だじゃ世間はやっていけないわよ」
「わがままだってのはわかってる、けど!!」
「けどもなにもないの。あなたに選択肢があるとすれば、大人しくあんなやつらの言う事を聞いてお金を用意するか、抵抗するのに即刻警察に通報するかの二つなのよ。それ以外は存在しないわ。お金を用意出来なければ、最悪借金のカタに売られるまであり得るんじゃないの、あなた」
「……」
ぐうの音も出ないほど正論だった。鈴音の言う通り、あいつらなら平気で人身売買くらいするだろう。どこかの国に強制労働で連れて行かれるか、内臓を売らされるか。どっちに転ぼうと、最悪であることに変わりはない。生きて平穏な生活をすることは、不可能と言っていい。
「私は、直接は関係のない立場だから言えるのだろうけれど。あなたがやっていることは、自分で自分の首を絞めているのと変わらないのよ。今すぐ借金を放り出して警察に駆け込んだとしても、誰もあなたを責められないわ。それが当然なんだもの。
あなたにとっては大事な一線なのかもしれないけれど、他人から見ればつまらない意地よ。そんなもののために命を懸けるのはやめて。あなたがいなくなると、友達として寂しいのよ」
「……」
何も、言えない。鈴音の言葉がどこまでも正しいものだったからというのと同時に、友達だと宣言されて嬉しかったのもある。心中に渦巻く感情が複雑過ぎて、言葉に出来なかったのだ。
「それで。あなたは、どれを選ぶのかしら?」
反論する余地もないほど、はっきりと問われた。
ここまで言われてようやくわかったが、これが鈴音でなければきっととっくに叶真のことを見捨てていただろう。文句を言うだけ言って、自分のわがままだけ通そうとするやつのことなんて、付き合い切れないと早々に切り捨てて当然なのだ。
それでも鈴音は話を最後まできっちり聞いたうえで、更に妥当過ぎる解決策まで提示してくれた。普通、そんなことまでしてくれるやつなんていない。
だから叶真には、ちゃんと全部を解決する義務がある。
「どうにか、昼間の仕事回してもらうようにするよ」
考えた末に選んだのは、最も苦労する道だった。だって、これだけは叶真がほんの少し学校を休めば済む話なのだから。
叶真の答えを聞いた鈴音は、先ほどよりも深く嘆息した。そりゃあここまで言って、出た結論が意地でも返す、では呆れるのも当然だ。
「あなたって、どうしようもないわね。それとも、男子ってみんなそうなの?」
「いやどうだろ……世間一般的な男子との接点ほぼないからなぁ……」
唯一接点があった男子と言えば、兄しかいなかった。兄も兄で世間一般とは言い難い人間なのだ。求磨は虚弱体質だったため、叶真以上に他人との接点がなかったせいでもあるのだろう。
「……こんな質問をしておいてなんなのだけれど、私も世間一般的な女子のことを質問されても解答出来なかったわ」
難しい顔でそう言った鈴音もまた、女子とは接点がなかっただろう。なぜなら本人曰く、生涯で友達がいたことがないのだから。
二人とも微妙に気まずくなったが、お互いさまなのでそこについてはどちらも言及しなかった。代わりに、鈴音は真剣な顔で忠告する。
「それは、一時しのぎにしかならないわよ。いち高校生に、易々と返せるよう額じゃないのだから。下手をすれば自殺していてもおかしくない金額なのよ?」
「わかってるよ、それくらい。けどやっぱり、最初に借金なんてしやがったくそ親父の最低限の尻拭いだけはしてえんだよ。……それに」
「それに?」
「……借金が全部なくなってるってわかれば、親父達も戻って来てくれるかもしれねえだろ」
ぼそりと拗ねたように呟いた言葉こそが、叶真のこれまで誰にも言えなかった本心だった。
あれだけ迷惑をかけられ、死に掛けるような目に遭わされて。それでも、父親のことを恨んではいないのだ。
確かにどでかい借金を作った大馬鹿野郎だが、父親ずっと叶真のことも求磨のことも大切にしてくれた。お金がないのに、どうやったのか無理をして叶真と求磨にちゃんとランドセルも買ってくれたし、修学旅行にだって行くことが出来た。中学校の制服なんかも、ちゃんと全部。
普通の人達よりも倍は大変だったのに、それでもしっかり用意してくれたのだ。だから叶真も求磨も、父親のことが大好きだった。
叶真の、誰にも言えなかった心の奥底の言葉を聞いて。鈴音は、呆れたような顔で微笑んだ。
「まったく。変な人ね」
鈴音には、伝わったのかもしれなかった。叶真が言わなかったことを。若ハゲの呪いを解きたがる最大の理由が、解呪が出来ればすぐに父親に伝わるからだと言う事に。そうすれば、叶真が元気に生きていると、伝えられるかもしれないからと言う事に。




