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天空の村2・水の妖精  作者: シード
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第六話『空を追いかけて』‐②

 びゅぅん! びゅぅん!

 ラミアさんはわたしの周りを飛びまわっている。

「ミレイ、あいつにいってやれ!」

「くぉーっ(判りましたわ、ラミアさん)」

 ミレイはうなずくと、体あたりでもするかのような勢いでアリアへと接近。すれちがうさなか、声をかけた。

「くぉーっ!(アリア! 勝負でございますよぉ!)」

 ミレイの言葉に呼応するかのごとく、アリアはわたしに霊覚交信をかけてくる。

「くぉーっ?(やっていいか? やっていいだろう?)」

 もはや、やる気まんまん。実をいえば、わたしもうずうずしている。だけど、気にかけなきゃいけない人がひとり。

「あのぉ、マリアさん」

「はい、なんでしょう? フローラさん」

 口調から全然その気でないのが判る。

(困ったなぁ。でもまぁ、とりあえずは)

「アリアがね。どうやら、ミレイと戦いたがっているみたいなの。……いぃい?」

「だめです。私が荷物を手にしていることを忘れないでください」

 あっさりと断わられた。

「そうだよね……」

 わたしがアーガの身体をさすりながら、『あのね』といいかけた時、アリアはわたしの方へ少し顔を向けた。目の中には、あおき炎がめらめらと燃えている。

(ふぅ。しょうがない)

「マリアさん」「はい」

「もうだめみたい」「……」

 マリアさんはかくごをしたようだ。手さげ袋を、わたしのせなかと自分のおなかの間にはさみこんで、ぎゅぅっと、しがみついてくる。それを彼女からの『無言のりょうかい』とわたしは受けとめた。

(それにこれなら、ふり落とすこともないよね)

「アリア、好きなようにやっていいよ」

「くぉーっ(では、始めるぞ)」

 びゅぅん!

「おっ、やる気になったな。来い、フローラ! アリア!」

 ラミアさんの意志が完全にミレイとアリアに乗りうつったみたい。わたしたちはラミアさんへ引きよせられるかのように飛んでいく。

 聖竜アーガ、ミレイとアリアによる上空での追いかけっこが始まろうとしている。

「フローラ、あたいのミレイを追いこしてみな。そしたら、負けを認めてやるよ」

「判った。必ず追いぬいてみせる!」

 ラミアさんのちょうはつともとれる言葉に、わたしはすぐさま応じた。


「くぉーっ(やれやれ。やってもむだでございますのに)」

「くぉーっ(そうだな。ワタシが勝つのに決まっている)」

「くぉーっ! くぉーっ!

(あらっ。アリア、なにをおっしゃっていますの? 勝つのはアタシメ。病院の配達ぐらいしかおやりにならないあなたに、負けるはずなんてないじゃございませんの)」

「くぉーっ! くぉーっ!

(ミレイ。これは戦いだ。人や荷物の運ぱんではない。霊よくりゅうとしての能力が試されている。そんなことも判らないようでは、ワタシに勝つなど、とてもとても)」

「くぉーっ! くぉーっ!

(ずいぶんな口の利きようですこと、アリア。売られたけんか。買おうじゃありませんか。見ていなさい。ぐぅの音も出ないほど、引きはなしてさしあげますわ)」

「くぉーっ! くぉーっ!

(ミレイ。それはワタシも同じだ。あとで泣きっ面を拝ませてもらう)」

「くぉーっ!(なんですの! そのえらそうな口の利き方!)」

「くぉーっ!(お前こそ!)」


「ラミアさん。なんだか知らないけど、わたしたちよりミレイとアリアの方が盛りあがっているような気がするんだけど」

「さっきもいったようにこの二頭は同期だからな。しかも霊よくりゅうだ。きっと本能がそうさせるんじゃないか」

「なんか最初考えていたより、大変なことになりそう」

「まぁ、せいぜい、アリアにふり落とされないよう、しっかりとしがみついているんだな。

 じゃあ、そろそろ始めようか!」

 ラミアさんが手をあげる。

「ラミアさん、負けないよ!」

「あのぉ、私、荷物を……」

 マリアさんがなにかをうったえていたけど、もう、わたしたちの耳には入らない。

 一列に並んだミレイとアリアも、戦う気満々でおたがいを見つめている。もうこの流れはだれにもとめられない。

「よぉし。始めぇっ!」

 手がおろされたとたん、ミレイとアリアはいっせいに動きだす。

 上空での戦い。その火ぶたが、たった今、切っておとされた。


 ぎゅぅん! ぎゅぅん!

 もはや、びゅぅん、などというなまやさしい音ではない。速さと力強さをにじませた飛行音が大空に拡がる。

「ぎゃあああ!」

「どうだ、フローラ。速すぎてこわいんじゃないのか。悲鳴がこっちまで聞こえてきた」

「ラミアさん。今の、わたしじゃないよ」

「そうか、マリアのやつか。あいつって、あたいたちのように霊覚交信はできなかったな」

「大丈夫かなぁ」

「フローラ。他人の心配より、自分の心配をしな」

(ラミアさん……。すっかり、悪者みたいな言葉使いになっている)


 この勝負。先行したアーガが一定の時間、それをいじできれば勝ちとなる。もちろん、後方のアーガが勝つには追いぬかなきゃならない。

 わたしは空を飛んでいるうちに、ミレイとアリアの飛行速度が、そう変わらないことに気がついた。それでも最初に飛びだした分だけ、ミレイの方が先行している。アリアが追いこそうとしてもその行く手をさえぎり、二番手にあまんじさせられている。

(なんとかしなくちゃ)

 わたしは眼下に目を向けた。地面に大きな『きれつ』が走っていて、ずぅっと向こうまでつづいている。

(あの大きさ。アリアなら入るはず)

「アリア、行くよぉ!」

「くぉーっ!(判った!)」

 アリアは多くを語らずとも、たづなを持つ者の意図を正確に見ぬく。降下の姿勢へと転じた。

「な、なにぃ!」

 ラミアさんがおどろく間に、アリアは『きれつ』の中へと入る。姿勢をすぐさま正し、今まで以上の速さでミレイの下を通過する。

「くっそう! 先行されたかぁ!

 長時間の飛行と相手の妨害がミレイの十八番おはこ。だけど……、

 瞬間的に出せる速さは、アリアの方が上だってことを忘れていたぁっ!」

 わたしはラミアさんのくやしそうな言葉を霊覚交信で受けとめる。

(やったぁ。これで勝てるかも)

 わたしがそう思った矢先、今度はラミアさんも『きれつ』の中へと入り、ついげきを始めた。

(でも、これなら)

 きれつの中、そそり立つ二つの岩壁の間をアリアはくぐりぬけていく。ともすれば、赤茶けた岩はだにつばさがぶつかるきょうふにさらされながらも、ここならぬかれることはない、との安心感から、ただひたすら飛びつづけている。

(ラミアさんには悪いけど、あとしばらくしたら、勝利宣言して終わらせちゃえぇ)

 もう心は勝った気分でいた。ところが、霊覚をとおしてラミアさんから思わぬ言葉が。

「ふふっ。なぁ、フローラ。お前、この先がどうなっているか知っているのか?」

「えっ!」

 わたしは目をこらした。なんと、『きれつ』が先へ進むごとにせばまっている。

「ま、まずい!」

 高速で飛んでいる分、左右二つの断がい絶ぺきがくっつかんとする勢いは大きくなる。赤茶けた岩はだが、わたしを、いや、アリアをはさまんとばかりにせまってくる。

「あ、危ない!」

 わたしは思わずたづなを引き、アリアをじょうしょうさせる。当然、ラミアさんもそのあとにつづくと思っていた。

「えっ! そ、そんなぁ!」

 ラミアさんはミレイの巨体を縦にして、せまいすきまをとおりぬけていく。

「あんなことができるなんて……」

 わたしは勝負のとちゅうであるにもかかわらず、あ然としてしまう。

「くぉーっ(あれならワタシにもできる)」

「そうなの? じゃあ、あのまま飛んでも大丈夫だったってこと?」

「くぉーっ(一つ問題がある)」「なに?」

「くぉーっ、くぉーっ。

(乗り手がラミアさま以上の技量でもないかぎりは、まちがいなく、ふり落とされてしまう)」

「そうなったら?」

「くぉーっ!(乗り手の命はない!)」

「そうか。わたしじゃだめってことなのね」

「くぉーっ、くぉーっ(一か八かのかけになる。それでもやってみたいというなら)」

「やめておくよ」

「くぉーっ(うむ。けんめいな判断だ)」


 アリアはじょうしょうと姿勢せいぎょにかかった分、ミレイに先をこされてしまう。

「ふん。判っただろう、フローラ。あたいには勝てないってことが、さ」

『きれつ』は村のはしっこまでのびていた。ラミアさんはじょうしょうすることもなく、そのまま外へと飛びだす。

 ぎゅぅん!

 上方宙返りにつづいて横反転。姿勢を正して村の上空へともどるミレイ。進行方向にはアリアがいる。すでにアリアには折返しをさせているため、わたしが先行している形にはなっている。でも、ぬかれたままであるため、それではミレイよりも先んじていることにはならない。つまり、勝つ条件にあてはまらない。先行されるまで、じっと待つしかないのだ。

「お先にぃ!」

 ラミアさんの声とともに、ミレイがアリアのすぐ横を通過する。

(よぉし、行ったな。勝負はここからだ!)

「アリア!」

「くぉーっ!(判っている)」

 アリアが全力でミレイを追いかける。その最大瞬間速度にものをいわせ、ミレイと並ぶアリア。でもまだ、ほんのわずかにミレイが頭一つ先行している。

「アリア。このままぶっちぎってよ!」

「くぉーっ!(だめだ。ミレイが近すぎてぶつかってしまう!)」

 見ればミレイがゆらゆらと身体を左右に動かし、こちらの行く手をはばんでいる。

(これがミレイお得意の飛行妨害かぁ。アリアはもうじき減速しちゃうだろうし、一体どうしたら……)

 なやんでいるひまはない。今、必要なのは決断のみ。

(……よぉし。こうなれば)

 わたしはかけに出ることにした。アリアに直接語りかける。

「アリア、ぶつかるかくごでミレイに急接近して。ちょっとでもひるんですきができたら、その時が勝負。相手の身体すれすれに飛んで一気にとっぱするの。いぃい?」

「くぉーっ?(だが、ひるまなかったら?)」

「大丈夫。向こうはこちらを、『ど素人のあまちゃん』ぐらいにしか考えていない。そこに油断がある。必ずすきを見せてくる」

「くぉーっ……(フローラ、お前……)」

 本気でやるつもりか、といいたいらしい。もちろん、わたしの気持ちはすでに決まっている。

「ねぇ、アリア。やってみようよ。もちろん、危険がないとはいい切れない。でも、相手が勝つのをだまって見ているよりは、ずっといい!」

 アーガは乗り手の感情をもろに受ける霊体らしい。わたしの熱気というか、狂気が伝わったみたい。しんちょうなはずのアリアがこうふんし始めている。

「くぉーっ!(判った。このまま負けるわけにはいかない!)」

 作戦開始! そして……ものの見事に功を奏した。

「くぉーっ!(あ、危のうでございます!)」

 不意をつかれたようにミレイが失速、身体をわずかにしずませる。

(勝利への道が開けたぁ!)

 にぎりしめたこぶしに思わず力が入る。ぶつかったら、あるいは、けがをしたら、と思わないでもない。でもそれ以上に。

(勝ちたい。勝ってアリアと喜びを分かちあいたい)

 ここをとっぱすれば願いはかなう。それだけ判ればそれでいい。

「アリア、行けぇ!」

「くぉーっ!(いうにおよばず!)」

 わたしとアリアの心は今、ひとつに。

「勝ってみせる! 必ず!」


「ラミアにゃんとフローラにゃん。アリアにゃんとミレイにゃん。人もよくりゅうも、つまるところは、戦いをほっする生きものなのにゃろうか?」

「生きものはだれでも、じゃない? 

『自分はほかのものよりもつねに上でありたい』

 そんな願望をうちに秘めているのだと思うわん」

「ミーにゃんも?」

「えっ。アタシ?

 うぅぅん。どうかなぁ。今まで考えたこともないわん。ねぇ、ミアンは?」

「ウチも、にゃ。ふつうのねこだった時はあったような気がするのにゃけれども、化け猫になった今はもう、そういうのとは『えん』のない暮らしをしてきた気がするのにゃん」

「まっ。生きものそれぞれ、ってことでいいんじゃない。だれもが『こうじゃなけりゃいけない』っていう世の中は、きゅうくつで仕方がないもの」

「ミーにゃんもいいことをいうのにゃ。うんにゃ。ウチらはウチらなりの生き方をしようにゃん」

「賛成!」

「あのぉ、すみません」

「ネイルにゃん。どうしたのにゃ?」

「本当。なんだか暗い顔をしているわん」

「なんか話がつまらなくて……。もうちょっと、おもしろくできませんか?」

「といわれてもにゃあ」

「ミアン。ネイルさんのお願いだし、やれるだけのことはやってみようよ」

「それもそうにゃん。では、ミーにゃん。さっそく打ちあわせを」

「始めるわん」

 ごにょごにょ。ごにょごにょ。

「これでいいのにゃん?」

「ばっちし、だわん。じゃあ、ミアン。始めよぉ」

「うんにゃ」


「フローラにゃんとラミアにゃんの対決にゃあ!

 すごいにゃあ! わくわくにゃん。つづきも楽しみにゃあ!」

「アリアとミレイの対決でもあるわん! どきどきだわん。これは見のがせないわん!」

「どちらも負けるにゃあ!」「どちらも勝ってぇ、だわん!」


「……とまぁ、こんなもんでいいのにゃん?」

「ネイルさん。お気にめした?」

「しくしく。たのまない方が……よかったかもしれません。しくしく」

「にゃんと!」「うっそぉ、だわん!」



「さぁ、ミーにゃん。お待たせしたのにゃん。いよいよ話はかきょうに。

『ミーにゃん帝国の野望』第二話。わくわくどきどきの展開を見のがすにゃあ!」


「ミーナさん。そちゃではありますが、どうぞ」

「ネイルさん。つつしんでいただくわん」

 ごくごくっ。

「ああ、おいしいわん。ネイルさん。結構なおてまえでしたわん」

「ほめていただき、きょうえつしごくです。お茶菓子などもつまみませんか?」

「できれば飲んでいる間に、もらいたかったわん」

「これはこれは。僕としたことが気がつきませんで。大変申しわけありません」

「まっ。これだったら、あとから食べてもおいしいけどね」

 もぐもぐもぐ。

「うん。やっぱりアタシの上品なお口にあうわん」

「では、僕もごしょうばんにあずからせてもらいますか」

 もぐもぐもぐ。

「確かに。お茶菓子としてこれ以上のものはありませんね」

「アタシもそう思うわん。ふふっ」

「ははっ」


「ふにゃああ! ウチをさしおいて、なに二体ふたりで、おいしいものにぱくついているのにゃあ!」

「ミアン、残念でした。全部食べちゃったわん。ほら」

 ぺろり。すっからかんかん。

「にゃ、にゃんと! ネ、ネイルにゃん。もちろん、ウチの分はとって」

「ないんですよ。すみません」

 ががぁぁん!

「どうして? どうしてなのにゃん。どうして、こんにゃむごいしうちをウチに」

「どうして? って聞かれても困るわん。『ミーにゃん帝国の野望』なんてどうしようもないお話を始めたミアンに同情する余地なんて、これっぽっちもないわん」

「そうですよ。僕の出番をあっさりと切ってしまったミアンさんが、なにを期待しているのです? さっぱり判りません」

「そんにゃあ……。

 判ったのにゃん。『ミーにゃん帝国の野望』は、お話の内容を大はばに変えるので許してほしいのにゃん」

「どんな風に? だわん」

「話のとちゅうだし、それをいうわけにはいかないのにゃけれども……。

 きっとミーにゃんのかつやくがあるようにするのにゃん。それにネイルにゃんにも特別参加してもらって、いい役をあげるのにゃよ。にゃから、きげんをなおしてもらえないものにゃろうか?」

「ふぅぅん。どうする? ネイルさん」

「ああまでいってくださるのですから、ここはひとつ、ミアンさんの顔を立てることにしてみませんか?」

「それもそうね。じゃあ、ミアン。話をつづけてもかまわないわん」

「お茶菓子はもうありませんけどね」

「うっ! ネイルにゃん。本当に……本当になにもないのにゃん?」

「ええと……、あっ、こんなところに別皿がひとつ」

「ふふっ。ネイルさんったら、ちゃんととってあったのね」

「ネイルにゃん……」

 うるうる。うるうる。

「あ、ありがとうにゃん」

「では、お茶もどうぞ」

「いただきますにゃん!」

 ごくごく。むしゃむしゃ。ごくごく。むしゃむしゃ。

「うんにゃ。このお茶とお茶菓子の組みあわせはいつ食べても最高にゃん」

「それで? ミアン。お話はどうするの?」

「次回でいいのにゃん。あせってしゃべるほどの話でもにゃいし」

「あのね……。自分でそれをいってどうするの? っていいたいわん」


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